頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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発達障害

「少年のアビス」 いろんな人間が「わるいこと」をする時の感情がめちゃくちゃ丁寧に書かれててすっごい面白い

評価は最新刊まで読んだ上で付けようと思うけれど、とりあえず3巻まで読んでみた段階でのメモ。



非常に面白い、というかすごく私好みの作品

この作者さんの作品は「ヒメゴト」も「初恋ゾンビ」も途中で挫折してしまったのだけれど、この作品は何か最後まで追いかける予感がする。

1話だけで1記事ぶんの感想を書けちゃいそうなくらいにいろいろ考えさせられる回もある。一気に読み進めるのはしんどそうだから、4巻以降は1巻ごとにジワジワと感想書いていくかもしれない。




この手のテーマの作品は結構読むのがしんどいのだけれど、そこから何かしら希望みたいなのを描かれるといいなと思う。

①介護やクソみたいな家族に苦しめらえて人生に希望を持つのが難しくなっていた人公という意味では「たそがれたかこ」「キラ☆キラ」「無敵の人」などがあり

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②田舎の閉そく感がしんどすぎてみんなおかしくなってしまう、という方向性だと「聖★高校生」とか「悪の華」とか「スキップとローファー」とか「ミスミソウ」「屍鬼」などなどを思い出す。

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③ナギと似非森のような共依存の関係は「致死量ドーリス」あたりのイメージだろうか。

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④これにさらに「発達障害」などの要素を加えると「君に愛されて痛かった」「奈落の羊」などのような救いのない話が展開される。

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このように、類似のテーマを描いた作品は結構いろいろある。



私は昔からこういうテーマの作品に引き込まれるところがあるのだけれど、それは「一度地獄(悪の道)を経由して(運が良ければ)生還する」という過程が私にとって魅力的だからなんだろうと思う。

現状は完全に行き詰ってて、どこかで現状を変えるためにアクションを取る必要があるのに、なかなか健全な方向を選ぶのが難しい状況って結構あると思う。そういう時は、先に「堕落する」「悪い方向に進む」という、遠回りというか下手をすると死んでしまうようなリスキーな道を選ばなければいけない人もいる。

私は今までの人生で勇気がなくて、こういう選択肢を取れたことがほとんどできなかった。退職や転職は何度もしているが、これは自分の意思というよりは環境に耐え切れなくなってやむなく選択しただけということが多い。自分の意思ではなく状況に流されるようにその選択をしたものだから、状況は決して良くならなくて、ずるずると状況は悪化していった。私は自分がそういうくっそつまらない人間であるせいか、物語中で「生き伸びるために一度堕落する」という道を選ぶ人たちを見るとなんか魅力を感じてしまうのかもしれない

こち亀の両さんが、「不良より、ずっとまじめに生きてる人の方が偉い」みたいなことを言ってるコマがよくツイッターで拡散されていて現実においてはその通りだと思うわけだけれども、
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やはり物語としては「堕落→再生」の道を選ぶ人たちというのは魅力的に見えてしまうんだよね……悔しいけど。




序盤の印象 : 圧倒的な田舎の閉そく感の中で絶望して死んでいくだけだった高校生が、とある出会いをきっかけにドロドロの人間関係に巻き込まれていくお話……なのかな?

男子高校生の黒瀬令児は、

①看護助手の母
②引きこもりの兄
③認知症の祖母

との4人でなにもない地方の町で暮らしていた。

母親に楽をさせるために、大学に進学せずに就職することを希望していた令児は、
自分の住む町を出たいと心の底では願いつつも半ば諦めて、自分が町に縛られていることを理解しながら漠然と日々を過ごしていた。

文章だけだとまぁよくある田舎の閉そく感を描いた物語・・・くらいな感じだけれど

人間関係が完全に終わっていて、どこにも逃げ場がない。

孤独だとか、なにも娯楽や刺激がないというだけならまだしも

主人公の家族といい、幼馴染といい、あらゆる方面から丁寧に主人公の自由を奪おうとする。

完全に奴隷として扱っているのに、奴隷として愚痴を言うことも許さない。

主人公が、自分の意思で周りの人間に奉仕しているかのように振舞うように強いる。

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ただでさえ希望がない生活を送っているのに、

そこにとびっきりの美人が「心中しようか」と持ち掛けてくるものだから、主人公もフラフラと死に吸い寄せられてしまう。

しかし、ある時令児の好きなアイドルグループ「アクリル」のメンバーの青江ナギと知り合い、親しくなる。
令児は身の上の話をしながらナギからの頼みで町を案内するが、彼女は町の自殺の名所である「情死ヶ淵」を話題に出し、「私たちも今から心中しようか」と持ちかける。

