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山本直樹「レッド」:左翼が起こした戦後最悪クラスの惨劇「山岳ベース事件」を描いた作品。 事件における被害者一覧まとめ


読み終わったのでざっくりまとめ。超有名なあさま山荘事件よりも、12名のリンチ殺人が起きた「山岳ベース事件」の方が丁寧に描写されており、強烈に胸糞が悪くなる作品だった。


なお、この作品は学生運動末期からスタートするので、新左翼の歴史を理解していないと思想的背景がよくわからないつくりになっている

というわけで、理解するためにざっくり勉強してから読みましょう。

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歴史や思想の背景がわかってから読むと「なるほどそういうことか」という気づきがあって解像度がすごく上がります


12人がリンチの末殺された「山岳ベース事件」の概要

8月 向山茂徳と早岐やす子が処刑される(印旛沼事件)


◇榛名ベース
12月31日 尾崎充男が死亡
1月1日、進藤隆三郎(赤軍派)、小嶋和子(革左)が死亡。
1月4日、加藤能敬(革左)が死亡。
1月7日、遠山美枝子(赤軍派)が死亡。
1月9日、行方正時(赤軍派)が死亡。
1月18日、寺岡恒(革左)が処刑される。
1月20日、山崎順(赤軍派)が処刑される。


◇迦葉山ベース
1月30日、山本順一(革左)、大槻節子(革左)が死亡。
2月4日、金子みちよとお腹の中の子(父親は幹部だった吉野椎邦)が死亡。



◇妙義山ベース
2月12日、山田孝が死亡



◇あさま山荘
2月20日~2月28日 あさま山荘事件。

http://zip2000.server-shared.com/asamasannsou.html


それぞれの人物の経歴は以下の通り。

殺された理由

森恒夫と永田洋子が主導したリンチによる犠牲者、といいきってよいのかわからない。
殺された側ですら自分が殺される立場になる直前まで総括に積極的に参加していたりしていて本当に怖い。


最初は「総括=批判しても反省がたりないから殴ってわからせる」くらいのノリだった。なのでみんなも積極的だった。
しかしやりすぎて人が死ぬと、森が自分を正当化するためにどんどん狂っていき恐怖政治になっていく。


(1)第一次総括=理不尽すぎるがギリギリ暴行したことまでは理解できる状態(死ぬまで殴るのは意味不明)

<一番最初に総括されたのは⑦の「加藤」と⑥の小嶋だったが先に④と⑤が死亡した>


④尾崎充男(革命左派)

レッドにおいては「伊吹」。もともと合法部所属だった。
日和見主義者というレッテルを貼られだけで総括要求され、
激しいリンチを受けた上寒空に放置されたことで第一の犠牲者となってしまう。




⑤進藤隆三郎(赤軍派)

レッドにおける「高千穂」
北のもとで兵隊として資金集めのために強盗などを忠実にこなしていたが
女関係にだらしなかったことから北からは軟弱ものとして嫌われていた。
総括のためといって腹が緑色になるほどに殴られ、寒空の中に放置されて死亡した。


⑥小嶋和子(革命左派)
レッドにおける「薬師」
②③の処刑のころから精神が不安定になっており何度か脱走しようとしたため総括要求の対象となった。
直接総括された理由は⑦の総括の時に「頑張れ」じゃなくて「馬鹿にするな」といったから。

要するに「総括の援助」ではなく個人的恨みで殴ったから駄目らしい。そんな理由で殺されるのか…。
この漫画を読むと「お気持ちによる判定を出す人に誰かを取り締まる権力を与えてはいけない」というのがよくわかる。



⑦加藤能敬(革命左派)
レッドにおける「黒部一郎」。
育ちがよく穏健派で、印旛沼事件での処刑に反対したり何度となく永田洋子の意見に異議を唱えていた。
⑥にセクハラをするなど風紀を乱すとして最初に総括要求対象となった。

