頭の上にミカンをのせる

もうマンガの感想だけでいい気がしてきた

「屍姫」を読みつつ「鬼滅の刃らしさ」についてちょっと考えてみた

note.com

で、屍姫をダシにして鬼滅の刃ってやっぱすごかったねーみたいなことを書いたのだけれど

記事の感想で以下のようなコメントを貰った。

すごく良い指摘だと思ったのでこちらにも引用する。

鬼滅の刃は6巻(柱会議とパワハラ会議)で格段に面白くなった作品だと思っていて、逆に言うと、立ち上がりはかなり悪い作品であるというのが、個人的な評価です。
よしきさんの屍姫の感想では、立ち上がりの評価が結構高いので、両作品の序盤の盛り上がり方は結構違うのかなと思ったのです。

①鬼滅の刃以前の“鬼滅的作品”だと、個人的には「ドラゴンボール」かなあ。(”鬼滅の刃”が令和の「ドラゴンボール」でもよい)つまり、鬼滅の刃はジャンプ漫画の王道というイメージなので、過去の名作の要素は入っている(屍姫だけが似ているとは考えにくい)から。


②個人的には、"鬼滅の刃"は設定を切り捨てていると思っていないので。設定と感情のバランスをとるのが超絶に上手いと思っています。


③ゲームバランス論だと、"鬼滅の刃"は継国縁壱さんが最強すぎるからなあ、と思ってしまいます。


④個人的には"鬼滅の刃"の面白さは、王道としての面白さだと思うので、理屈も通っていると考えているので。


⑥"鬼滅の刃"は、お館様自爆(16巻)から最終巻(23巻)までが超絶に面白い作品だと思っていて失速せずに最後を駆け抜けたのが、凄いというのが個人的な評価なので、「15巻までは面白かった」とは、盛り上がり方が本質的に違うのではないかなと。


で、⑤なんですが、よしきさんの"鬼滅の刃"に感じる感性は、多分一般的な読者とはずれがあると思うんですよね。

過去の記事で言うなら「世界で一番やさしい鬼退治」とか。そして、よしきさんの記事を受けて、私も「やさしい鬼退治」の解説記事書きましたけど、よしきさんの感性をくみ取れたとは全く思っていません。

なので、"屍姫"と"鬼滅の刃"がなぜ似ていると感じたのかを突き詰める方が、記事の独自性が出るのではないかなと思います。(その意味では、⑤も"鬼滅の刃"も運命の話なのでは、と思わなくはないですし)

色々と書きましたが、この件はよしきさんが考える「鬼滅の刃をやろうとする」とは、どういうことかが重要なのかなと思いました。

特に「よしきさんが考える「鬼滅の刃をやろうとする」とは、どういうことかが重要なのかな」については


ぐうの音も出ない正論……。

屍姫と鬼滅が似ていると感じたのはいいとして

「何が似ているのか」については、復讐譚とか強敵集団とか、そういう表面的な話しかしていなかった。

そのあたりは「ジャンプ漫画なら普通にあるよね」という話でしかない。

とはいえ、やっぱり本作品は類似の作品パターンと比較しても「鬼滅らしさ」はあったという気持ちも残っているので

どういうところに「鬼滅の刃らしさ」を感じたのか一応考え直してみた。



1:雰囲気レベルの類似

屍姫と鬼滅が「似ている」という感覚を持ったのは私だけではない。鬼滅がヒットしていた2020年ごろ、こういうツイートが10くらいは存在していた。

・「呪術やら鬼滅やら見てると、屍姫読み返したくなる 全巻集めたくらいには好き」

・「鬼滅見てると屍姫思い出すなぁ~ アニメはアレだったけどコミックは好きで最終巻まで買ったなぁ」

なので、つまり、両方読んだことがある人間には「あ、これ似てるな」という感覚が自然に生まれる程度には、雰囲気的な共通項があるとは思う。

とはいえ、あれだけのヒット作に対して、わずか10件くらいしかこういう意見がないので、本当にフレーバー程度の共通点しかないと考えたほうが良いかもしれない。

というか、この点についてはコメントをくれた人が

「団体戦や強敵集団はジャンプの王道であり、屍姫だけが特別に鬼滅に近いとは言えない」と指摘している。

これは正しいと思う。

雰囲気の類似だけで似てると言い出したらジャンプ的な文法に忠実な作品はだいたいそうでしょ、と話になってしまう。(BLEACHや最近のカグラバチ、魔男のイチだってそうだしね)

