こちらで存在を知ってから興味を持って読んでみたら一気に最新刊まで読んでしまった。
かなり面白いのでおすすめ!
ちなみにタイトルだけだと誤解するかもしれないけれど主人公が囚人の話ではない。
主人公は「転生した囚人」たちを倒していく側の存在だ。
なので、表紙のキャラは全員主人公が倒すべき「極悪人」であり「敵」です。
【あらすじ】
脱獄した死刑囚たちによる自爆テロに巻き込まれ、主人公クリスは剣と魔法の異世界に転生する。前世での挫折を反省し、今度こそまともに生きようと固有能力を磨き、恋人もできて平和な日々を送っていた。しかしやがて、前世で自分を殺したあの死刑囚たちも、チート能力を持って転生していたことが発覚する。恋人や村を惨殺され、クリスは復讐を決意する。
主人公にこの上なく明確な「動機」と「目的」が与えられているので先を読むのがすごく楽しみになる
作者のいとまん先生は、「ドキュンサーガ」という作品で知られている。
先生の作風を一言で言うなら「希望を丁寧に積み上げてから、容赦なく壊す」だ。
読者をいったん安心させ、「ああ、この世界は大丈夫そうだ」と思わせてから、一気に奈落に落とす。
そしてそこから先は、死ぬことすら許されない主人公が何を支えにして生きていくかを描く。
囚人転生でも、この構造はしっかり機能している。
1巻の序盤については普通の転生ものに見える。
主人公が能力を覚醒させ、仲間ができ、恋人ができ、物語が動き始める。テンポもよく、描写も説得力がある。
これだけでも普通のなろう系より全然面白い。
でも、ここから主人公が大切なものを根こそぎ奪われるシーンが描かれる。
主人公には明確な「動機」と「目的」が与えられることになる。
明確というか純粋といったほうがいいのかな。
復讐以外の動機や目的を奪うことで、余計な要素が混じりにくくなっている。
ほかのなろうマンガみたいに他のこと考えたり余所見をする余裕を与えないという所が良い。
流石に今はそんな作品は減ってきたけれど
一時期のなろうマンガって主人公がチートすぎて「なんでもできてしまう」がゆえに「何にもしない」というか。
「明確な目的がなく行き当たりばったり」な展開がダラダラ続いた上で力尽きて何も達成されずにエタることとかが結構あった。
本作はそういう心配が全然ないなと思う。
遊びがないという意見もあるかもしれないけれど、
世界観そのものとか登場人物のかけがいがよほど魅力的とかでないのなら
私としては目指すべきゴールが明確なのは読みやすくて助かる。
その他のこの作品の面白ポイント
1️⃣ひとつ目は、敵である極悪人たちにちゃんと「情と理」があること
転生してきた死刑囚たちは、当然ながら異世界でも極悪非道のままだ。
ゴブリンを操って村を蹂躙するやつ、差別を政治の道具として使い皇帝として君臨するやつ、カルト宗教を立ち上げて狂信者の群れを作るやつ。
どいつもこいつも外から見れば救いようのないやつばかり。
しかし、彼らには彼らの論理がある。
差別を行使する皇帝は、それが統治の道具として有効だと知っている。
カルト教祖は秩序を壊すつもりはなく、ある種の合理的な計算の上で動いている。
彼らは頭が悪いわけではない。むしろ、善人ではなしえない形で政治を動かすことができる、という点において非常に厄介な存在として描かれている。
「敵」という概念を持っている人間は、あらゆる理屈や倫理を飛び越えてくる。
話が通じない、聞かない、否定してくる。
なまじ自我が弱かった人間や卑屈だった人間が一番タチが悪い。
これは現実にいる人間の話としても、妙にリアルだ。
2️⃣ふたつ目は、主人公のために世界が回っていないこと
主人公たちは、ティタニアという強大な組織の傘下に入って敵の転生者たちと戦っていく。
しかしこの組織は、正義のために動いているわけではない。
秩序の維持が目的であり、主人公たちが生かされているのは善良だからではなく、今のところ脅威度が低いから見過ごされているだけだ。
極端に言えば、危険な転生者とぶつけて共倒れになれば好都合、くらいに思われている可能性もある。
なろう系転生ものにありがちな「主人公を中心に世界が動く」構造になっていない。
主人公たちは強大な力学の中の一駒に過ぎず、ティタニアは親切に見えるが冷酷で合理的な存在だ。
敵になれば彼女は容赦なく躊躇なく殺しに来る。
こういう俯瞰的な構造があるせいで、読んでいる間ずっと「本当に安全な場所なんてどこにもない」という緊張感が続く。
私は昔「ラングリッサー」という作品が好きだったのだが、あれと同じドライさを感じる。とても良い。
3️⃣みっつ目は、物語世界の構造がしっかりと作り上げられていること
4巻時点でこの世界の構造が見えてきた。
(1)マクロ:最上位にティタニアたちの秩序側と、それに対抗する「負のティタニア」とでも呼ぶべき存在の対立がある。
(2)中間層:その下の層で、転生囚人たちがその力学に乗じて大暴れする。
(3)ミクロ:さらにその下で、主人公たちが限られた力で自分たちの目的を果たそうとする。
この三層構造が、単なるバトルものにとどまらない奥行きを作っている。
なろう作品で、世界の設定が細かく用意されているのになんか微妙だなと思う時がある。
そういう時は下のレイヤーである(3)はしっかりしてるんだけど(1)とか(2)が全く見えないという場合がある。
逆に(1)はしっかり描かれてるんだけれど、それが主人公のいる(3)と結びついてないとか、逆に主人公側が(1)の立場に寄りすぎて(3)の要素がないとか。
こういう構造は必須ではないけれど、しっかり作られていたらそれだけ安心して物語読んでる感を楽しめる。
その点でも本作はとても良いと思う。
というわけで
死刑囚たちに殺されて、異世界で復讐する。
この作品、表層だけ見れば「ざまあ」系に近い設定をしている。
そういう読み方をしても良いと思う。
でも読んでみると、そんな単純な気持ちよさとはまるで別のところにある作品だなと私は思った。
・主人公はずっと追い詰められていて
・守りたいものは守れないかもしれなくて
・信頼した組織は親切ではなくて
・倒したい敵は手ごわくて
という感じ絵全体に不穏な空気が漂っていて、「この先何が起きるかわからない」というスリルが読む快感になっている。
こんな人に読んでほしい。
・胸糞展開や鬱展開が平気な人
・疑心暗鬼の中での人間関係が好きな人
・孤独の描写に共感する人
・異世界転生ものは読むけれど、主人公が何をしても報われる系には食傷気味な人。
逆に
鬱展開が苦手な人、読んでいる間は気持ちよくなりたい人には向いていない。それは正直に書いておく。
なお、ドキュンサーガを読んでいなくても本作だけで十分楽しめる。
ただ、同じ作者の作品として読んでいると「またやりやがった」という楽しみ方ができるので、気になった人はセットで読んでみてほしい。
今のところ話の盛り上がり方は順調で、続きが楽しみな作品だ。




