評価★★(個人的評価★★★★。オススメです!)
タイトルだけ見て「小説家になろう」の異世界転生モノとか俺TUEEEものかよ、とスルーしがちというか実際私もしていたのですが、私がメッチャクチャ好きな作品である「じゅういちぶんのいち」の作者さんの作品と知って手に取ってみました。
4巻完結のこじんまりとした話であり、作品として無茶苦茶面白いというわけではないですが、前作に引き続き、私はこの作者さんの作る雰囲気がとても好きなので、ぜひ多くの人に読んでもらいたいです。
国の英雄(超エリート)が、あえて自分の肩書を捨てて婚活に挑むお話
前作はサッカーに人生を賭ける一人の人間についてその周りの人間を含めて広い視点でとらえ、「人が、自分の夢を追い求めながら生きることってどういうことなのか」について描いている作品でした。かなりガッツリと人の人生を「夢(仕事)」を軸にして描いていた作者が、今度は「使命(仕事)」を終えた主人公が、そこから解放された後どう生きるか、を描く作品を出す、という対比がとても面白いです。
今回は、仕事やステータスを離れたところで、人間としてどう居場所を見つけていくかというお話になってるんですね。
平和になったこのセカイで、武器は次第にその価値を失っていく。
勇者である俺も、おんなじなんです。
そうなった時に、本当に俺を愛してくれる人と、一緒になりたいのです
シビアな世界だからこそ、主人公の誠実さが光る
今の世の中、高校を卒業してしまったあたりからは、肩書などを離れて一人の人間としてみてもらうというのはかなり難しいと思います。実際、この主人公は今までの人生を勇者としての使命に全振りしてしまっていたので、「勇者」としての強みを隠すとただのコミュニケーション弱者。見た目もそれほどよくはないという設定です。
そのため、主人公は最初、婚活市場において女性陣からゴミのような扱いを受けます。 これは女の人が悪いというわけではありません。 婚活という人生がかかったシビアな状況で、主人公の言ってることはあまりに夢見がちであり、またそれに見合った価値を主人公が最初示せていないのですから「真剣にやってない」と思われても仕方ありません。実際には主人公はすごい真剣なんですけど、環境にあってないんですね。
読者は「実際には主人公の性能はチートであり、その気になれば力技でなんでも解決できる」ことを知っているし、主人公も女性たちの悪意については鈍感なので深刻な雰囲気にはなりませんが、実際のところ、この取り組みは厳しい。普通にやれば心が荒んでいくばかりでしょう。
実際に、婚活の過程において、主人公は心がすさんだ男性や女性を多く見かけることになります。
思えば、クソみてえな人生だった。
どうして俺はみんなに毛嫌いされるんだろう。
不細工だから?オタクだから?それとも性格がひん曲がってるのかな?俺だって嫌われたくて嫌われてるわけじゃなくて
ただ普通に生きてただけのつもりだったんだけどな。もっとモテるやつになりたかった
友達と他愛のない話がしてみたかった。
いいことなんて殆どなかった。
ずっと、武器だけが友達だった……
そんな状況でも、主人公は、肩書にとらわれずに目の前の人に対して誠実に接したり好意を示すことで、荒んだ人たちの心を解きほぐし、少しずつ自分を理解してくれる仲間も作っていきます。
このあたりの雰囲気がすごく良い。
前作「じゅういちぶんのいち」でもそうでしたけれど、作品世界の現実はかなりシビアなんですよね。それでも、登場人物が前向きであったり、他人を思い遣れる人であるため、作品全体にすごく優しい空気が漂っているのが好きです。
私が大好きな作品「いいひと。」に通じるものを感じる
このあたり、私が大好きで★5を付けている作品「いいひと。」に通じるものがありますね。
現実的には、チートレベルで優秀な主人公が、その優秀さを気づかれないなんてことはまぁ無いでしょう。いろいろ突っ込みどころもあります
だけれど、現代における「寓話」としてこの作品を楽しむことはできるでしょう。
確固とした自己を持ち、人を見下すこと無く、悪意を持つこと無く、ひたすらに誠実に接しつづければ、婚活での成果はなかなかでなくても、すこしずつ人の輪が出来ていって、人生が充実してくる、、、そんなストーリーは、読んでいてなかなかいいものだなぁと思います
残念ながら最初から結末がミエミエであり、話が膨らんでいく前にあっさり終わってしまったのですが、私はこの作品、すごい好きです。もっと長く見てみたかった……。
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今の世の中ってなにかと「いいひとをやめよう」ってたぐいの本が人気ですよね。いいたいことは分かるんですが、私は「いいひと」がちゃんと幸せになれるお話が好きなんです。
それが寓話だというなら寓話でもいいけれど、できればそれが現実になってほしいなと思うから、こういう話はどんどん読まれてほしいなと思う。