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RIZAPグループの2018年2Q決算資料感想(その3-1) 高すぎるROE期待にコミットした代償は……

RIZAPという超面白い会社を元に、普段株式投資に馴染みのないみなさんにちょっとでも「企業分析」の楽しさを知ってもらいたいシリーズの続きです。今回の決算は本当に勉強になる素材の宝庫ですし、何より面白い。この面白さを普段会社の中身とか考えたことないみなさんとも共有したい……!
と思って頑張って書いてるのですが、すでにその2の時点で反応がまったくなくて心が折れそうですががんばります(笑)


では先に今回見てほしいことを先に書いておきます。

・今回覚えてほしい言葉=ROE自己資本利益率
・今回伝えたかったこと=RIZAPは高すぎるROE目標を維持しようとして無理をしてしまった、ということ

今回は是非「ROE」という言葉だけでも覚えていってください。

ROE自己資本収益率)ってなんですか?

株主資本を用いて、企業が株主のためにどれだけの利益をあげたか、つまり株主としての投資効率を測る指標といえます。

https://kabukiso.com/apply/useinfo/roe.html

簡単に言えば「ROEが高ければ高いほど金儲けが上手い」ってことです。例えば瀬戸社長の会社がROE40%、ニトリ社長が16%。トヨタ社長が14%とすると、100万円を瀬戸社長に出資したら瀬戸社長は40万円稼いでくれる。ニトリ社長なら16万。トヨタ社長が14万ってことです。全員持続可能な経営をしているなら、瀬戸社長に預けますよね?

これは負債やらなんやらいろいろ込みの「総資本」ではなく「株主資本」だというところがポイントです。会社は株主から調達する以外にも、銀行からの借り入れやらいろんな形でお金を調達できます。でも株主からしたら、とにかくお金を預けたら何%の利回りを叩き出してくれるかが大事です。その株主資本に対して何%稼いでくれるのかが重要になります。

イメージとしては人が銀行にお金を預けたら何%の利回りで利子がつくかって話と同じです。

株主のリターン=「株主資本」☓「ROE」☓「配当性向(稼いだお金のうち何%を株主に配当で支払うか)」

株の場合、増資したりとか配当性向が変わったりしない限り、ROEが高ければ高いほど株主に還元されるリターンが高くなりますから、ROEはとても重要ってことになります。「配当利回り」の仕組みを知っている人なら、ROEをチェックしている人も多いでしょう。

RIZAPのROEは、業態を考えたら異常なほど高過ぎた

RIZAPは今回の悶絶下方修正を発表し、さらに明らかに今後2年位は成長どころか撤退戦の様相になることが明らかになっているにも関わらず、それで決算資料説明にこんなページを載せています。

このROEの数値ははっきり言って異常です

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ネット企業でもありえないROE。これうちはやばい企業ですって言ってるようなものでは……


・もちろん1年だけならザラにあります。売上が小さな新興企業が急成長した時、それから赤字スレスレの企業が構造改革でV字回復した時とかこういう数字は出ることがあります。

・あるいはソシャゲーの会社が一発当てれば2年くらいはこういう数字が出ることはあります。

・また、この数字はネット通販の事業の初期であれば珍しいことではありません。みんなだいすきZOZOはずっとROEが40%を越えている化物ですそれでも、売上が500億を越えてからのROE40越えは、経済全体がバブルになってる中国でもやっと、というところです。

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ネット企業のアリババグループですらROE40越えは稀
アリババグループ 株価・業績推移・決算資料 | Stockclip
アリババグループ(BABA)株の過去データ分析~中国株超大手企業の株価、配当は? | ボクでも分かる米国株分析

もう一つ、去年RIZAPグループ並に伸びた「北の達人」のデータも見ておきましょう。

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売上50億以下の、ネット通販企業が、ROE20%維持できれば超優秀

