頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「お前は悪くない」って言うやつは「お前が悪い」って言うやつよりも始末が悪い

引き続いて「チキタ★GUGU」より。

「ペトラス皇帝」は善良な人である。決して人を責めない。どんなことでも自分の責任として抱え込んで解決しようとする。弱っている人は、つい彼に依存したくなる。

他の高慢ちきな人間は、私を盗賊の娘と呼んで、ゴミでも見るみたいな眼で見る。だけどあの方は、ペトラス皇帝は……

「お前が悪いわけじゃない。親が……社会が悪いんじゃ。つまりは、完璧な政治が出来ないわしが悪いんじゃ。だから立ちなさい。かわいそうな娘」

そう言ってくれたのよ。だから私は、あの方のためならなんでもする。いくじなしのバランスや、思い上がったサデュースにはわからないよ

こんな感じで多くの人間が彼に心酔してしまう。「彼のためならなんでもやる」と言って、彼への忠誠を示すことが自己目的化している人間がたくさんいる。



しかし、主人公はこのことに疑問を抱く。
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実際にこの後の展開は悲劇に終わる。

他者に自分を完全に預けきるという形で自己肯定をしている人間は、自分の行為に責任を感じなくなり、それでいて、己の欲望を制御できずに人に迷惑をかけるようになるからだ。

回りくどい自己承認が生み出す自意識の縛り - Why do you need ...?




ペトラス皇帝の信者たちは彼にしたがって良い行動を取っているのだが、段々と個々の「本性」「欲望」「行動原理」のようなものが染み出してくる。

今まで自分を肯定されてこなかった人間は、努力して成果を上げたり、人との折衝の中ですこしずつ承認を得ていくという過程を経ていない。その過程をすっ飛ばしていきなりペトラス皇帝によってまるごと認められてしまうせいで、まとめて自分を認めてくれるか、自分を認めてくれない敵かでしか他者を認識できない。判断基準すらも敵か味方か、が優先する*1

こういう人たちは、今まで力も自信もを得られなかったが、ペトラス皇帝の名のもとに彼らにも力や大義名分が与えられることで自由に振る舞うようになる。しかし、相手に合わせて自分を制御するということが出来ないのだ。「自分は間違ってない。だってペトラス皇帝が認めてくれたのだから」こうなってしまうのだ。

「ライアーゲーム」13巻 自己否定を乗り越えて、その先に自己肯定を目指すには - この夜が明けるまであと百万の祈り

こうやって敵か味方でしか人を認識できない、未成熟な人間を手当たり次第に承認して、それにお墨付きを与えるようになるとどうなるか。この人達は自分を肯定するために「敵」を攻撃し「敵」から奪おうとする。それが当然の権利であるというように。この作品の場合は極端な例だが、特定の集団が「人を殺し始める」。


この人たちは、味方に対してはなんでも賛同するし褒め称える。その内側の世界にだけ閉じこもっていればとても優しい人たちである。しかし「敵」に対しては容赦がない。「敵」を同じ人間としてみなすという機能そのものを育ててこなかった。そういう未熟なまま力を得てしまったのが彼ら彼女らなのだから。



まだ侵略できる余地がある間は良い。しかし拡大が止まると、自分たちで内ゲバを起こして勝手に自滅する。
電波の城 - この夜が明けるまであと百万の祈り

彼ら彼女らは、ペトラス皇帝にだけは忠誠を誓うが、もはやペトラス皇帝が目指した世界と全然違う行為を平気でやる。そして、その矛盾を理解できることはない。そして、さんざん他人を傷つけ暴れまくり、最後には、より衰退した所を滅ぼされる。これは歴史の常なのです。

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耐えきれなくなった時に「逃げる」のはいい。でも「他人に預ける」「預けっぱなしにする」のはダメ

たとえたとえスタートが善良であっても「安易に承認された人たち」「お前は悪くない」という声に必要以上に依存した人たちの作り出す集団というのは、その未成熟さの蓄積によって崩壊する。