途中で一度許されかけたが結局反省の態度が見られないとして再度リンチにあって死亡。


この時点までは総括要求=殴って反省させるくらいの認識の人もいたはずだが、
結局総括対象になった人間が時間差こそあれ全員死亡したので総括=死という構図がみんなに浸透していった。


(2)第二次総括:「総括要求=死」の恐怖に負けたから殺すという無理ゲー

⑧遠山美枝子(赤軍派唯一の女性)
レッドにおける「天城」。かなり特殊な立ち位置におり総括の連鎖の最初のきっかけになった人物。

この総括はもともとは森恒夫をリーダーとする「赤軍」と、永田洋子をリーダーとする「革命左派」の主導権争いだった。人数で負けており、銃という武装ももっていなかった赤軍リーダーの森恒夫は、革命左派との連合の際に主導権を握るために革命左派に対して難癖をつけてマウントを取り、革命左派をオルグしようとした。一方、革命左派リーダーの永田洋子はそのカウンターとして遠山の態度の悪さを責めて総括を求めて「遠山の総括が終わるまでは銃を渡さない」と言い出した。 つまり、ただでさえ狭い場所に大人数が終結して不自由な生活を強いられ不満が噴出しやすい環境だった上、最初から2つの陣営に分かれていてその2つが主導権争いをしているという最悪の状態だった

お互いが主導権を取り合う際に用いられたのが「総括」であり、「総括」を積極的に進めてメンバーの共産主義化を促すということで森恒夫が主導権を握った。総括が激化した後、発端である遠山は自分が総括のターゲットにされることは彼女自身がよくわかっていただろう。逃げ場もなくひたすら死が迫ってくるのを待つのはあまりにも恐ろしい・・・。

彼女は命乞いのためにいろんなことをしたが結局許されることはなかった。

遠山はとにかく立ち位置が不利すぎた。赤軍の中で森恒夫と対立していた重信房子の友人だったこと。また美人であったがゆえにフェミ思想が強く容姿にコンプレックスを抱えていた永田洋子から嫉妬されたことなどから、革命左派からは真っ先にターゲットにされていたし赤軍側も彼女の存在が革命左派との主導権争いで弱みとなると考えていたから積極的に切り捨てにかかった。

どちらの陣営からも守ってもらえず、両陣営から総括要求されてしまい、孤立したまますりつぶされていった。個人的には総括の中でも彼女の総括シーンが一番見ててやりきれない気持ちになった。この時の総括にあれこれ理由を付けたせいで、さらに総括のハードルが下がってしまい、あとの「革命左派側の女性」の総括にもつながった。



⑨行方正時(赤軍派)

レッドにおける「磐梯」。⑧に好意を抱いていたとか合同訓練時に積極的でなかったという理由だけで総括要求されて衰弱死。あまりにも難癖すぎてなにがなんだか・・・。



結局ここまで総括対象になった人は全員死亡した。指導部は自分たちのメンツのためにも「ただしい総括」をやり遂げるまで止まれない状態になった。
「総括できないやつは殺す」という脅しは伝家の宝刀として抜かずにちらつかせて、部下にいうことを聞かせるために使えばよかったのに、初手からいきなり抜いてしまったせいで毎回使わざるを得なくなってしまった。 そして、やればやるほどハードルが上がっていき、誰もクリアできない「死の試練」の順番を待つだけになっていく…


(3)第三次総括:幹部の寺岡を処刑しその余波で他の2名も処刑


⑩寺岡恒(革命左派幹部)

レッドにおける「安達」。幹部では初。しかも総括ではなく明確な処刑でありこれも山岳ベースでは初。もっとも無残な殺され方をした。

育ちが良かったこともあって横柄なふるまいが目立っており、部隊のメンバーからも嫌われていた。総括要求の後、森恒夫からスターリン主義者だとか「分派主義者(裏切者)」というレッテルを貼られたため処刑が決まる。結果としてアイスピックでめった刺しにされたが死にきれず、苦しんだ上に縛り首にされた。
www.nhk.jp



