しかるべきことがらについてしかるべきひとびとにたいして、そしてしかるべきしかたにおいてしかるべきときにしかるべきあいだだけ怒る人は称賛される(アリストテレス「ニコマコス倫理学」)
倫理教師が生徒と真剣に向き合うという話はすでに「ここは今から倫理です」という作品がある。
一見この作品もこの作品と似たようなことをやってるんだけれど「ここは今から倫理です」の先生が一見クールに見せて内実は非常に熱いものを持っているのに比べると、こちらの作品は主人公の倫理教師のキャラ個性が非常に弱いです。
人間に興味はあるため、相手の話をよく聞いて、それっぽい倫理ワードを与える。
でも、それだけ。
それによって心が救われた生徒もいるのだけれど、だから何?って感じ。
自分の意志を示そうとしないで、ただただ状況に流されていくだけの主人公が思い出したかのように教科書から故人の名言を語るのを見てるだけでは、読んでるコチラとしては全く気分が盛り上がりません。
Twitterでいい感じの表現を使ってバズってるツイートを見たときの白けた気持ちに似ている。
「イチローの名言とかをシェアして気持ちよくなったその一分後に、全くその言葉に反した発言をしてるアカウント」とか見ると「いとすさまじき。いとわろし」って感じでエモーショナルエンジンがフルドライブどころか完全に停止しちゃうときの感覚です。個人のTwitterならいいんですけど、漫画でやるなとw
わたしは、名言って然るべきときに然るべきキャラクターが然るべき相手に対していうからこその名言だと思っており、この作品での名言の使われ方は好きではありません。
受け売りをするのは全然いいけど、受け売りする言葉にもうちょっと真剣に向き合ってほしい。他人に言葉を授けるなら、自分が向き合ったことのある言葉を語ってほしい。適当にそれっぽい名言をリコメンドするだけなら数年後にはAIができちゃうレベルじゃないかと。
そこが「ここは今から倫理です」と大きな違いを感じます。
というわけで。
この作品は7話までは超つまんないです。
でもここまでが低調なのは意図的なものだったかもしれません。8話からは少し面白くなり始めます。
この主人公全然主体性がない……と思っていましたのは擬態で、8話で「性癖」を自覚することでようやく面白くなってきた
ただ、これは8話まで主人公は善人の皮をかぶってただけだったようです。
「話を聞いてくれる先生」だったんだって?
西寺は別に生徒の力になりたかったわけじゃないんだよ。
内緒話は楽しいよな。相談されると秘密を共有してるみたいで楽しいよな。「自分だけが知ってるソイツ」はまるで自分が特別な存在になったみたいでワクワクするよな。
頼ってくれる生徒がいなくなった今、灯ちゃんだけがいろんな表情を見せてくれる。自分にだけ見せてくれる顔、自分以外の人に見せる顔、他人には隠してる顔。まさに「自分だけが知ってるソイツ」がどんどん蓄積されてる。
「人の中を見る」のがお前の欲情の元、性癖なんだよ
これね。
主人公の「性癖」が明らかになってきてようやく面白くなる。
アダルト業界で生き残る人材は大きく三つ。
空っぽな奴。頭が良くてずるい奴。それと、変態な奴
というわけで、主人公が倫理面からAVを嫌悪しつつもいよいよAV監督としてデビューすることになっていきます。
私も性癖って別にセックスに限った話じゃないと思ってて。主人公の場合、性癖は内面的な要素が大きかったようです。
その性癖をぶつけるような形でいきなりAV監督として作品を作ることに。
映像撮影ってこんな簡単な話なのかなーと思いつつ(ここまで作品中で、主人公が映画監督になりたかったというような話は何度か出ているが、全く主人公が映像撮影をしている描写がない)、どういう展開になるのかはちょっと楽しみです。