ルメリアナ大戦編の〆となる巻。勝利したにも関わらず強烈に後味が悪い。
人の善意を信じることによってのみ成り立っていた自治国家「天上の都」
この国家は本当になんの政治システムもなく、ただ代表者として教主が居るのみだった。
それで成り立っている国家だった。 最初は素晴らしい都市だとして描かれていた。
そんな都市が、望まずして大国の争いの最前線になった。この都の攻防を巡ってトルキエ軍とバルトライン帝国、さらには都市国家群の三大勢力を巻き込んだ争いが行われることになった。
そして様々な戦いの積み重ねによって天上の都を守るトルキエ軍の勝利は確定する所まで来ていた。
しかし、ここで肝心の天上の都が内部崩壊を起こしてしまう。
長い籠城戦に耐え切れなくなった民兵たちが疑心暗鬼に陥り、一部の人間の不満が爆発した結果、
ついに教主カルバハルを捉え、内部の人間自らの手によって処刑するに到る。
大局が決したことを知ってる読者としては
こいつら何をやってるんだ……と思うけど彼らはそれを知らなかった。
それでも、あまりにも自暴自棄な行動だった。
人間なんて、放っておいたらダメな方へ堕ちていく決まってるのに。
この都には、それを抑える仕組みが全然なかった。
もちろんその結果は、戦争には勝利したものの自治権を失うことになった。
天上の都の市民には、都を治める能力があるとは認められません。
よって只今より天上の都共和国の統治権は剥奪。反帝同盟があずかります!
この都は、戦に出られないような本来弱い人を守るために作られた。
しかし、弱い人たちは自らの弱さに耐え切れなくて自らがよって断つところを自ら切り崩してしまった。
どうすればこの都を支えることが出来ただろうか。
弱い人達だけでは無理だったんだろうか。
とても哀しい。
ねえ、カサンドラ。すごいよね。
トルキエ軍も帝国軍も傭兵団もさ。
死を厭わずに戦場へ出て行くことを選ぶんだから。
きっと彼らは、戦いの中で死んだとしても、幸福に逝くことができるんだろうね。
でも世の中は、あんな立派に生きられる人間ばかりじゃない。
あっちの世界に住めない人でも、
安らかに生きて死ねる場所が、ひとつくらいはあってもいいよね。
人生でたった一度でも生まれてよかったと思える瞬間があったなら
人はいつでも人生に感謝して死ねるんだ。
人生に感謝して死ぬなんて之以上の幸福な結末(めでたし、めでたし)は他に無いだろう?
天上にいったも同然だ。誇りある生涯を送ったとか、最高の作品を残したとか、素敵な人に会えたとか
よかったと思う理由はなんでもいい。
僕はさあ、君たちのそういうのの一つになりたかったんだ。
だけど全然、ダメだったねぇ。ごめんね。みんなに、こんな選択をさせてしまって。
アウグスト、サロモン、せめて僕の死が、君たちの幸福な結末につづいていることを祈っているよ。
性善説を信じて最後まで人々の幸せを祈りながら処刑されるカルバハルの最後も
その死を看取ったカサンドラの涙も、とても切ない。