頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

最近のこのブログのお気に入りは「アークナイツ」です
アークナイツ
kindleセールの紹介
新NISA解説ブログ
発達障害

「夫のちんぽが入らない」感想(後編)  妻である「さち子」の物語でしかなかったものが、最後に「夫婦」の物語になっていくところがすごく好き

3巻までの内容は昨日紹介した通りです。

www.tyoshiki.com


前半のおさらい 心の絶望と絶望的な状況はズレてやってくる。「心の絶望」を乗り越えさえすれば意外と生き延びられる

主人公は「心のどん底」が先に来た。26歳の時だった。
①元々夫婦生活において「普通」のことができないという負い目があり、夫に甘えることができなかった。
②その状態で新しい学校に移転してからの数か月で仕事が行き詰った。ここでも「普通」ができなくて自己否定に陥った。
③「ちゃんとしなければいけない」という思いが強すぎて、自分自身が自分を追い込みすぎてい

これらは「ひぐらしのなく頃に」のルールXYZのようにお互いが絡み合っており自分にはもうどうしようもないように思えた。
もう自分は死ぬしかないのではないかというところまで追いつめられていた。


この三重苦に対して、主人公は誰でもいいから承認してくれる人間を求めて他の男で寝ることになった。

「堕落」することを通じて「ちゃんとしていなくても承認される」という体験を得た(③)
「堕落」した自分は、夫に助けを求めることを自分に許すことができた。(①)
夫からの助けを得て、自分を追い詰める仕事から逃げる勇気を出すことができた(②)

死ぬしかないと思っていた頃より、そこから10年の方が過酷だったが、それでも耐えることができた

主人公は、今までの反動で働くこともできないまま数年間夫の世話に頼り切るしかなかった。
復帰しようとした矢先に自己免疫疾患で関節が破壊され身体が思うままにならなくなる。
せめて子供をもうけたいという気持ちも、夫との生活を打ち切らざるを得なかった。

それでも、この10年の間は、
一度絶望の中死の淵まで行って、そこから這い上がってきた主人公が再び死のうとすることはなかった。
むしろ、いろんなものをあきらめて捨て去った先に、自分が生きる場所を始めて見出した気がした。


ここから後半戦開始

主人公は前半において、夫の助けを得て長い長い絶望の時を乗り越えることができた。
自分はもう大丈夫だと思えるようになっていた。

しかし、今度は今まで自分を支えてくれていた夫が壊れてしまう。

夫が生徒指導に身を削り、不規則な生活を続けて3年の月日が過ぎていた。

それまで自分にはできななかったことを当たり前のようにこなす超人だと思っていた夫は
自分のような人間を見捨てずに庇護してくれている神のような存在だと思っていた夫もまた人間だった。

彼もまた、仕事のストレスによってパニック障害になってしまう。
日々幻覚に悩まされ、薬なしで生活すらできない状態にまでなってしまう。

夫は、日々の出来事や心の状態をありのまま恥ずかしがらず私に打ち明けてくれた。

学級が崩壊して心身のバランスがおかしくなっていたあの時、私は夫に何も話せなった。
私は一人で抱え込むことの限界を知っている。
死がまとまりつく苦しみも知っている。
夫が同じ目に遭わないように、
自ら死に向かってしまわないように
傍で守ることはできるはず。

そう思えただけでも、
私が死にたいという気持ちと向き合った日々は無駄ではなかったと思う。


彼女は、「あの時」そしてその後も自分を支えてくれた夫に感謝しつつ
今度は自分が「あの時」に自分が夫にしてほしかったことをしてやろうと誓う。

f:id:tyoshiki:20200816075056p:plain



夫を支えるために臨時教師として働き始める

夫を守るためということもあるが、彼女は以前よりはるかに強くなっていた。

子供相手の仕事に就いて苦しんだはずなのに。
懲りずに教育機関で臨時教員を続けている。

毎日事件は起こるけれど、あの頃に比べれば取るに足らないことばかりだ。
「どん底」を持っているだけで、強い気持ちでいられる。


私は持病をこじらせて、手足がひん曲がり、夫はパニック障害。

お互いなかなかの人生だ。

それでも、「どん底」よりも格段に今が幸せだ

これだけの状況でそれが言える強さを彼女は手に入れていた。



そのあと小説を書き始め、夫に身バレなんかもしてしまうけれどそこは実際に読んでみてください(笑

このあたりのドタバタ劇については暗い要素もなく、コミカルで面白いので読んでみてほしい。


すでに原作を読んだ人も、5巻だけでいいので読んでほしい。 


基本的には極めて原作に忠実なコミカライズだけれど、5巻には原作にないおまけもあります。

ちんぽが入らない人と交際して20年が経つ。

もうセックスしなくていい。ちんぽが入るか入らないか、こだわらなくていい。
子供を産もうとしなくていい。
誰とも比べなくていい、張り合わなくていい。
自分の好きなように生きていい。

私たちには私たち夫婦の形がある。
少しずつだけれど、まだ迷うこともあるけれど。

長い間とらわれていた考え方から解放されるようになった。

の後の続きが描かれています。




この後も、二人の生活は大変なこと続きだろうけれど、
それでも二人の生活は途切れずに続いていくのだろうなと感じさせてくれるとても良い終わり方だったと思います。



後半の展開を見ると「リトルバスターズ!」を思い出す。

「リトルバスターズ!」は「心の世界」において何度も絶望させられ、そこを乗り越える経験をした後の主人公が、「心の世界」において絶望から自分を守ってくれていた存在を逆に助け返す。そうやって、弱かった自分と守ってくれていた存在が力を合わせて現実世界における「真の絶望」を乗り越えるという物語だ。

www.youtube.com

al.dmm.co.jp


この話も、そういうところがあるなと思う。

この二人は20年間ずっと夫婦であったけれども、夫がパニック障害になった時に、夫が妻に心を打ち明けて。妻は妻で自分の思いをつづった小説を夫に身バレして。その時初めて深く心を通わせることができたんだろうなと思う。

途中までは妻である「さち子」の物語だったけれど、最後に「さちこの慎の夫婦の物語」になった。夫婦になることによって、今の過酷な状況を生き延びることができるし「あのときよりもずっと幸せだ」と力強く微笑んでいられる

語りはものすごく淡々としているけれど、とてもパワフルな物語だと思う。すごくおもしろかったです。