【はじめに注意】記事の後半で16巻のネタバレを書きます。ハコヅメを未読の人は「初見の人バイバイ」ポイントまで来たらそっ閉じをお願いします。
「ハコヅメ」は第一話から伏線だらけの作品であり、徐々にその伏線が明かされていくという点が非常に面白い作品であるため、初読の際はできるだけネタバレなしで読んでほしいとおまってます。
「ハコヅメ」作者さんのキャラクターの作り方や伏線の貼り方は、ジョジョ作者の荒木飛呂彦さんに似てる
未読の人はまずこの記事読んでください。
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タブチ:いや、全然、担当者も気づきませんでした(笑)。
講談社ヒロタニさん:気づかなかった。
講談社ヤマダさん:私もまったく。
―― ええっ(笑)、担当編集が3人いてみなさん今初めて知ったんですか。で
泰:話の流れというよりも、キャラクターについて考えるんです。ほら、警察って身上調書、取るじゃないですか。
―― ほら、って言われても。
タブチ:逮捕されると取られるやつですよね。交友範囲とか、生活の様子とかが分かる、超細かい履歴書。
泰:はい。その身上調書レベルを頭の中で取ってから、キャラクターを出しています。自分の中でその人の人生を考えておかないと、しゃべらせられないので。
―― 身上調書を取られた後はどうするんでしょう。あれこれインタビューするんですか?
泰:そうかもしれない。でも……ちょっと違うかな。
―― じゃあ、こういうことを聞いてみようというよりは自動運転みたいな感じですか?
泰:ああ、自動運転です。こういうエピソードを描こうって思ったら、キャラクターがしゃべっている動画を一時停止してネームを書いて、また再生して。でも今の説明だと分かりにくいから、ちょっと順番を変えて、とかいう考え方ですね。
―― じゃあ、設定した状況に登場人物を配置して、ピッてやると再生が始まるんですね。
泰:です。ただ始まらないことがあるから怖いですよね。困りますよね。
―― いや、普通始まらないんですよ(笑)。
泰:作画のときに何か余計なものを描いたりとかして、後から伏線として転がせられるだろうなというのを、いろいろと。
―― あ、それを最初に「後付けです」とおっしゃっていたんですね。4~5年後のオチが見えているとはいえ、全部が予定調和ではない。
泰:そうそう。
―― 別に描かなくてもその回の話は成立する要素だけど「何かこういうものを描いておくといいんじゃない?」という思いつきがやってくる、みたいな?
泰:そうですね。これを描いておくことで、後から、「ここのときから考えていましたよ」って演出できるな、というリスク回避です。
泰:「こういう時期に、こういう話を描くというのは、編集部の視点から戦略的にも良いと思いませんか? だからこの話を描かせてください」という企画書というかプレゼン資料ですね。(ヒロインの1人)カナが捜査に絡んだ殺人事件の長編を単行本1冊ぐらいでまとめますよ、という企画書を出して、採用となって、出ました。
このあたりのやり取り見てて、荒木飛呂彦さんのキャラクター創作術を思い出しました。かなりカチッと作り込んだ上でキャラを動かしているのがすごい。
とにかく初読時はネタバレ無しで読んでほしい&今が一番読むのにベストなタイミング
ドラマ化した後で読み始めた新参者なのですが、この作品はここ最近読んだ漫画の中で一つ頭抜けてると思います。
私は今までこの漫画について何話か雑誌の立ち読みで読んだことはあり、交番勤務の女性警察官を主役とした一話完結型のお仕事漫画だと思ってました。
それは間違いというわけではないんですが、それだけではなかった。
まとめて17冊+アンボックス(17.5巻)を読んだけど、今このタイミングで読めて本当によかったと思います。
これからどんどんドラマ見た人たちからキャラクターに関するネタバレ語りとか増えてくると思いますが、この作品はほんとにネタバレなしで読んでほしい。
一部の主人公たちの活躍だけではなく「組織」で戦うことをマンガで描く、ということをこの上なく丁寧にやってくれている作品
本作品、何気ない日常回で描かれてる内容も後々色んな所で繋がってきます。
一度目読んだあと、1巻からさかのぼって二度読み返したくなるくらい、いろんなところに伏線が貼られていてます。
しかもそれがちゃんと整合性取れる形になってるのが本当にすごい。
単に伏線がはってあるだけの物語だとそんなに評価しないんですが、この作品は「警察官」というなじみがありそうでみんな知らない職業について
