すっごいポエミィな語りが多い作品。一方で、地面に足をつけて歩こうとする主人公が描かれている。この二つが両輪となって物語が周りだしてからはとても気持ちよく読めるマンガになってて好き。
最初は主人公と元恋人の我聞くんだけの話だったのに、主人公を中心にどんどん人の輪が広がっていって、群像劇っぽくなっていくのもよい。
4巻からがとっても素敵で面白いと思う
この作品が人気というのは知ってて最初に話題になったころに読んだんだけれど1巻~2巻は正直好みじゃなかった。
少女漫画の主人公はどの子も根っこは純粋で
友達想いだったり、部活に一途だったり
ひたすらにひたむきだったり
はたまた不思議な力を持ってたり。
愛される理由が必ずある。
そうじゃなくちゃ、誰かに愛されることなんてありえないんだって
何千通りもの方法で描かれてる。
それに比べて、私ときたら。
28歳で、無職で、誰かに乗っかって生きることしかしてきてなくて。
優しくされたらすぐにべったり依存して。地に足がついてないんだ。
こんなんでキラキラにあやかろうなんて甘い。私は少女漫画の主人公じゃないから。
だから、自分の力で自分を守らなくちゃ
1巻から3巻のあたりは最初こそ「今度こそ自分らしく」って言ってたけどすぐに「自分はなんてダメな奴なんだ」みたいな話になっちゃって結局別の男に依存してまただめになって行ってって感じでダルい展開。
これ、鬱ゲーを好んでた20代の頃の自分だったら大好物だったと思う。でも、私もう30代後半だからちょっと読むのがしんどかった。というか、今となっては、散々自尊心がボロボロになってるのに、そこで恋愛に走って他者に依存してさらにボロボロになってる姿を見ると、かわいそうというか不快感の方が強いくらいだった。
そういう話だったら「たそがれたかこ」の方が私はよっぽど好きやねんって思ってた。
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なのでその頃はブログでは取り上げようとも思わなかったです。
「空気が美味しい」「ごはんが美味しい」みたいな感覚を取り戻してからの主人公はすごく良い感じで好き
でも、手のひらクルーします。4巻くらいからはものすごく好きです。
- 作者:コナリミサト
- 発売日: 2018/07/13
- メディア: Kindle版
ここから先の主人公を魅力的に感じさせるために1~3巻があったことはわかるんだけど
それまでの展開がほんとにダルかったので本当に救われた気持ちになる。
授けてもらった地図を広げて思う。
まるで宝の地図みたいだなって。
自分の目で今いる道を確かめる作業が新鮮。
そして生まれて初めて、自分の意思で自分の運転で走ってみてわかった。
自分がこんなにも方向音痴だったなんて。こうして走ってみて痛感した。
道を間違えるってことに、私は何よりおびえてる。
なんでだろう。損したくないから?
滑ってるって思われたくないから?だとしたら誰に?
それこそ今は、誰も見てないのに。それこそ、せっかくのお暇なのに。
ポエムによる自己高揚と、実際の行動が両輪として回ってると日常を描いてても話がぐっと動き出す感じする
というわけで、もろもろあってそれまでろくに息もしてない、ご飯もろくに味わえない生活から一転して、とにかく楽しそうに過ごしてる主人公はすっごい魅力的だなって思いました。
やっとたどり着いた目的地の海は、なんていうか、フツーだった。
ゴンさんっていうキラキラフィルターなしで眺めた海は、ほんとにフツー。
むしろちょっと汚い。こんなに海面濁ってた?でも、だけど。
空気は美味しい。
道中であったあの子たちが言ってたように。
遠くに行ったところで、何かが変わるなんてことは全然なくて。
自分の意思で、自分の運転で、目的地にたどり着けたって事実だけ。でも、それで十分。
この後車運転してみたり、女子会やってみたり、
スナックでバイトしてみたりといろいろチャレンジしてて
それぞれで学びがあってすごくおもしろい。
最初の頃しんどそうだったからほんとによかったなぁと思う。
そして、主人公について「もう大丈夫そうだな」って安心できるようになると、3巻まではうざったいなと思ってただけの我聞くんとの恋愛描写もなんかわくわく楽しめるようになってきた。
そんな感じです。
この記事、作品の紹介というよりは、自分の内面の話です。この漫画を読み進めていくことによって、「なるほど自分の好みってこういう感じなんだな」っていうのがわかってきてそれがすごくおもしろかったです。
- 作者:コナリミサト
- 発売日: 2020/04/16
- メディア: Kindle版
それにしても、この作品は一つ一つの表現がうまくて「これって自分のことだ」って思わせるのがすごく上手い
このあたりとか、完璧自分のこと言われてるみたいで「ウっ!」ってなったし、それを主人公が乗り越えていく描写とかちょっと見習いたくなった。
「あんた、人に興味ないのかと思ってたよ。
いや、違うか。正しくは好きな人にしか興味ないっていうか。
それ以外は人間だと思ってないでしょ。
そもそも会話のボール投げてすらいないじゃない。
ここで止めてる」
……私こうなるまで自分のこと割と聞き上手な方だと思ってた――
そりゃそうだよ。ほかのだれかが常に場を回してたんだ。
私はそれに相槌打ってただけ。
それに気づかなかったのは、絶え間なく話題を振ってくれてたからだ。
相槌で済むことを一方的に、常に。
自分が興味ない人が、自分に興味持ってくれるわけないのに。
なのに私、自分には興味持ってほしいんだ。
ボールすら投げないくせに、お喋り上手な人に一丁前に憧れて。
よく見たら、みんな自分の話ばかりじゃない。しっかり相手にボール投げてる。
なんで上からなんだよ。
お前にとっていい人じゃない人間は、汚物として排除なのかよ?
お前潔癖すぎるもんな。自分にも、人にも
アンタ自己評価低くない?
いや、ちゃうな。自己評価水準値が高いんや。
凪ボーイはとってもストイックね!
余談 23話の坂本龍子のエピソードはなんか他人事とは思えなかったやつ(他人事だけど)
主人公と同じく28歳で無職仲間の坂本さん。
あやうくブラック企業に入りそうになったところを主人公に止められるんだけれど。
彼女の言ってることがもうほんとに身につまされて泣きそうになった。
私ね、実際賢かったんです。
ありとあらゆる教科がするする難なく頭に入ったし、
そうして一番頭のいい人が行くとされる大学に入学して。でも3年生の夏くらいかな。
就活が始まったあたりで気づいたんです。私はいわゆる「地頭」ってやつが良くなかった。
周りが大企業に就職していく中、第321志望めくらいの会社にやっと就職して
ミスするたびに「これだから高学歴は使えない」って鬼の首をとったみたく言われて。
みんな本当に嬉々としてその言葉を吐くんです。
まるで何かに復讐しているみたいに。辟易して職を転々として、そのころだったかな。
パワーストーンみたいなものに出会ったのは。前向きに、とにかく前向きに!
後ろ向きな感情なんて悪!「もしもあの時」なんてイフを思うことが畏怖。
そんな効率の悪いことをしていたら…でも、もしかして
後ろ向きな自分を前向きに受け入れることができたら
それこそ、前に……
まんま一緒ってわけじゃないんだけど、部分的に身につまされる部分があって
マンガなのにちょっとウルっと来てしまった……くやしいビクビク