私の中では「好きすぎる」部類に入り(好きなマンガまとめでも★5を付けています)、名言オンパレードなので語りだすときりがないのだけれどできるかぎり簡潔に。
アニメーターになったよ。夢がかなったよ。
誰かに見せるために絵を描いているよ。
誰か…誰かって?
私を知っている人からは笑われて、知らない人には無視される。
毎日毎日反応のない井戸に絵を投げ込んでいる。
本当に観てくれているのかどうか確かめるすべもなく
アニメーター志望の兄妹が田舎から状況してきて、
①まず環境最悪で閉鎖的なアニメスタジオでの動画マンからスタートして、
②アニメの技術以前に、人間関係での軋轢による消耗やアニメ業界への絶望を味わいながら、
③それでもアニメを諦めずに踏ん張り続けた結果
④ある縁をきっかけにステップアップを果たしようやくアニメがお仕事だと言えるようになる話。
アニメを仕事にできることの素晴らしさがわかるとともに
アニメを(一生続けていける)仕事と胸を張って言えるようになるまでのハードルがあまりに高すぎることも同時に伝わる作品。
労働環境面の問題と、クリエイターとして食っていけるようになることの両面でしんどい仕事だな、と。
全7巻のうち4巻までは最悪な環境で最悪な人たちに囲まれ、それしか知らずに仕事をする描写が続くため本当に地獄。人間的な生活は出来ず、徹底的に奴隷根性を植え付けられ、モデルとなる人間もまともな指導もなく、アニメーターとして何も成長できず喜びを実感できることもなくただ搾取され続けるだけ。その環境から解放されても、劣悪な環境に慣らされすぎて、自分に自信も持てず他の人の笑顔に怯えしばらく自分がなにをしたいかわからない状態になっている。ブラック企業まじこわい。
ただ、そこからアニメというのは「非常に自由度が高い」=逆に「自分でどうなりたいか決めて動ける」ことが求められることを悟り恥をかきながらも勇気を出して自分の力量では難しいような仕事にも果敢に挑戦していくことで道が開けていく。もちろん、その過程は前半とは違った意味で自己否定が連続する地獄であり、アニメで生きるというのはこれほど過酷なのかと思い知らされる。
先へ進めと誰かが言う。自分もそうしたい。
だけど無理した大きい一歩は足場が揺らぐ。
いっそ戻ろうか。横に倒れようか。座り込もうか。
挑戦をうまく経験にできる人間ばかりじゃないんだ。
好きなアニメがうちを責める。アニメが追い詰めてくる。
苦しむために描いているの? 誰にみせたくて描いてるの?
前半だけではなく後半でさえも、主人公は何度も何度も希望を見出しては挫折し、立ち止まる。そして、自分の周りで力尽きて倒れていく人も何人も現れる。それでも、後半は支えてくれるひとがいて、立ち止まるたびに何とか「自分なりの」答えを出して一歩ずつ進んでいくことができる。
アニメ好きな人だけでなく、自分が好きな世界があるとか自分の腕に自信があるとかで、フリーランスとして独立して食っていこうとする人に一番刺さる作品だと思っています。
アニメーターは、仕事なのか
アニメーターは仕事じゃなくて趣味なんだから給料低くても文句言うなと主張するサラリーマン - Togetter
こういう記事が有りましたが、「会社勤め」の人からすると少し違和感を感じる働き方であるように思います。
あくまでこの漫画の話ですが、確かにアニメーター側もあまり雇用というものがしっくりきていない様子
やめるってどういうことなんかねぇ
会社辞めるゆうてもアニメーターのほとんどがフリーじゃしのぉ
うちらも「このスタジオにおると決めた人」でしかないがぁ
給料でもないしなぁ 入社ゆうても契約書もないし
仕事と机を用意してもらう代わりにマージンを取られる約束というか
雇用形態が実際のところどうなってるのかはわからないのですが
アニメーター側の感覚としては少なくとも会社勤めではない、ということなんでしょうかね。
あまり雇用されているという感覚は持っていないようです。そりゃ契約書も無いんじゃなぁ…。ただの出入り業者やが。
アニメ制作スタジオの雇用って法律契約上はどうなってるのかは気になるので
詳しい人がいたら、是非「この本やらこの資料やら読め!」とか教えていただけると嬉しいな。
人と作品で選ぶか。会社で選ぶか。
フリーなんだから「違った」と思えば移ればいいんだよ
そこらへん自由なんだから
「○○○技師」と名のつく手に職系の人も、いろんな職場を渡り歩くイメージがあるけれど、それと一緒で、職場をテンテンとしながらステップアップしていく感じか(ただしこの場合も各職場で雇用される労働者という扱いにはなります)
仕事の情報を集めて、自分で手を上げて、実績を元に自分でその仕事を取りに行って、その仕事をちゃんと仕上げたらだんだん向こうから依頼されるようになっていくという感じなのでしょう。SHIROBAKOで瀬川さんが「アニメーターにとって、仕事一つ一つが名刺代わり」って言ってたのよく分かる。よほどちゃんとした技術がないと私のように営業力がないコミュ障には務まらなさそう……。
とにかく、サラリーマンと比べると、職場へのコミットはゆるいのは間違いない。それが「フリー」「自営業」「請負契約」などのイメージに結びついているようです。
感覚的にはフリーであったとしても法律的にはアニメーターは「自営業者」とはみなさず「労働者」の立場に属します
