の続きです。前回はまずBS(貸借対照表)を見ながら売上以外の数字を頭に入れてみました。
でも、BSだけ見て結論出すにはまだ早いです!
先の記事はあえてBSだけを見てわかることを書いているので、この記事を読むことで、さっきの記事で「おや?」って思ったところが「なるほど」にかわるシーンも出てくると思います。
では次は「BSだけ見ていたらではわからないこと」を見てみましょう。
今年一年でDLSiteがどういう取り組みをしてきたのかをまとめてみていきましょう!
会社HPで見てもいいのですが、こういう時に役に立つのが「PR TIMES」です。
prtimes.jp
過去のニュースが一覧で見れるのでとても便利。会社のお知らせ欄に載ってない情報が載っていることも多く、さらにプレスリリースの出し方で会社の性格とかもなんとなく伝わってきます。そういう意味で「投資家にとって必須の7アイテムのうちの1つ」となっています。こういうサービスは無茶苦茶強いですよ(※)
利益度外視でクリエイターを支援する活動を実施
①約3か月間に渡って、30%の利益を捨ててクリエイターに還元していた。
というわけで、さっそく見ていくとDLSiteさんは、マンガや評論などの分野のクリエイターを支援するために3月9日から5月27日まで「販売初日の」売り上げの100%をクリエイターさんに渡していたことがわかります。
prtimes.jp
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すでに作品があるクリエイターさんとしては「売上=卸値」ですから、とりあえずDLSiteにクリエイター登録しますよね?さらにいうと20%オフしても通常時より手元に入ってくるお金多いですよね?
というわけで、コロナの影響で困ったユーザーさんが登録し、DLSiteを利用するクリエイターさんが一気に増えました。
サークルさんにとってはDLSite初日売り上げは非常に大きく、場合によっては半分くらいを占めていたりします。3か月の間(2020年の会計年度からすると2か月の間)、DLSiteではその分の売り上げに対する利益が全く入ってこなくなります。また、皆さんご存じだと思いますが、4月だけならともかく、5月は年間でも非常に新作が大量に出る時期であり、ここの売り上げを逃すのはかなりの痛手だったと思いますが、だからこそクリエイター支援のためにこの施策を実行したのだと思われます。
※月別販売本数はわざわざこの本を買って確認しました。こんな感じになってます。
www.dlsite.com
2020年度の決算で本来あるはずの利益が大幅に減ってる理由についてまた一つ情報が増えましたね。
BSだけみてたらわからないことが、プレスリリースみたらこうやってわかることもあります。
2か月分の利~益~を捨てて~戦う漢!DLSiteマ~ン!(DLSiteは女性スタッフさんも多く活躍されています)
②さらに自社サービスだけでなくリアルでの同人誌即売会の支援のためにサービスサービス!
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主に女性同人向け即売会支援をめちゃくちゃ一生懸命にやってくれてます。この「トリオキニ」サービスの開発されたのは女性の方で、エイシスがサービスを買収し、現在もその開発者の方がサービスを運用されています。
③同人誌即売会の火を絶やさぬように「エアコミケ」を実施。クリエイター支援のためにイラスト集を超安価で販売など(おそらくDLSite負担がかなり大きい)
④さらに、違法アップロード取り締まり活動でクリエイターを支援(サービス利用無料)
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⑤クリエイター以外にもCi-enの用途を拡大?