・普段はギャグ風味に仕事の風景を描写していくことで一般人である我々と当事者との間の溝を埋めつつ
・物語内でのキャラクターとの人間関係や実績を積み重ねていき
・その積み重ねを元にして、ここぞという時に長編エピソードを投入してきます。
こうした丁寧な描き方によって、長編エピソードでは「組織としての総力戦」で問題解決にあたる展開でも、一人ひとりの働きをしっかり理解しながら読み進めることができます。
今までギャグ回として何気なく読んでいたエピソードや事件などが有機的につながっていくという展開は「日々の何気ない積み重ね」を重視する作者さんの思いも込められているのでしょう。
「11巻~12巻」「14巻~15巻」「アンボックス」などで描かれれる長編エピソードは、単体で読んでも面白いかもしれませんがそれまでの巻を全て読んできたからこそ、より面白く味わうことが出来ます。
私はこういう「いろんな要素が一つにギュッとまとまる瞬間」が本当に好きです。今までもそういう作品を好んで紹介してきたつもりですが、本作品はその中でも上位にくる面白さでした。
そんな話の繋がりが面白い本作ですが、
ちょうど17巻の最後で大きなネタが投入されたところです。18巻以降は作品の流れや作品の印象自体が大きく変わってくることもあり、17巻までが第一部みたいな感じです。
そういう意味で、本当に今このタイミングでまっさらな状態で読んでほしいです。
【というわけでここからが未読の人バイバイポイントです】
まだの人はまず作品を読んで見てね!
16巻 男性の性被害者の描写がめちゃくちゃキツかった……
この作品に登場するとあるKという人物は作品でも屈指のイケメンである。しかも顔だけでなく、他者にだらしない姿を見せないよう自分を律する意思をもっており、魂の方もイケメン。
※主人公である「川合」は恋愛漫画好きなメンクイなので、Kに惚れている。
しかし、このKは彼女ができても長続きしない。作中でも、途中までは女性側から猛プッシュを受けて付き合っていたが結局別れることになった。
Kは幼馴染の女性を気遣うばかりで自分自身は恋愛に全く興味を見せない。
宴会芸ではAVネタを披露したり自分でもAV8段を自称するなど、普段はスケベなキャラであることをアピールしているが不意に性的な話を振られたりそういう状況になると拒否反応を示す。
冗談めかして「性的な目線を向けられると萎える」と言ってみたり、女性陣からのアタックもどこ吹く風な感じでいなしていた。
そんなKについて、何度か過去話が合ったのだが、16巻でついに彼が幼馴染にも隠していた秘密が明かされる。
その秘密は思ったより残酷なものであった。
本当に性的被害は一瞬でその人の人生そのものというべき尊厳を破壊してしまうのだなというのを痛感させられる。
この作品中では16巻までに3回男性の性的被害の案件が登場しているし女性被害者の案件も出てきていて、その都度性的暴行の被害者に対する接し方の難しさが語られてきた。
また、「知識としては」このマンガを読む前から理屈ではわかっているしブログでもなんどでも書いてきた話ではある。
それでも、それまでのキャラの描き方とのギャップと、きちんと描かれていた伏線などを思った時にすっごいゾワッとした。なんならちょっと吐き気がするレベルだった。
そして、Kは自分がそういう経験をしていながら、幼馴染の藤さんのことをずっと大事に見守っていたりそれが自分にとっての癒しになっていたと告白したりする。(スロウハイツの神様感ある)
Kが幼馴染の女性や主人公である川合に対してやたらと過保護だったりしたということが合点がいってしまった。
まるで連鎖する虐待を描いた漫画「フルーツバスケット」やら、「残酷な神が支配する」に登場してきた大人組みたいじゃあないですか。
私こういう描写にすごく弱いんですよ……。ちょっとウルッとしてしまう。
16巻とか17巻のAmazonレビューを見ると、「主人公川合が何とかしてこのKを癒してほしい、二人で幸せになってほしい」という感じの感想がずらっと並んでいる。
べただけど、私もそう思ってしまった。
それにしても……
ネットで見ると、性被害の告白をする人たちや、ネットでフェミニズム的な活動をしている人たちはやたらと自尊心が低くて、他者の批判はできても自分を主語にして語ることすらできない人が多い。
時々イラっとすることもあるのだけれど、改めて「そのくらい傷ついているのかもな」と、もうなんとも言えない気持ちになるな……。
性犯罪は本当におぞましい行為だから絶対に許してはいけない。
そして、被害者の人には奪われた幸せを取り戻してほしい。そう思わずにはいられない。