評価★(5段階)
「賭けグルイ」の作者である河本ほむらさんは、話をコンパクトにまとめるのが非常に上手な方だと思います。
「賭けグルイ」も、1つのエピソード「敵の紹介→ゲームの紹介→ゲームの駆け引き→決着」までをきっちり1冊に収まるように形を揃えてくれるので単行本を手に取りやすいですし、「煉獄デッドロール」も、なにかとダラダラ長引きがちなデスゲームものをきっちり6巻におさめている。きちんと最初の時点から話を設計して作品を作っているのだなぁということが伝わります。
そんな河本ほむらさんが、いきあたりばったりでルーズになりがちな(決してわるいことばかりではないですが)「異世界転生」ものをどう料理するのか個人的には興味があります。
題材は「法廷」。 日本とは全く常識が異なり、身分制度がはっきりしており、「法の支配」という観念がいままでなかった世界において、弁護士を目指していた青年が「日本の法律」を浸透させる役割を果たすことになる。というお話です。
萌えの概念がなかった異世界に萌えの概念を持ち込もうとしたオタクが主人公の「アウトブレイク・カンパニー」という作品が、バカにしていたら、異文化との交流を描いた作品として面白かったという実例があるので、この作品にも期待が持てますね。
「人の命は(法のもとには)平等」という建前がないとどうなるか
第一話からなかなかぶっ飛んでいます。
「貴族の馬車に轢かれそうになった町民の命を救うために、貴族の馬車に横からぶつかって止めた」という行為が問題として論じられます。日本人の常識であれば、これは「緊急避難」ということになります。人の命を救うためにやむを得ない行為は、「これによって生じた害が、避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り」罰しない、というルールですね。
多分、日本人であれば納得するでしょう。なぜなら、人の命は平等という法の建前があるからです。
ところが、この世界では「貴族と平民の命は平等ではない」のでこの主張はあっさり否定されてしまいます。では、この国の常識や思考に則って、どのようにこのルールを適用するか。そういうところに頭を使っていくわけですね。
結果として、主人公は「貴族と平民の間には違いが有る」ということは否定しなくても、「一人の国民の命」と「貴族の軽いケガ」という違いであれば、緊急避難の要件は満たせる、という形でこの問題をクリアします。
こんな形で、私達が普段あまり意識していない法律について、法律がいかに自分たちの権利を守っているか、そしてその法律の前提となっている常識はどういうものかについて、「異世界(異文化)」の存在を通して意識・理解してくことができるようになっています。
もちろん、現代の日本でも、「今の憲法はアメリカに押し付けられたものだから改正せねば」みたいに言ってる人がいることでワカルように、「日本と違う文化や常識を持つ国家に、日本の法律を無理やり適用する」というのはかなり問題のある行為でありますが、そのあたりはフィクションだからと目をつぶって楽しめる人にはおすすめできる作品だと思います。(まぁGateみたいに武力を背景に押し付けてるわけでもないし、この世界には魔王と戦う勇者などもおり、そのうえであくまで国のバックグラウンドで一人孤軍奮闘しているようなものだから、あまりそういう心配はしなくていいようになってます)
発想は悪くないけれどまだるっこしくてあまり楽しくはない
ただ、発想はとても面白いのですが絡め手でせめているせいか、「逆転裁判」のようにストレートに弁護で勝利する快感は無いかもしれません。
この作品の3つ目の弁護などは、逆転裁判1の「やっぱりヤハリ」くんを彷彿とさせますが、似たような事件を見るとやはり「キャラクターの弱さ」は否めないところです。「賭けグルイ」のような顔芸や大げさなやりとりで対抗すべき、とは思わないけれど、「キャラクターの個性」、とくに「敵である判事」に魅力がないとやはり盛り上がらないかも。
このあたりマンガって本当に難しいなぁと思います。
追記
3巻で終わりだった。 やはりもう一つ盛り上がりに欠けた感じだった。 ライバルのようなものが早く登場するか、単なる弁護にとどまらない何かがほしかったですね。。。