なんと株価30倍!北の達人コーポレーション【2930】の今後の株価を分析 | シェアブログ

飲食店やアパレル、実店舗型の企業やSIerなどの「人」が必要な事業ではROEは15%以上を軽々しく目指すべきではない

さて、RIZAPグループはこの4つの部門で成り立っています。どれも「人」が必要な事業です。
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こうした業種では、拡大しようと思ったら店舗を作って人を増やして、教育してと行った部分が必要です。
さらに、利益が出るまでの間しばらくは費用が先行してかかりますから赤字が出ます。
安定したオペレーションができるまで時間がかかりますし、入れ替わりも激しいです。出店できる場所には条件がありますからむやみやたらに出店するわけにもいきません。

そう考えると、この業態では「ROE自己資本成長率)」は15%あれば超優秀といって良いでしょう。平均40%などという数字はありえません。こんな数字を維持しようとしたら、絶対にどこかに歪みが生じます。

実際にニトリはずっと一定したROEを維持するように経営をしています。

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リーマンショックのときでも好景気のときでも変わらず同じペースで成長をつづけるやべーやつ

ファーストリテイリングユニクロ)も2014年まではROEが安定して17%前後でした(最近やばい

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最近はちょっと苦しいユニクロさん

飲食店については、最近亡くなられたサンマルクの片山社長が決算説明会でROE15%以上は目指さないようにしている。それ以上を目指すと成長に歪みが出る」とはっきりとおっしゃったこともあります。

ちなみに、松本社長が再建した後のカルビーROEも14%前後で安定しています。
優れた経営者が最大限効率的に経営を行ったら、自然とこのくらいの数字になるということではないかと思います。

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松本さん就任前は2%とかマイナスとかがあったことを考えるとやべーやつ

RIZAPの社長はクレイジーなので、ROE40%以上を目指そうとして、禁断の「負ののれん」戦法に手を染めることになった

というわけで、RIZAPのRO40%という数値は安定的な経営を考えるなら「コミットしてはいけない数値」だったことがおわかりいただけたでしょうか。やはり瀬戸さんは良くも悪くもクレイジーすぎますね。

ちなみに、同じようにやってはいけない数値にコミットしてた会社としてゼンショーすき家)などが有名です。特にゼンショーM&A戦略もRIZAPと似てますね。ゼンショーは今年もROEが13%あってやべーやつです。

そんなわけで、このあまりに高すぎるROEの数値を維持しようとしたせいで「負ののれん目当てでキャパシティを越えたM&Aの濫発」につながったのです。


ちなみにRIZAPは自己資本比率もずっとやべーやつです。ROE自己資本比率が低ければ低いほど高くなるため、RIZAPのROEが高い理由の一つにこの低すぎる自己資本比率というのもあります。要するに財務レバレッジかけ過ぎで、常に信用全力2階建ての自転車操業ってことですROEを投資指標にもちいる危険性の一つですね。

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本当に2018年5月に増資で350億確保できててよかったね…もし躊躇してたら死亡確定でした
RIZAP グループの業績を見てみよう | Stockclip

業種にもよりますが。ROEを基準に投資をする場合、自己資本比率が50%以上あって、ROEが15%くらいの企業にしたほうが、安心して持ち続けられるかもしれませんよ?


RIZAPはとにかく「コミット(やりきること)」を重視します。目標にコミットする姿勢それ自体は素晴らしいのですが、それは目標が妥当なものであった場合です。無茶な目標を立て続けると、目標を達成するために手段を選ばなくなり、ついに手段と目標が逆転してしまいます。

上司が無茶すぎる目標にコミットすることを求めてきたらこの記事を見せてあげてください(笑)

(おまけ)ROEの世界は奥が深い

これは今回は省略しますがその気になればさらに細かい分析ができます。
こちらのサイトを参考にしてみてください

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ROEデュポン分析

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ROE HOBモデル

さらに、「企業が(株主がではなく)投下した資本」の収益率なんで分析も可能です。

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ROIC分析。自己資本が高い企業の分析向け

(おまけ2)同じ作者の本です

勝てるROE投資術

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危ういROEブーム (週刊エコノミストebooks)[Kindle版]

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