OZの魔法使いの「ブリキ男」はいろんな創作者を刺激してきたモチーフだと思う
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原作では結局最後まで「自分は心のない男だ。所詮作り物のハートだ」と嘆くままで終わっているが「ブリキ男に本当に心がなかったのか?」「どうすれば、どういう時に心があるといえるのか?」というのは登場人物の心を描く上で欠かせない問いだろう。
樹なつみさんの「OZ」では作中で登場する「女性型アンドロイド」がブリキ男だ。何度も心の存在のない存在だと描いておきながら彼女は終盤にたった一つの行動ですべてを納得させてくれる。
- 作者:樹なつみ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2013/07/31
- メディア: Kindle版
あるいは「心臓を持たない男」を主人公として描いた塵骸魔京では「ないと思っていた心臓」がどこにあって今までどのような働きをしていたのかを描き、最後にその心臓を自分のために使うシーンが描かれる。
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塵骸魔京 Windows10対応版
もうちょっとライトな方向で言えば「True Tears」なんかも好きですね。私はヒロミちゃん派です!
「MUSICUS!」はブリキ男が、自分の心を感じるために「選択」をする話
登場するヒロインは4人存在して、それぞれのルートでは1つの結末しかない。しかもそのうちの1つはバッドエンドのみである。その道を選んだ時点で客観的にみて救いはない。
さらに言うと、「尾崎弥子」のルートを除き、いわゆる恋愛ゲームでの綺麗なハッピーエンドと言えそうなものはない。「香坂めぐる」ルートもよくできてるとはが話が唐突に終わってしまいその後の展開が読めない印象がある。これはわざとそうしてるんだろう。
プレイヤーの満足度を考えれば、途中でいろんなifの展開を用意したり多様なハッピーエンドを用意したほうが良いだろう。実際、この作品を酷評しつつ「尾崎弥子」のルートだけ絶賛してる感想ツイートもよく見た。尾崎弥子のシナリオがあまりに綺麗でキラキラしてるので、作者はそのようなシナリオを用意しようと思えばほかのルートでも同じように作れたであろうということがわかる。その方がもっと人気も出ただろうし、もっと評価も高かったかもしれない。
でも、この作品はあくまでも「対馬馨」という自意識モンスターにしてほとんど心のないロボットが、自分の心が動いてしまうわずかな瞬間に全存在をかけ、そちらにベットし、それにコミットしていく過程を描いた作品なのだ。
ブリキ男がロックの世界に出会ったら……
この作品のブリキ男は物語開始時点ですでにちょっと壊れている。
主人公は物語開始時点でエリート高を自主退学して夜間学校に通っているのだが、これは主人公が好きでもない女の子を助けようと「選択」したからだ。
MUSICUS! 主人公が幼馴染を助けようと思った意外な理由とは
頭で考えすぎて、自分の心がわからないという悩みを抱えていた主人公。 そのため不合理で、リスクが大きすぎるけど自分がやりたいと思ったことを「あえて」選択することにとても魅力を覚える。そうでもしないと、自分というものが存在しないと感じてしまう。利口な選択を繰り返して、でも心が動かないままずっと生きるより、自分が心動く瞬間を追い求めていきたい、とそう考えてしまう。
自主退学した時はまだ一時の気の迷いだと思っていたが、ロックと出会い「感動」することを覚えてしまった彼はそのあと迷いながらもズルズルとロックに引き込まれていき、ある時「今までの生活に戻る」か「ロックに全力を尽くすか」を選ぶ。
そして、選んだら今までの生活をスパッと全部切り捨ててしまうし、今までの生活に戻る場合はロックをスパッと切り捨てる。
人間、妥協すればベストではなくともいくらでもベターな道は選べる。勉強を頑張りながら趣味で音楽をやってもいいしバンド頑張りながら人並の幸せを求めたっていいはずだ。でも、常に一切の余力なく物事にぶつかってしまう主人公にとって、何かを選ぶということは「何かを切り捨てる」ことだ。不合理なくらいそれに尽くさなければいけない。 普通に生きていたら心を感じられないのだから。
そのくらい、彼にとって「選択」をするということは重いことなのである。そして、いざ選択をしたら選んだものに対するコミットぶりは半端ない。どんなに悩んでもどんなに未練があっても、周りからどんなに惜しまれようと捨てたものに触らない。
陳腐な表現だけれど、彼の生きざまは、尾崎弥子ルート以外では常に鬼気迫っており、容赦なく周りにプレッシャーを与えるし振り回し続ける。それでもついてきてくれて一緒にやりたいと思える仲間がいるルートとそうでないルートでまた極端に分かれる。(主人公にとって金田は厄介者である一方で、彼についてこれる貴重な存在だったのよな……。)
「自分」として生きるっていうのはここまで大変で、でも素晴らしいと思える作品
この作品は「音楽」「ロック」がテーマだが、別にロックに限らず「自分の心がとっくに死んでる」と思ってる人にはとても刺さると思う。
この作品は表現の世界で生きることの厳しさや苦難をこれでもかと描く。
スタート地点から切羽詰まっているのに、なかなか成功の芽が出ないまま数年しのぐつらさをしっかりと描いている。
売れたら売れたで人が寄ってきてしんどいし
売れなくて自分が一人ボッチになってしまったら絶望しかない。
本当に恐ろしい世界なのだ。
それでもなお表現を通して自分に素直に生きる、自分を世界にぶつけるという体験は得難いものであると描いている。
どうしてもそうせざるを得ない人間はいて、そういう人間を止められるものなんてないのだと訴えかけてくる。
はっきりいって無茶苦茶な作品だけど、それゆえに「エモい」としか言いようがない何かがある。
日々の生活で心が死にかけている、もう死んでると思ってる人こそプレイしてみてほしいなと思う。
うーん、ダメだ。やっぱりこの作品はなんかうまく語れないわー。やってみてくださいとしか言いようがない。ぶっちゃけ私は完全にハマっちゃってるので楽曲リプレイモードだけで4400円ってのがクソ安く感じてしまうので参考にならんです(笑)