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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「人間でした」  銀の手は消えない!

夢の中で手に入れたアイテムが消えていく…
夢見る宝石…バクのなみだ…銀の手…

銀の手は消えない!

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この話はすごく短いながら、「夢」とか「物語」ってちゃんと糧になるよ。その中で感じたことや生じた心理的変化を糧にするかどうかは自分次第だよ、というメッセージがキレイに表現されてて私はかなり好きです。


設定は興味深いけどちょっともったいない感じ…かな?

ちょっと前に「境界のないセカイ」というマンガが話題になってました。あの作品は「人間は18を過ぎたら性を選びなおせる」という未来の話でした。一方この作品はさらに時代が進んで「魂を移植できる」世界の話です。

臓器移植だって昔はすごいニュースだったと聞くけれど
今は魂位を移植できる時代だ。
溶魂炉では抜けた魂を精製して人に移植できる。
条件が合えば魂を元の世界に戻したり他人の体に移植できる。

んで、ある日気になっていた男はハムスターに移ることになり、そのハムスターになった男の子と共同生活をしているうちに…という展開。


正直、上の設定はすごく興味深いのですがそのポテンシャルが充分にいかされているとは思いませんでした。やってること自体は割りと結構よくある話ですよね。私はこの展開が来た時に川原泉の作品「森には真理が落ちている」を想起しました。他にもこういう「男女のどちらかが人間じゃなくなる」という設定はたくさんあると思いますがみなさんはどんな作品を思い浮かべましたか?



「こんなものだ」と思いこんでいた人間関係をちょっとずらしてみてみると…

この手の作品は、本来の関係だったら接点がなかったであろう関係だとか距離感が絶妙すぎて膠着していた関係だとかそういったものを「ズラす」ことによって関係が生まれたり、今まであった安定が崩れて変化したりする、その「変化」の部分を楽しむものだと思います。


ある時彼女が魔王様になってしまったりしてもいいですしある時主人公がセカイ系のヒーローになってみてもいい。この作品みたいに男が動物になってもいいし、ヒロインが亀になってしまってもいい。


さらにいえばこのズレは劇的なものでなくてもいい。
「俺ガイル」のように、最初は教師の強制で無理やり接点の無い人間同士がくっつけられるというのでもいいし、女の子が死んで幽霊になって戻ってきたりするものからメイド喫茶で働いてたり猫かぶりがバレたりするものでもいい。


何かちょっとしたズレみたいなのをきっかけにして今まで自分が「この人はこうだ」と思ってみていた人の見え方が変わったり自分とは遠いと思っていた人の心が縮まったり、逆になんでもわかってたと思ってた人のことを実は何にもわかってなかったって気づいたり、そういう変化は強制的に物語を生み出しますよね。


あまりに変化の無い日常を送っているとこういう「変化」、つまり「物語」が自分の身の回りにも起きうるってことを
忘れそうになりますが、そういう時フィクションでもいいから「物語」を補充すると、もうちょっとだけ生きてみようかなーって思えます。


たとえばこの作品の場合だと……

女の子は園芸好きのちょっとどんくさい子。男の子はサッカー好きの活発で、ちょっと気がきかない子。

女の子は男の子のことがちょっと気になってはいたけれど接点がなくて、おそらく何もなければ時々気になる、程度の関係で終わっていただろう。

そんな時、男の子がハムスターの姿になって家にやってきて、女の子はそのハムスターの世話をすることになる。

本来だったら強気な男の子に気負されして何も言えないような女の子だけれど、なんの相手はハムスター。ちゃんと二人で話し合いながら共同生活を贈っていきます。*1そして、男の子の夢の話を聞いたり、逆に自分の将来の目標の話をして、二人はそんなに遠くない人間なんだってことを知ってますます距離を縮めていく。

私とかずさくん。植物とサッカー。全然違うと思ってたけれど、それぞれの夢が実現したら、どこかで重なるかもしれないんだ……

人間以外の存在になってみて初めて見えるものがある

とはいえ、これだけの話なら、わざわざ「人間でなくなる」なんてギミックまでは必要ない。

というわけで、関係性が変化するだけでなく、人間でなくなったことによって、今までどおり生きられなくなることによって失ったもの、逆に初めて見えてくるもの、自分にとって一番大切なもの、そういったものを考えさせるシーンとか出てきます。

「当たり前」から一歩離れて考えてみるってのは、「当たり前」の生活を送っているのとなかなか分からない。だからせめてマンガ読んでる時に、自分だったらこの時どう思うかなーなんて考えてみるのも面白いです。



フィクションの設定なんかは自分の現実に残らないけれど、フィクションを通して考えり実践したことは残る

この作品の設定ですごく良いなと思ったことは、
そうやって男の子と女の子が暮らした非現実的な1週間は
男の子が人間に戻る際に記憶を失うことでリセットされるということ。この1週間の記憶は女の子の側にだけ残るのみ。


この設定によって、登場人物と読者の距離がグッと縮まります。
この「特別な体験ゆえに」二人の距離が進展して結ばれて…だったらそれはただのお伽話です。ファンタジィやメルヒェンです。この話も途中までそういう話だったのですが、そこから一気に現実に引き戻される。

奇跡って、起きないんだよなあ。心がちぎれるくらい願っても徹夜で努力しても結果が出なかったり、想いは実らなかったり。

ここで女の子と読者である私の差は「実際に体験したか」「読んで知ってるか」だけになります。物語の女の子だからって奇跡がなんでも助けてくれるわけじゃない。


でも、物語の女の子には、ちゃんと体験を通じて得たものがある。それに突き動かされて実際に一歩踏み出してみる。

でもさ。実りそうにないから何もしないなんて、変だよな。キレイな花が咲かないってわかってたら、水をあげるのやめるかい?

そうして行動したら、その結果はちゃんと現実に残る。
その結果は、ほかならぬ自分のものになる。

ふつうじゃない7日間。
あっという間だったけれど、
景色も私もいつもと同じみたいだけれど。
私、ちょっと新しくなった気がする。
たしかにね、ほんとにね。奇跡なんてなかなか起こらない。
これからも多分普通の毎日。
私はまた彼に声をかけるのかな。グランドを見つめるだけかな。
嬉しい結果、悲しい結末、何が咲くかわからないけど
明日も水をあげましょう。

参考 川原泉について

森には真理が落ちているんである 〜川原泉とワタクシ〜
さらば川原泉 (その1)(その2) - みやきち日記

川原泉は男女の恋愛をベタに賛美しようとはしない少女漫画家です。

川原泉論

ものすごく好きだった作家さん。この話もしたいなー

*1:別に女の子は男がハムスターにならないと何も言えない存在としえ描かれてるってわけじゃないんでしょうけれど、おそらく本来の関係だったら、高校の間にそういう関係になるのは難しかったと思うのです