この夜が明けるまであと百万の祈り

発達障害者としての生き方によく悩んでます。いろいろあって今現在は教育系の出版社でつとめてます。普段は自分が好きなマンガの話してます

「二月の勝者」 中堅レベルの子どもに中学受験をさせることに意味はあるのだろうか?

現役東大生が声を大にして主張「中学受験に強い私立小学校に入学してはいけない理由」が地獄…「自分は楽しかった」と肯定する人たちも - Togetter
データに基づいて話さずに自分の個人的体験を一般化するという謎の東大生が話題になってますね……。

別にこの人が嘘をついてるとまでは言わないのですが、あくまで彼の個人的な体験にとどまる話なので、早まった一般化はやめてほしいなぁと思いました。そうしないと議論がふかまっ太郎で終わってしまうので。

早まった一般化 - Wikipedia


ちなみにOECDの統計ではこんな結果が出てるそうです。
別の視点もあるよ、ということで。

www3.keizaireport.com

比較可能なデータがあるOECD諸国の平均で、成績格差の約3分の2が15歳の時点で観察され、25~29歳の格差の半分はすでに10歳の時点で見られました。

本報告書では、学校の社会経済的性格と生徒の成績との間に強いつながりがあることを明らかにしています。社会経済的に恵まれた学校に通う生徒の方が、PISAで良い成績を上げています。しかし、OECD平均で2015年には恵まれない生徒の48%が質の低い学校に通っており、過去10年間にほとんどの国でこの格差レベルに大きな変化は見られませんでした。

OECD諸国平均で、恵まれた学校に通っている恵まれない生徒の点数は、恵まれない学校に通う生徒よりも78ポイント高く、それはほぼ3学年分に相当します。

学校の社会経済的性質が成績と最も強く関連している国は、ベルギー、ブルガリア、フランス、ハンガリースロバキアスロベニア、オランダで、恵まれた学校に通う恵まれない生徒の科学の点数が恵まれない学校の生徒のそれより130点以上高くなりました。それに対して、アルバニアフィンランドアイスランドノルウェーポーランドでは、恵まれない生徒の成績が通っている学校の質の違いにほとんど左右されていません

アンドレアス・シュライヒャーOECD教育スキル局長は次のように述べています。「社会的流動性の障壁を壊し、すべての子供に成功のための公平な機会を与える取り組みにほとんど進展が見られない。恵まれない生徒の成績を上げるために、教師の役割が重要だという認識を含め、より多くの投資が必要である。」

また本書では、幸福(well-being)が成績に及ぼす影響についても考察しています。OECD諸国全体で、恵まれない生徒のおよそ4人に1人が「社会的、情緒的に充実している」、つまり自分の生活に満足しており、学校生活に馴染んでおり、テスト不安に悩んでいないとされています。クロアチアチェコフィンランド、フランス、ドイツ、アイスランドラトビア、オランダ、スイスでは、こうした生徒の割合が最も高い(30%以上)のに対して、ブルガリア、イタリア、モンテネグロポルトガル、英国など他の欧州諸国では、その割合が比較的小さくなっています(20%未満)。

社会的、情緒的に充実していると答えた恵まれない生徒は、より良い成績を上げる傾向があります。これは、恵まれない生徒が自分自身と彼らが受ける教育に対して肯定的な態度と行動を育めるようように助けることで、彼らの教育的発展をも高めることができることを意味しています

本報告書によると、子供は基本的な社会的、情緒的スキルを身につけることができるので、特に恵まれない家庭出身の子供はなるべく早い時期から教育を受けることが重要です。各国は、恵まれない生徒と学校に追加資源を集中的に振り向け、学校に恵まれない生徒が集中しないようにする必要があります。

教師への支援を増やすことで、彼らは生徒のニーズを理解し、学級の多様性を管理し、両親とのつながりを強化し、両親が子供の教育にもっと関われるよう奨励できるようになります。また教師は、粘り強さの重要性を強調し、生徒同士のメンタリングなどを通じて生徒が互いに励まし合うよう奨励することで、生徒の幸福を育み、すべての生徒のために積極的な学習環境を構築することができます。

「二月の勝者」について

そういえば上のまとめで「二月の勝者」に興味を持っている人が多いみたいなので、この作品についてちょっと語っておきます。

この漫画は、「中堅レベル」向けの中学校受験塾の話です。作品中で一番頭が良いと描かれてる子でもトップクラスの中学には届かなさそうなレベルという、教師も生徒も保護者も一番しんどいレベルの世界を描いている作品です。

大学受験と違って中学受験は一つ一つの高校が狭き門であるうえ、とにかく基礎力が問われる問題が多いため、「ドラゴン桜」みたいに選択と集中とか、取れるところだけ確実に取るみたいな戦略が機能する余地がありません。「日能研」の広告のように、トップレベルの学校になれば思考力を問う問題も出てきますし、最近は中堅レベルの学校でもああいう問題を出したりしているそうですが、勝負を分けるのはあくまで基礎力です。