ただ、これは野暮な話だとは思うのだけれどスタジオで、会社による指示系統の下で勤務の場合は、どちらにせよ労働者としての保護対象です。本当に基本中の基本なので、もし労働問題について言及したいならせめてこの3つだけは押さえてください。
労働基準法第9条 - Wikibooks
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000xgbw-att/2r9852000000xgi8.pdf
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
判例(東京高裁平14.7.11 新宿労基署長事件)
http://www.jil.go.jp/rodoqa/kikaku-qa/hanrei/data/093.html
「労働基準法第9条の「労働者」に当たるか否かは、雇用、請負等の法形式にかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務の提供と評価するにふさわしいものであるかどうかによって判断すべきものである。そして、実際の使用従属関係の有無については、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、支払われる報酬の性格・額、使用者とされる者と労働者とされる者との間における具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、時間的及び場所的拘束性の有無・程度、労務提供の代替性の有無、業務用機材等の適用の有無、公租などの公的負担関係、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。
労働基準法第27条
http://www.mlit.go.jp/common/000037109.pdf
「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない」
歩合給制度が採用されている場合には、労働時間に応じ、固定的給与と併せて通常の賃金の6割以上の賃金が保障されるよう保障給を定めるものとする
一般的にフリーという認識を持たれているカメラマンでさえ判例においては労働者とみなされます。まして、フリーどころか長時間スタジオに拘束されて監督指示の対象になっているアニメーターはすき家アルバイトの例でもそうなんだけど「請負契約」やら「自営業者」扱いは無理がありますよね。
当然最低賃金の対象であり、たとえ歩合制にしても最低賃金の6割は保証されると法律および判例で決まっています。この大前提すっぽかしちゃう人は、いくら意見を言っても議論を後退させるだけで有害だし無意味です。
この作品で特に好きな言葉
基本的につらいのに耐えて耐えて、耐えきれなくて絶望して一度は去って、そのあと戻ってきて光をつかむ5巻からが本当に好き。ファンタジーだろって言われるかもしれないけどいいじゃんそれはそれで。
え?太ってるのが悪いんじゃないよ?デブが理由で不幸なのがダメだったんだよ、私の場合。
いるじゃない。太ってて幸せな人。それは正しいの。痩せて逆に不幸になったら無意味なの。痩せるのが目的じゃないんだよ。 楽しくとかさ。自分が好きにとかさ。キーワードあんのよ。
昔さ、仕事で痩せた人をみて分かったの。ダイエット本出しておいて、リバウンドでものすごく太ったタレントがいたんだよね。その人が後々のインタビューで言ってたの。「私にとっては、食べられることが幸せ」なんだって。子供の頃に親の事情で親戚に預けられて、くったくなくお菓子を食べているいとこと遠慮してしまう自分を比べて「ああ、おうちでおもいっきり食べたいなあ」って気持を強く持ってたんだって。その人の食べたい気持には「楽しく」が入ってたと思うのよね。だから、食べて太って幸せならそれでいいのよ。でしょ?
私はさ、デブな自分が嫌だったから痩せた。それで笑えるようになったし、わかったこともあったでしょ。だからやせてよかったの。そういうのなしにただ痩せただけだったら、きっとリバウンドあったなぁ。
だから、○○君が△△をやめて笑えてたんならそれでいいの。△△をやめるのが悪いんじゃないの。 それで笑えなくなるのが問題でね。つらくなるだけだったら間違いなんだよ。
△△やめて楽になるんだったらそれはそれでいいんだよね。
でも☓☓くんは違ったでしょ? だから帰ってくると思ってたよ。お帰り。ねえ、自分で選んで帰ってこられるって、実は幸せだよね。
この5巻からだけでもいいから読んでほしい。

- 作者: 石田敦子
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2014/10/01
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
余談ですが、この作品でも4巻に「白箱」って表現出てきました。
はじめて読んだときはこの単語全くなんのことか知らなかったので会話もスルーしていましたが、なるほど単語の意味がわかってくるとそういうことだったのかって思うシーンがちらほら。
SHIROHAKOの宮森がさらにベテランになったらこんな感じだろうなというマンガもあります
www.tyoshiki.com