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『Ci-en』は二次元に関わる方のみならず、飲食店店舗様、販売店店舗様など、新型コロナウィルス感染拡大により支援を必要とする全ての人にご利用いただけます。
特にこのCi-enはDLSiteのサービスの中で久々のスマッシュヒットと言ってよく、この1年であっという間に売り上げが2倍になりました。
FantiaやPixivFANBOXでは低い手数料で自分の作品を売れるというメリットがあるのですが(特にFantiaは非常にそのあたりのシステムが洗練されている)
Ci-enを使えば「DLSiteでの自作品売上や、知り合いの作品を紹介することによるアフィリエイト報酬」につなげることもできます。
「インターフェースがダサい」という問題はあるものの、できることが多いのもメリットです。これに気づいたクリエイターは軸足をCi-enに移し始めるようになり、特にVTuberや声優たちの利用が増えたことで1年で売り上げが2倍以上に伸びており、さらに機能がどんどんと拡充されて、後発ながら他のクリエイターサービスに追随しようとしています。
さて、ここまではどちらかというと短期的な利益を度外視してクリエイターを支援することによって、長期的なクリエイターからの支持をうけとったという活動ですね。
次に、今年DLSiteが積極的に投資して強化していった分野を見ていきましょう。
結論を先に書くと、「音声」を軸にしてできそうなところにいろいろと手を広げていってます。
①女性ユーザーの音声需要を伸ばすため、アイドルユニットの支援や、タレントプロデュースに近いところを行っている
②増えたユーザー数をたのみに、DMMに負けじとゲーム部門に挑戦している
③もはや読み物にとどまらずボイスコミックやオーディオコミックといった領域に幅を広げている
正直申し上げますと、オールドオタクの私としてはどれもピンとこない施策です。
ちょっと危なっかしいくらいに感じますが、だからこそ、うまくいけば完全にDMMを突き放せることになると思います。
こういった挑戦ができるのも本業のデジタル同人の売り上げが好調で安定した利益が出せているからこそなのでしょうか。
「2.2次元」を掲げ、乙女向け音声コンテンツを拡充したり、女性向けアイドルユニットを支援
同人音声作品の売り上げでは、男性向けより少し女性向けが弱いのですが、そのテコ入れという感じでしょうか。
女性向けはとにかく「プロの声優さん」が声優を担当されていることが多く、供給が少なめなのですが質が高いものが多いです。
年間トップの作品がこれなので、パッケージやシチュエーションで訴求するよりなにより、まずは声なのです。
販売ページを見ても「声優一覧」から作品を選ぶようになってますからね。女性はボイス作品に対してめちゃくちゃ要求水準が高いことがうかがえます。
また、シチュエーション特化作品もあるけれど「ドラマCD」仕立てになってるものが多く出ている印象です。
というわけで女性向けの音声市場を広げるには、まず「推し声優を作る」必要があるわけなので、アイドルユニット作りは自然な流れだと思います。
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来年はこの動きが加速しそうな予感がしますね。
「音声」特に「ASMR」ドメイン領域の強化。VTuberやインフルエンサーの取り込みが目立つ
まずは2019年度のニュースですが、まずは音声スタジオの開設と声優プロダクションの開始がやはり大きい。
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個人・法人を問わず気軽にご利用をいただける音声収録スタジオ『DLsiteスタジオ』の運営を8月に開始いたします。先んじて、本日・7月26日にスタジオの公式サイトを公開し、ご利用の申し込みやご相談の受付を開始します。通常の音声収録や配信番組の収録、ボーカル収録のほか、特にバイノーラル音声の収録に注力し、クリエイターの皆さまのこだわりの音作りを支援してまいります。
ここから矢継ぎ早に音声作品の強化を進めています。
①「ZOWA」というアプリを開始
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150名を超えるアーティストによるハイクオリティーなASMR動画を、専門サービスならではの高音質な環境でご視聴いただけます。サービス内に視聴を遮る形での広告を設置しておらず、完全無料でご利用可能
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1再生8.8円!
ZOWA関係はプレスリリースが多いので、各自でご確認ください。矢継ぎ早にどんどん新しいことに挑戦していて面白いです。
②ASMR及びVlogに特化したプロダクション事業を開始し「有名人」の取り込みを狙う
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DLSiteといえば今のところは「システムで儲ける」会社というイメージであり、これはこれで間違っていないと思いますが、
今年の動きを見ていると、むしろ「営業力」で影響力の強い人を取り込もうとしている印象を持ちますね。
もしかしてサイバーエージェントみたいに体育会系な文化の獲得も目指しているのかもしれません。もしそうだとしたら他のシステム会社では太刀打ちできない強みになりますね。
③絵だけでなく「ボイスコミック」「オーディオブック」事業を開始し、それに合わせてDLSiteビューワーの機能も改善
なぜかプレスリリースに載っていませんが、2020年11月から「ボイスコミック」を開始しています。
www.dlsite.com
今の時点ではDLSiteが費用を負担していて、無料でボイスコミックがダウンロードできるものがたくさんあります。
試してみましたが、現時点では「方向性をエロゲに寄せすぎ」という印象です。
「エロゲを知らない人」にはこれでいいのかもしれませんが、個人的にはネガティブな印象です。
ここまでくるとエロゲの方がいろんなオプション設定や途中スキップができるなどシステム面で充実しているため、
「質の悪いエロゲをプレイしているような感覚」を覚えてしまいました。オプションの充実などシステムの改善が必要だと思います。
実際には逆の発想なのかな?
