今までずっと、俺にしか描けないものも、読者に伝えたいこともなかった。
でも今は違う!俺は思い出したんだ!だから描く!
藍野さんに夢をあきらめさせるために描くんじゃない。
俺はマンガで、どうしても君に伝えたいことがあるんだ!
というわけでタイパク2巻読みました。
タイムパラドクスゴーストライターについては下のnoteでかなり頑張ってサルベージが行われていた。
note.com
佐々木が明確に問題視されている部分は「個性の無さ」だけになる。なので他の画力だとか構成力だとかその他諸々、個性以外の部分に対して問題があるとは言われていない。よって逆説佐々木は「描きたいもの」さえ見つけられれば十分プロ作家としてやって行けるだけの地力があった。
自分の好きなものを描きたいわけでもないし、ちやほやされたいわけでもないし、身内とか少ないファンだけを相手にするべきではないと思っている。「みんな」とは文字通りの「みんな」であり、漫画を以って衆生を退屈から救いあげるのだという欲に取り憑かれている。多分この時点の佐々木はそういう漫画狂人なのである。
これについては、最終話においてきちんと実現している。
いままで「全人類が楽しめるマンガ」を描こうとしたら全く個性がなくなって作品が死んでいたのだが
最終話において「藍野さん一人に対して描いた漫画」が、逆説的に「全人類が楽しめるマンガ」になっていた。
それを心の底から描きたいと思った時に、佐々木は自分を縛っていた呪縛から解放されたという終わり方になっている。
この後佐々木がどうなったのかについて、33pものボリュームを使って描きおろしがされている。
後日譚はとにかく「読者に嫌われてしまった佐々木を救いたい」という一心で描かれているように思う
33p使って多くの人は読まないであろう、忘れてしまったであろう作品をきちんと供養するような、喪の仕事が行われている。
- 作者:矢吹 弘子
- 発売日: 2019/07/12
- メディア: 単行本
罪と罰
佐々木はパクリ作である「ホワイトナイト」が無事に完結した後は
藍野のためだけに作った傑作を封印し、「自分が描きたいもの」を描く作家になる。
しかし「描きたいものを見つけた」主人公の作品はジャンプ読者には受け入れられない。
①まるで「パクリ作品で得た名声をすべて吐き出す」かのように、自分が描いた作品が読者に受け入れられない期間が5年も続く。
2作目は3か月で打ち切り。
3作目は1年ほど粘るものの打ち切り。
4作目は最速の7週目で打ち切られてしまう。
②ついでに「なぜか5年経ってから」、自分がホワイトナイトで得た印税をすべて藍野に渡すことにする。*1
③さらに、時空を無視して「精神と時の部屋」で何度も繰り返しをやった反動が来ていきなり身体が崩壊し死にそうになる。
過去に「パクリ」や「チート」をやった因果をすべて受けるという展開ですね。
一度すべてを失い無になってからの再起
でも、身体が崩壊するさなか、諸悪の根源である「おじいさん」がやってきて、主人公のことを助けてくれる。
また、1話で主人公をケチョンケチョンにこき下ろした編集は「面白かった」と自分を認めてくれる。
*3
その後、主人公は周りの自分を評価してくれる人たちの支えを受けて再起し、それからもマンガを描き続ける。
そして、長いチャレンジの果てに、ついに傑作を生みだすのだった……
という終わり方です。
誰かのためにではなく、自分のために。自分が好きだからマンガを描くことを忘れずに。
例え受け入れられなかったとしても、自分が描きたいと思えるものがあるうちは描き続けよう、みたいな感じですかね。
「ジャンプ」でやろうとしたことが間違いだけど、やろうとしていることは悪くなかったとも思う
佐々木への名誉回復、それから作画担当者へのエールを描きたいという気持ちはすごく伝わりました。
ただ、この描きおろしでもやっぱりこの漫画の悪いところが出ていてるなと思いました。
とにかく読者の納得感をないがしろにしすぎだとおもうんですよね。
佐々木の変化を描くのは良いけれど「ジャンプ」にこだわる理由がなくなった以上、ジャンプにこだわり続ける描写に説得力がないです。
「読者に否定されても自分の描きたいものを描き続ける佐々木」を描きたかったのでしょうが、これジャンプ読者の立場からしたら反発すら覚えるでしょう。
まして、単行本を買ったのは曲がりなりにも批判だらけの中でこの作品を好きになったかその後に興味を持ってくれた客のはずです。
それに対してこういうものをぶつけてくるの、普通に「王には人の心がわからない」みたいなことを言いたくなるかな……。
うん、やっぱり「ジャンプでは」打ち切られて当然だと思います。
ただ、ほんとに「描きたいものをぶれずに描く」という点を貫いたという点ではよかったと思います。
やりたいことが悪かったとも思いません。何より、絵は凄くうまいので、何かで評価されてほしいなと思います。