この直後に森恒夫が信頼していた人物が山岳ベースから脱走して、本拠地を移動せざるを得なくなった。


⑪山崎順(赤軍)

レッドにおける「神代」。

⑩の処刑に積極的でないという理由で総括要求の後、やはり処刑されることに。彼は運が悪かった。別のタイミングなら生きていた可能性がある。たまたま直前に人が逃げたことで森恒夫の猜疑心が強くなっていたことで些細なことで言いがかりをつけられた。しかも、別のメンバーが捕まってしまったことで榛名ベースから釈葉ベースに移動する必要が出てきた。そのため「移動の邪魔」という理由で雑に殺された。



⑫山本順一(赤軍でも革命左派でもないただのシンパ)

レッドにおける「苗場」。
迦葉ベースに移ったメンバーは以前より心がすさんでいた。
⑩の処刑に積極的でないとか日々の作業に積極的でないという理由で総括要求されて凍死させられる。
なお、この人物はわざわざ妻と生まれたばかりの子供もつれてきていた。
妻は子供を置いてベースから逃げ出したが、置き去りにされた子供は別のメンバーが連れて逃げたので何とか助かった。



(4)第四次総括:もはやリーダーの個人的感情以外に何の理由もない・・・

⑬大槻節子(革命左派)

レッドにおける「白根」。
女性として他のメンバーからモテモテであり、森も彼女には甘かった。
これが原因で永田洋子に嫉妬され、わけわからん理由で総括要求されたあと凍死・衰弱死。
唯一暴行リンチは受けなかった。


⑭金子みちよとその子供。

レッドにおける「宮浦」。幹部であった吉野の妻であり、山岳ベース参加時点ですでに妊娠していた。
なぜか森に嫌われ執拗に濡れ衣を着せられた。その際に反抗的な態度をとったために厳しく総括要求された。⑬とは逆に永田洋子は⑭のことはかばっていた。メンバーは「金子は死んでもよいが腹の子は切開してでも取り出す」といい、出産前に金子が死んだ後「我々の子を私物化した」などと糾弾するなど狂気が極まっていた。



このあと一気に3名が脱走する。第三次総括のあとにはちゃんと戻ってきたメンバーですらこの時に逃げた。



(5)最終総括:さすがに坂口などを中心に反旗を翻そうという動きが起きていた。ただその前に警察に追われてうやむやになった

⑮山田孝

レッドにおける「霧島」
京大卒で明らかに頭がよく、赤軍の政治局員も務めていた。もともと森の支持者だったが、何度も反論するので面倒くさくなったのか総括対象にされる。ぶっちゃけ総括に大した理由はなかったといってよい。さすが京大卒というか、森くんが総括と称してつけてきた難癖はすべて論破したのだが、結局働きぶりなどにケチをつけられて殺された。森の総括要求に正当な理屈などなかったことの証明である。

坂口を中心にして納得していなかった連中が反旗を翻そうとしていたが、



総括要求されながら唯一生存した人物

①植垣康弘(レッドにおける岩木)

大工仕事や登山の誘導できる人材であり殺すわけにはいかなかったとされる。結局そのくらいアバウトなものだった。また、実際永田洋子の夫である坂口は何度も総括に反対したが処刑されなかった。

結局のところただの学生のいじめが閉鎖空間でおかしくなっただけだ。


この事件の根本的な原因は「極限状況」で何の成果もなく耐え続ける生活でみんなおかしくなっていたことにあると思う

森や永田が異常だったというのはそうだけど、山岳ベースでさえなければ……というのはあるよね。仲良くしてても結局冬は越せず全滅していただろうから、ある意味数を減らすというのは「合理的な判断」として途中までは合意されていたのかもしれない。


学校のいじめだってそうだしね。狭い教室すぎて合わせられない子を排除することが半ば正義だと思われてるふしがある。


あわせて「原始共産主義」みたいなものへのあこがれがあったのだろうけれど、今まで都市で暮らしてきた人が警察に追われながら山岳ベースで冬を越すいうのはちょっと厳しすぎた。