もうちょっと深いところで近しいものがないと「鬼滅の独自性」との類似性はない。



2:「吸血鬼もの」「退魔モノ」ジャンルへの絞り込み

バトル漫画の中に「人外の怪物を倒す系」というジャンルがある。

それこそ「ぬーべー」から、Dグレイマンとか、ヘルシングとかCLAYMOREとか上げるとキリはない。

www.tyoshiki.com


同じような系譜の作品を並べてみると見えてくるものがある。

地獄先生ぬ〜べ〜は未練や怨念で怪異化した存在と向き合い、「倒す」より「理解する」話が多い。

東京喰種は「人」と「人外」の境界が崩れ、会話可能で感情もある敵を描く。

蟲師や夏目友人帳は怪異との対話を通じて「弔い」に近いことをやっている。

Dグレイマンやヘルシングも、人間だったものが異形化するという構造を持っている。

「人だったもの」が「ある感情や執着によって異形化している」という構造になっている。

しかも、完全な怪物ではない。理解不能な存在ではない。会話が成立するし、感情が残っている。だから「倒して終わり」にならない。

これはかなり独特の構造だ。

鬼滅の刃はこの系譜の中にある。

猗窩座は武道への執着。累は家族への執着。妓夫太郎は姉への未練。童磨は感情を持てない自分への奇妙な執着。

そして屍姫も、この系譜の中にある。


3:鬼滅と屍姫がさらににてるなと思うのは「未練」や「無念」を中心に描いてくるところ

同じ系譜の中でも、鬼滅には一つ際立った特徴がある。

「敵味方ともに未練や悔恨というものを軸にして描いてくるところだ。

鬼の強さは、その鬼が抱えている執着の深さに対応している。

そして倒された後、その執着が昇華される瞬間に——外から倒されるより先に——何かが終わる。

累が「家族がほしかった」という執着を炭治郎に見出して泣き崩れるシーン。妓夫太郎が梅との記憶の中に帰っていくシーン。

これは「倒す」話ではなく「解放する」話に近い。

そして私が鬼滅で一番印象に残っているのは、この構造が最も純粋な形で現れた黒死牟の最期だ。

www.tyoshiki.com


黒死牟はなぜ鬼になったのか。縁壱に勝てなかったから、だ。

生涯をかけて追い続けた弟に、ついに届かなかった。

その未練を抱えたまま鬼になることで、彼は極限まで強くなった。未練が、そのまま力の源泉になった。

そして最後。縁壱の幻と向き合い、自分が何を求めて生きてきたのかを直視した瞬間——彼は外から倒されるのではなく、自壊する。

これが「人間が壊れてしまったものと向き合う話」としての鬼滅の、一番純粋な形だと思っている。



まぁすべてがそうではなく、カイガクみたいな倒され方するやつもいるけど。
www.tyoshiki.com



そしてここで重要なのが、味方側も同じ構造をもっていて、それでいて終わり方は真逆になっていることだ。

味方側は「未練があっても他の人が引き継いでくれるから死ねる」

鬼が「未練を抱えたまま存在し続け、満たされると消える」なら、鬼殺隊の人間たちは「未練があっても他の人が引き継いでくれると知っているから全力を尽くして死ねる」という描かれ方をしている。

煉獄さんが死ぬとき、彼は炭治郎に継承する。

自分の未練を「次の人に頼む」ことで、全力で燃え尽きることができる。

しのぶも同じだ。自分一人では童磨を倒せないと知りながら、毒を仕込んで死ぬ。「次の人が引き継いでくれる」という信頼があるから、その死に方ができる。

敵:未練を抱えたまま存在し続ける→満たされた瞬間に消える
味方:未練を引き継いでもらえると知っているから死ねる

この対比が、鬼滅という作品の人間観の核心だと私は思っている。


で、このあたりの描き方が屍姫と似ている。

屍姫における「呪」の強さは、そのキャラクターが抱えている未練の質に対応している。

例えば「最強」への未練を抱えて死んだキャラは、「自分が念じたものは絶対に切断する」という呪の力を得る。

そして実際にすごく強いボスを見事に切断するという役目を果たした瞬間、未練が満たされてこの世から消えていく。

敵サイドにも、死体を見たときの感動を抱えたまま死んだキャラが、その感動をもう一度得たいという未練で呪の力を授かっていたりする。

引き継ぎの構造もある。マキナとオーリのバディ関係自体が、死んだ兄の役目をオーリが引き継ぐところから始まっているしその他のキャラも「継承」を前提とした形で戦っている。

これはストーリーの骨格の話というより「なぜその力を持っているのか」「何が満たされれば終わるのか」「誰かの死が次の人に何を渡すのか」という、作品の人間観の話だ。


長々と書いたけどあんまりアンサー記事にはならなかったカモ

とりあえず、「鬼滅らしさ」とはこうだ!ってズバッと説明できるわけではないけど

人間観みたいなところではジャンルの中でも鬼滅の刃には独特のものがあるとは思いますよ、と

そのあたりが屍姫と鬼滅の刃は割と類似性あると思いますよ、と

なので、「ジャンプ作品の文法」「ジャンルの類似」よりもうちょっと深い人間観みたいな部分で鬼滅の刃と屍姫には類似性はあったとは言えるんじゃないかと。


それ以上のところは、私も「鬼滅の刃らしさ・・・よくわからん」って話になっちゃうかな。


最後に明らかになった炭治郎の設定から逆算して語ったほうが良いのか、最初から語り始めたほうがいいのかも悩ましいっすね……



まぁそのなんだ。

ここまで頑張って書いたけど、結論としてはコメントくれた人に屍姫読んでもらったほうがはやいかも(降伏宣言)

屍姫 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

屍姫 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

  • 作者:赤人義一
  • スクウェア・エニックス(SQUARE ENIX)
Amazon



おまけ

アンサー部分として取り上げたのは「未練が力になり、引き継ぎによって人は死ねる」という鬼滅の人間観の部分。

でもこれだけだと、「鬼滅がなぜあれほど面白かったのか」の説明にはなっていない。

屍姫も同じ人間観を持ちながら失速した、という話をしているわけだから、人間観が同じなら他に何かあるはずだ。


むしろ終盤部分こそが鬼滅の刃の核であるなら、終盤部分について説明したほうが良いかもしれない。


ということで、終盤部分について考えたことをまとめておきます。

この続きはcodocで購入