この作品、主人公であるレイジと青江ナギだけが異常なわけではない。

というところから物語がスタートするのだけれど,

読み進めていくと、二人だけの話ではなくなっていく。

いろんな人間を巻き込んでどんどん死の誘惑が広がっていくのだ。


そもそもが、主人公を苦しめる田舎の閉そく感は主人公だけに作用しているわけではない。

他にも田舎に適応することが出来なかったり、その構造の中で苦しんでおかしくなってる人たちがいる。


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皆が、なんとかして今の救いのない生活から抜け出そうとして「相手を見つけてその人と堕落」するという描写がいろんな形で描かれる。


閉鎖的な田舎では「悪いこと」が全く許されないもんだから、そもそも一人では何もできない。悪いことをしようと思ったらまず秘密を共有できる誰かを見つけるところから始めなければいけない、というのが非常に面白い発想だなと思う。



なんか自分がホワイト企業に勤めてたけど病んでしまった時のことを思い出したわ……


世界自体がゆがんで見えるような描き方がすごく好き

主人公を中心とした物語にすると「私の少年」みたいに輪郭がはっきりとしたわかりやすい物語になる。

私はそれはそれで好きなんだけれど、この作品は、なんか世界自体がボロボロになってて、その中でいろんな人間が壊れていく様子を描いていてより惹きつけられる。

3巻のチャコが家族に対してブチ切れた時の描写がめちゃくちゃ怖い。

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これうちも同じような感じだったけど、ここまで明晰に言語化できるの凄いな……さすが編集志望者……。






以下はあまり作品と関係のない自分語り


この作品の何が面白いって、全然共感できないことですね。「以前は共感できてたかもしれないけど今は共感できない」というのが正確なところか。


なんか「推し」を持ってたり、「フェミニズム」にはまり込んだり「浮気」をしたり・・・他にもいろんな人間がわるいことをする時の感情がめちゃくちゃ丁寧に書かれてているのだけれど、それが「他人事」のように見えるのがなんかすごくモゾモゾする。でもそれが癖になる。



この作品に登場する人たちは、チャコを除いては自分自身にはとっくに絶望していて他人に自分の理想とか意見を押し付けることで何とか自分を保とうとしてる人ばっかりに見える。



こういう人物たちは数年間に読んだら共感しまくってたかもしれない。数年前の私は、自分よりクズの人間見つけてそいつをウォッチすることに希望見出してたくらい完全に終わってたからね…。今ってその時よりも年老いたし、相変わらず孤独だし、客観的に見たら今の方がよっぽど終わってる気もするけれど、それでもなんか「こいつらには共感できないな」って思ってる。そういう意味では私はまだ結構私に執着してるというか、まだ自分の人生に希望みたいなのが残ってるのかもしれない。



私がインターネット(というかはてなブックマーク)で自分ができていないようなきれいごとを自分を棚上げにして他人に対しては断言口調で語る人間を心底気持ち悪いと感じるようになったのもここ数年のことでその前はむしろ自分こそがはてなブックマークだくらいに思って時期もあったような気がする。ある意味、はてなブックマークでやたらと自分の意見を他者に押し付けようとする人って傲慢なんじゃなくてその逆で自分をすっぱりあきらめきることができてる潔い人たちなのかもしれないね。自我を殺すのに成功した人というか。もう実態的に幽霊というか。他人に憑依することが当たり前になっているというか。そう思ったら今まで気持ち悪いクソくらいに思ってた人が逆になんかうらやましく感じられなくもない。 でもうらやましくはあるけれど、そっち側にいきたいかというとそうでもない。


そんなわけで、他人から見たらとっくに終わってて希望なんかないような自分でもまだあきらめきれてないんだなって感じてる。今の私は、この作品に登場するキャラクターに全然共感できないこと自体にとても慰められる気持ちになる。