お気に入り度★★★★(おすすめ度★)
「科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌」というマンガは評価が難しい。
間違いなくすごい面白い作品だ。
一方で、いろいろと作者の思想色が強すぎて、「ファンタジー」という前提をもってしても耐え難い臭みがある。すごく美味しいところはあるんだけれど意識してそういう臭みを読み手側で取り除く必要があるという意味で「フグ」みたいな感じだ。読み手側にかなり意識的な取り組みが必要になる。
このせいで人を選ぶどころではなくて、自分が気に入っているというのも言いにくい(私はあんまり人の目をきにしないので平気で言うけど)。
繰り返しになるが、描いているものとしてはとても面白い。
いわゆる異世界モノなのだが、人間社会の引き写しに魔法やゲーム要素を追加するのではなく「人間から分化してクリーチャーになった生き物が多数存在する」という設定になっており、そういった生き物たちは形態変化に伴って当然生活様式や思想も大きく違うという設定になっている。そのクリーチャーごとの生態や生活様式や思想について掘り下げて描いている。個人的にはそれなりに納得感がある描写になっている。
個人的にひっかかりを感じるポイント
ただ、ここからが問題なのだが、そういった独自のクリーチャー社会の魅力を伝えようとする際に「人間社会の当たり前にとらわれない自由な社会を描く」という点を意識しすぎて、とにかく人間社会の思想を否定しにかかる。
キノの世界のように「ファンタジーならではの、独特の考え方を描く」ことでこんな社会もありうるのか・・・と思わせるだけでは気が済まないのか「既存の考えが残っていると読者がそれに引きずられて、せっかく僕が考えた素晴らしい設定を理解できないだろうから、いったん邪魔な人間社会の常識をリセットさせる」ところまでおせっかいをやろうとする。しかもいちいち説明が「論破」という形をとって行われる。めちゃくちゃ押しつけがましい。
いや、わかるんだけど。わかるんだけどもいちいちマンガでやらんといてほしい……。 作者が読者のことをあまり信用してないのがすごい伝わって嫌な気持ちになる。
同じ作者でも、最初から主人公を「悪」として描いているこちらの作品はそこまで説明臭くないので、やはり作者はこれがほんとに正しいんだろうなと思ってそうなのがまたなんとも……。
まぁこういうひっかかりポイントをうまくより分けて面白いところだけ楽しもうとできる人にはお勧めしたい作品ではある。
面白い部分だけ見れば「ランス」シリーズに通じる面白さがある
具体的に言うとエロゲーの「ランス」シリーズが好きな人にはお勧めしたい。
このあたりは「ランスシリーズ」の面白さを上手に説明してくれていると思う。
ランスシリーズは、ゲームシステムの面白さももちろんあるが、やはり主人公のランスの魅力も重要だ。
ランスシリーズは、ぱっと見はオーソドックスなファンタジーRPGなのだが単純な主人公TUEEEものとしては描いて無い。
ランスよりも突出して強い存在は多く存在する。しかしランスはあの手この手を駆使してそういう連中を出し抜いたりする。また、無茶苦茶はやって状況をかき回すけれどなんだかんだ物事をいい感じに動かしていく力がある。周りが絶望してるときでもランスだけはガハハと笑いながらなんとかしてしまう。そういうランスを見て周りの人間は特にランスのことを尊敬とかはしないんだけどなんとなく一目置いて、自分からランスに巻き込まれにいく形で世界を動かしていく。結果として、ランスに刺激される形でランス以外の周りの人間がそこそこの割合で物語中で自己実現を果たす。ランスの魅力は、本人だけではなくランスが影響を与えた周りの人間の魅力でもある。
また、ランスは「鬼畜戦士」と公式で名称をつけるほど倫理的にはアレなやつだがこの鬼畜野郎がすべての人間に受け入れられたり尊敬されたりするような描かれ方は一切されていないところもよい。何人かのキャラクターが、ランスと深くかかわっていく中でなんか好きになってしまうだけで女性の99%はランスのことを好きなわけではないしむしろ忌避してるというのが良い。
つまり、ランスは万人にとって誰が見ても称賛するような大英雄・名君ではなく「俺たちだけが知ってるあこがれの存在」って感じなのだ。実際エピローグで描かれる生き様もそんな感じだった。誰もが認める完全無形な存在じゃないどころか、問題だらけの主人公で、本人は特に世界を救おうとか正義の心で動いてはいないんだけれど、そんな奴が、圧倒的に壮大な世界で他作品ではほとんど真似できないレベルのでっかいごとを成し遂げるからこそこの作品のことが好きなのだ。「こういう物語があったっていいじゃないか」って思わせてくれる、そんな魅力的な作品だった。
「ファイアーエムブレム」のように大義名分がしっかりしていて登場人物も清く正しい綺麗な作品からでは決して得られない滋養がランスシリーズには存在する。(※私はファイアーエムブレムも大好きです)
小規模ながらランスシリーズの面白さを一番忠実に引き継いでいると感じたのは「このすば」シリーズであるが、本作「科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌」シリーズもまたランスシリーズのエッセンスを濃く引き継いでいると感じている。というより、この作者さんは「魔法少女プリティ☆ベル」のラスボスを見てても、上で取り上げた「残念ですが~」シリーズを見てても絶対ランスシリーズのこと好きだろうって思う。
あんまり「科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌」の話してないな……まぁその。ガチで面白い作品だとは思う。
一点だけエピソードを紹介しておく
フェミニズムに足りないのは「ことば」ではなくて「女社会」だという提言
一時期「女だけの街」みたいなことを提唱した女性がボコボコにされるという「嫌な……事件だったね……」案件があった
これは発想のスタートが男の除外であったから失敗しただけで発想自体は悪くないのではないかと本作では描いている。
フェミニズムの致命的な問題として、「今存在する男社会を女社会に変えようとする」という点が指摘されている。
そういうやり方だと反発を受けるに決まっている。それはただの侵略行為であるから「もちろんうちらは抵抗するで?」となってしまう。
そうではなくて、「かなりの経済的余裕があり、かつ女性が家庭にこもりきりになることが前提の核家族」という仕組みをやめて、女性どうしで助け合ったり、家庭の外のサービスを利用できるようにしようってことらしい。
そもそもが今のフェミニズムの主張はどれだけ取り繕おうが「男には経済的安全性を保障してくれる上に育児にも積極的に参加してほしい」というものでしかない。経済面では共働きで妥協できる余地があるかもしれないが着地点としてそう大きくは変わらない。
こうなると上位10%のハイスペック男性を求めるか、自分自身も仕事が相当できる人間になる必要がある。これはハイスペック男性にとっては非常に都合がよいため、ハイスペック男性は割とフェミニズムに親和的ではある。しかしこれを「前提」にすると上位10%の男女だけが幸せになるがそれ以外は男女ともに不幸になる。
現状は「少子化対策のことさえ考えないのであれば」男は男、女は女で助け合えという考えが強くなっているので順調に少子化が加速している。
本作品ではこれに対して「女社会」というものを提案している。
詳しくは3巻~4巻を読んでみてほしい。
んで。
ここまではええねん。
ここまでだったらまあ面白いアイデアだなって思えるんだ。ただ、本作品はここから先がなぁ……。まあその。うん。今の日本と違って男たちは命の危険がある戦場で戦ってるからまぁ……うん。
でも日本がこの先どんどん貧しくなっていったとき、本当にPTAにすら耐えられないほどにプライベートという感覚を発展させすぎた日本人が、こういう風な生活に耐えられるとはとても思えないんやけどな。