人が人であるかぎり、他者との間に責任というものはあって、自分を律する必要もある。心が弱っている時にそれを委ねたくなる気持ちはわかるけれど、その声は悪魔の誘惑なのだと思う。


耐えきれなくなった時に「逃げる」のはいい。でも「他人に預ける」「預けっぱなしにする」のはダメだと、私は思うのです。



「凡庸な悪」あるいは「透明な存在」について - この夜が明けるまであと百万の祈り

「眠れないの。眠ろうとするとあの(お父さんの悪口を言ってたやつの)やーな大笑い声が浮かんできてムカムカしちゃうの」
「困ったなぁ」
「私のハートはもういいやと思うんだけど、私のプライドは許さないの。…プライドってめんどくさいものだね」
「でもお父さんはプライドの高い知世がいいと思うよ。」
「え?」
「プライドっていうのは、自分がいちばんだって偉そうにすることでもなく傲慢な態度を取ることでもなくてたとえば知世が何十億人の人たちの中でほかならぬ知世であるために必要なものだと思うんだ。」
「IDカードみたいな?」
「そうだな、でももっと重たい。旅行かばんのようなものかな。すべての人があらかじめかならず1つずつ持ってる。型はそれぞれ違っていても重さは皆同じなんだ。女の子も男の子も、大人も、子供も。

 持って歩くのはなかなか大変だ。だからこんなものは邪魔だと思ったら捨ててしまってもいいわけだ。それがその人の意思ならね。でも中にはとんでもないバカなおせっかいがいる。"君は小さな女の子だから、こんな重いカバンなんかもっちゃいけないんだよ。必要ないんだよ"なんていうやつだ。」
「はりたおしていいのね?」
「うーん、、、まぁ」
「お墨付きがでたわ」
それから、みんなのカバンをまとめて持ってあげようという人も出てくる。大きな一つの荷物にしてしまおうってね。それは楽ちんだけど、とてもこわいことだ。どこに運ばれるかわからないんだから。やっぱり自分のカバンは自分一人で持たなきゃならないんだ。だから、知世のカバンをお父さんが持ってあげることもできない。お父さんがやれるのはせいぜい知世がカバンの重さに負けないようにたくさんご飯を作ることくらいだな」

「やっぱり腕力よね」
「精神的な、ね」
「ムカつくことがあったら、ちょっと考えてみるといいんだよ。どうしてそんな気持ちになるのか。それは自分のことを知る手立てになる」
「キーっとなるのも無駄じゃないんだね」

「episode95 ホワイトピーチ メルバ」


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おまけ 子育てに関して

私はこういう意識でいます。なのでよりにもよってこの「欲望」を子供に向けようとする「森友学園」などの主張がどうしても嫌いなんですね。

坂口安吾 不良少年とキリスト

親がなくとも、子が育つ。ウソです。親があっても、子が育つんだ。親なんて、バカな奴が、人間づらして、親づらして、腹がふくれて、にわかに慌てゝ、親らしくなりやがった出来損いが、動物とも人間ともつかない変テコリンな憐れみをかけて、陰にこもって子供を育てやがる。親がなきゃ、子供は、もっと、立派に育つよ。

これはこれでどうかと思うけれど、あんまり子供に対して親が親が親がって言うのは良くないと思うし、逆に子供も親が親が親がというのもなんとかしたい。

でも今は社会制度上完全に親の独裁状態となっている。この状態それ自体が問題なのであって、親へ過大なプレッシャーをかけながら、その弱みに付け込む「親学」についてはかなり強い嫌悪感があります。

*1:現実においてもトランプを支持するだけでなく平気でヘイトスピーチを口に出す用になる人たち、TOSSや親学の信者、ミニマリスト集団、互助会、青二才氏や某エロゲーマー氏など、例を挙げるまでもなく「立場によって」180度扱いを変える手のひらがドリルみたいになっている人たちがいるが、まぁそういうことなんだろうなと認識している。このあたり、ハンターハンターのキメラアント編の兵隊アリよりもずっと人格が未成熟と言える