つまり、中学受験ではごまかしがききにくい自力勝負になります。そのためとにかく反復練習によって基礎を叩きこみ、スピード処理ができることが求められます。そういう状況において中学校受験塾にとって重要なのは「ドラゴン桜」で描かれるような独創的な取り組みだとか、戦略的な取り組みではありません。ひたすらに「徹底的な基礎固め」と「ミスを減らすこと」です

これはあまり面白みのない単調作業の繰り返しになります。適性がある子であればいいのですが、たいていの子は途中で飽きます。私たちの時代より今の子供たちは他に楽しいことがあるから大変でしょう。そういう状況でも子供たちの「モチベーションを上げる&保ち続ける」ことが求められるわけです。


だから、中学受験は競争を煽ったり、宗教チックになったり、教師と生徒がやたらと親密になりがちなのですよね。(「しんざきさん」みたいに丁寧に教えてくれる人はまれです)

tyoshiki.hatenadiary.com

宗教的であること自体は良いとか悪いではありません。ただ「宗教的」な手法というのは理解しておいた方がいい。たまたま(自分の利益のためではあっても)本当に成果を挙げようとしてくれる人だったらいいけれど、実際はそうでない場合が多いから。

ドラゴン桜2」において、桜木のやり方が宗教の教祖めいていると書きましたが、この作品を読むときもこういう点は十分に意識して読んだほうが良いです。


この点において、「二月の勝者」というマンガは、肝心の「講師の魅力」という面ではちょっと微妙です。表紙の男はまだいいのですが、「ドラゴン桜」と比べて、新米塾講師があまりにもアホすぎて読んでてジリジリしてしまう作品ですし、ストーリー中で行われる取り組みも(仕方がないとはいえ)目からうろこみたいなものはありません。ただただ地味です。受験という話題に興味が全くない人が読んでも面白くないと思います。



一方で、受験事情については良く研究はされており、自分が中学受験をしたころと今でははっきりと変わってきていることが分かります。(中堅レベルの学校は)学校側の事情や保護者の事情が大きく異なっており、特に公立がやっかいで、中高一貫コースがかなり増えていて、高校から入るルートがなくなっている学校がかなり増えていたり、昔以上に内申点が面倒くさいことになってたりするようです。「子どもを取り巻く受験事情」を理解したい人には大変面白い作品であるといえます。 実際、このマンガってネットで目にするとき「特定のページを切り抜く」形で紹介されやすいですよね。まさにそういう「目を引くトピック」が売りのマンガです。そちらが目当ての人には大いに価値があると思います。


なので、子どもに中学受験というのをやらせるかどうかはともかく。自分の時の体験や価値観だけをもとに、知識をアップデートすることなく中学受験を頭ごなしに否定しているような人は読んだ方がいいと思います。



中学受験はみんなやるべきものではないが、中には受験によって環境を変えることが必須な子もいるよ、というお話

せっかくなので、自分の個人的体験に基づいて中学受験に関する私見を語りますと……「難関中受験に強い小学校」というのはよくわかりません。なのでそっちについての話は良く知っている人に任せます。一方で、中学受験については、間違いなくやってよかったと思っています。


私は普通の地元の公立小学校から中学受験に強い進学塾(浜学園)に通って受験し、中高一貫の私立中学に行きました。

小学生の時、発達障害の私は周りに上手になじむことが出来ず、そのころは発達障害なんて知られてなかったから、よくバカにされたり仲間外れにされたりとつらい思いをすることが多かった。特に小学4年生の時は、新米の女性教諭の気に入らなかったようで、ほとんど教諭の公認のような形で仲間外れにされることになりました。軽いいじめも受けました。ひどくなる前に親に相談して学校に抗議してもらったため大ごとにはなりませんでしたし、授業中に課題が終わった上で許可を取ったうえで教室を出ていく自由を与えられましたが、いずれにせよ小4の時は完全に孤独な状態でした。なので、塾という形で小学校以外の場を与えてもらえたのはむしろ幸運だったと思っています。

たまたま私は勉強は苦手ではなかったし、小学校の側には友達もおらず、逆に塾では友達ができたのでとても楽しかった。その結果私立の中学に合格することができ、そこは自由度が高い校風だったため仲間外れやいじめを恐れることも特になく、のびのびと生活することが出来ました。私にとって小学校は全く楽しい場ではなく、受験をせずにそのまま近くの公立中学校に入ったら同じように地獄のような思いをしただろうと今でも思っています。


私は自分の体験が正解だ、などとは思ってません。
ぶっちゃけ、私は大学ではあまりうまくいかなかったしね。

ただ、私みたいに中学受験がプラスに働く人間もいるってのは確信してます。
私がいいたいのはそれだけです。


結局のところ、子どもは一人ひとり違うので、向いてること、好きになれることをがんばれってだけの話だと思うのです。

お子さんがいる親のみなさんには、とにかく「自分」じゃなくて「子どもが」何に関心があって、何に適性があって、何を楽しんでるかよく見て話を聞いて考えたらいいんじゃないですかね。そこで、子どもを見ないで親の考えだけで決めるような人がいるなら、どういう道を選ぼうが子どもは幸せなことにはならないと思います。