お勧め度★3
父を殺した娘が、自首するまでの約1年間の生活を淡々と描いた物語。
やたらと空白の多いコマ遣いが印象的で、淡々としてるのに妙に心に残る作品だと思います。
あと、この作品を読むと「アナログフィッシュ」というバンドの曲を聴きたくなると思う。記事の後半にYoutube動画張ってるのでよかったら聞いてみてください。
娘が自分の父を殺すまでの経緯とそれから
ここに居たくないと願った少女
— 荻野純 (@ogino_jun) July 25, 2020
(1/17) pic.twitter.com/J7ucK1DHX8
父親はずっと乱暴な人間だった。
次第にそれがエスカレートして父は母に暴力を振るうようになった。
父の暴力が怖くて何も考えないようになった。
何も感じないようになった。
そのうちに自分の体が透明になることに気づいた。
その能力を使って父親を殺した。
誰も自分の犯行だとは気づかなかった。
誰も自分を責めなかった。
自分以外は。
父を殺した日から父の亡霊に責め続けられる日々が始まった。
自首することは決めていたがそれがいつかを決めかねていた
しかし、なぜかその状態でも自首しようとは思わなかった。
・私は自分がしたことをまだ悪いことだとちゃんと思えていないんだ
・普通になんてなれない。見ている景色が違う。私は、人殺しだ。
・私が未だ自首するべきじゃないと思ってる理由が、うまく言葉になってくれなくて確信できない…こんなになってまだ自分を守っているの?私は
高校に進学する際、家を出ることにした。
完全に一人ぼっちになった。
自首すべきだとは思っていたがそれが今だとはどうしても感じられなかった。
そんなある日、二人の女性と出会った
一人は、水上さんといって明るくて活発で優しくて自分の理想の女の子だった。
仲良くしてくれてうれしかったが、あまりにもまぶしかったので自分から距離をとってしまった。
やはり自分には希望などないと思ったが、それでもまだ自首する気にはならなかった。
・ダメだ。汚してしまう。私がこの子の近くにいちゃためだ。
・やっぱりまだだ…今、自首したら 全部投げ出すことになる
もう一人は中山先輩といってちょっと変わった人だった。
この人ならなにを言っても受け入れてくれそうな気がした。
なぜか先輩には躊躇せず自分が父を殺したことを話してしまった。
自首するタイミングが決まった。
・そうか、私は罰を受けるのが怖くなかったんだ。失うものがなかったから。なくしたいものを何も持っていないから。このまま罰を受けても意味がない。だから未だ自首しないんだ。失いたくないもの、罰を受けても帰りたい場所。ここにいたいと心から思えた時、自首すればいいんだ。
それからは、自分の意志で水上さんと中山先輩と友達になり、
学校でも自分なりに精一杯思い出を作ろうとした。
水上さんと一緒に登校したり、一緒にバイトをしたり
文化祭で雪女のやくをやったり
音楽をやってる中山先輩のために歌詞を考えてみたりした。
そんな「普通」の日々を楽しんだ。
その過程でいろんなことがあって
一度は自首すらせずにだまってこの世から消え去ろうと思ったこともあった。
でも、先輩は黙って消え去ろうとした自分を見つけて引き戻してくれたし
水上さんは自分のせいで大けがを負ったのに、その後でも自分のことを大事な友人だと言ってくれた。
心が満たされて、透明になれなくなった時に、いよいよ自首しようとする。
今日でほとんど気持ちの整理がついた気がする。
もし私に、罰を受けたその先の人生があるのなら
居場所に…帰りたい。
そこで生き抜きたい。それが私の希望。
ここからの展開が素晴らしい。
先輩だけでなく、水上さんにも真実と別れを告げる。
お父さんを殺さなければこんな日が続いたのかな?
それともまだお父さんがいたら、私はあのままの私で
センパイやカナと出会うことはなかったのかな?
私に、普通の幸せを手にする方法はなかったのかな?私は、どうすれば 幸せになれたのかな?
母親にも兄にもきちんと罪を告白する。
殺した父親の父(つまり自分の祖父)にも殺した事実を告げにいく。
一番最後に、自分のことを見つけてくれた先輩との別れのシーンがある。
今までどんなことがあっても泣かなかったが、
ラストシーンでは涙をこらえ切れずに立ちすくむ描写がある。
とても胸が痛い。
でも、涙を流すのは一瞬だけで、すぐに気を引き締め、毅然と前を向いて歩いていく。
- 作者:荻野純
- メディア: -
「罪と罰」のシナリオと「百合」を混ぜてくるのズルい……
私は「カラマーゾフの兄弟」は全くわからないのだけれど「罪と罰」は好きなんですよね。
素直に百合を楽しめるようにするためか、透明という設定のためかはわからないけれど
「罪と罰」と違って主人公の行為は同情すべき要素がそれなりにある。
そのおかげで、この作品の主人公と先輩の「友情」描写はとても良かった。私は百合といってもあまり恋愛描写が強いのは苦手で、こういう淡々としていて、それでいて深い結びつきを感じられる、限りなく「友情」に近い関係が好みなので、ドストライクでした。
あと、「心が諦めると透明になる」という話だと「トランスルーセント」って話がめちゃくちゃ好きです。
トランスルーセント 彼女は半透明 コミック 全5巻完結セット (MFコミックス)
- 作者:岡本 一広
- 発売日: 2006/11/22
- メディア: コミック
この作品の上位互換バージョンが「CARNIVAL」
この作品は、「透明人間の骨」の上位互換バージョンになっています。ネタバレはしたくないので詳細は避けますが、主人公の異常なまでの忍耐力の強さとさらに「共犯」として主人公を縛り付けるヒロイン「理紗」の存在により、1年どころか7年間も地獄の中で耐え続ける話になっています。特に「完結編」は壮絶です。
「透明人間の骨」をすでに読んで好きな人、読んでみて面白かったという人は絶対にプレイしてほしいやつ。
新作は「百合姫」で連載している「セメルパルス」
セメルパルス、戦闘シーン。 pic.twitter.com/07FbZi0z8u
— 荻野純 (@ogino_jun) August 4, 2020
セメルパルス semelparous: 1【イラスト特典付】 (百合姫コミックス)
- 作者:荻野 純
- 発売日: 2020/04/16
- メディア: Kindle版
この人の作品は基本的に完結してから一気に読みたい感じなのですが、百合姫作品はどうなるかわからないので早めに読んでおこうっと。