「音声作品」が軸であり、「人気が出た音声作品にあとからコミックをつけることができるよ」という形でスケールしていくのではないでしょうか。
果たしてこの施策がどの程度スケールするのかは結構怖いと思っていますが、確実に需要はあると思うのでうまくそこに合わせた作りにしてほしいなと思います。
ゲーム事業分野を強化すべくゲーム会社から事業譲渡を受け子会社「トライシス」を設立
ポイントに釣られてにじGAMESを何回かやりました。
特別悪いところはないものの、ぎゃくにいえば「今までプレイしたことある」という感じです。
運営ノウハウ以前に、ゲームとしての出来が今の時点ではDMMに負けてると思います。
DMMゲームと同じく「処理が重たい」ので積極的にやろうという気持ちにはあんまりなりませんでしたし
DLSiteには優秀な同人ゲームがたくさんあるので、比較した時にブラウザゲームをやろうという気があまりしません。
こちらはこちらで今普及のためにポイントをばらまいてくれているのですが、あまりばらまきすぎても使いたいとおもわなければ意味がないような気もします。
トライシス社の活躍により、これまでの流れをぶっ壊すような新しいゲームを期待しております。
企業についてチェックすることの面白さが少しでも伝わったなら幸いです
実際に投資する場合は、さらに「マクロ環境」や「割高・割安判断」を行って投資することになりますがとりあえずDLSiteについてはここまで。
ところで、はてなには、投資家を嫌悪する人が非常に多いです。以前にヘイト発言をはてブで投げつけられたこともあります。
私は株式投資にはいろいろ問題があることも認識してますし他人に株式投資を強くおススメするつもりはありませんが「興味のある企業のことを理解する」っていうのは普通に仕事でも必要なことだと思っており、なにより面白いことだと思います。この面白さはまで否定するのはもったいないと思います。
この件で「企業分析ってちょっと面白いかも?」と思ってもらえた人におすすめの記事をいくつか紹介しておきます。読み物として面白そうなものですね。
余談ですが、PRTIMESはDLSiteと同じくプラットフォームビジネスです。競合は多いのに圧倒的な利益率を誇る稀有な企業です。上場直後にこういう会社の株を買えた人はほんとすごい……
この企業はDLSiteよりはるかに売り上げが小さいです。しかし利益率がヤバイ。
来季売上予想は47億円なのですが、経常利益が17億です。この企業の時価総額は429億円です。高い成長力と安定した収益力が高く評価されています。
さて、DLSiteは売り上げが250億です。あと2年ほどは利益が出ないと思われますが、
エイシスとしては利益を上げても親会社に配当として吸い上げられてしまうのであんまり利益を出したがらないとは思いますが、利益創出ターンに入ればおそらく経常利益はこのPRTIMESを余裕で越えてくることになるでしょう。(どこかの時点でMBOを仕掛けてゲオグループから出ていく可能性もありますね)
ところで、DLSiteを運営するエイシスはゲオHDの100%子会社です。エイシスの時価総額はゲオ全体にまるっと乗ります。ゲオHDの時価総額は488億円です。
ちなみに、ゲオ本体についてですが、中古ショップのゲオをリストラしてセカストに業態転換中なので多分特別損失計上なども今後出てくるでしょう。
以上を考えた時に、果たしてゲオの今の時価総額は高いと思いますか?安いと思いますか?
短期目線と長期目線で大きく評価が変わると思いますが、こういうのを考えながら数年後の時価総額を想像したりするのと楽しいと思います。