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安彦良和版「ジャンヌ」が素晴らしかった

ココ最近「百年戦争」に関するマンガや新書を読んでいるというお話は前にしましたが

百年戦争(1339~1453)について描いているマンガ - 頭の上にミカンをのせる

その関連で「ジャンヌ・ダルク」関連のマンガや本もいろいろと読んでるところですが、今のところ、この安彦良和版「ジャンヌ」が図抜けて素晴らしいです。

安彦さんの作品なので、まず当然絵が美しい

「機動戦士ガンダム」のキャラデザで有名な安彦良和さんは歴史マンガを多数描かれています。「古事記」シリーズや「虹色のトロツキー」など素晴らしい作品が多いです。
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「ジャンヌ」は、なんと全ページフルカラーという力の入りようであり、非常に美しい画集を見るような感覚で楽しめます。


ジャンヌ

安彦 良和,大谷 暢順 日本放送出版協会 2002-03
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by ヨメレバ

ジャンヌダルクの人生の遍歴を追体験する物語

安彦さんがジャンヌをどう描くのか……と楽しみに読んでいたら、主人公はジャンヌではなく、ジャンヌに憧れるエミリーという同時代の女性です。この女性が、ジャンヌが死んだ10年後の「プラグリーの乱」のタイミングにおいて、ジャンヌの人生の遍歴を追体験していく、という構成になっています。「虹色のトロツキー」と同じパターンであり、安彦作品に馴染みのない方向けに例を出すと「永遠のゼロ」と同じような構成です

主人公が、ジャンヌが生まれ故郷である「ドンレミ村」から「ボードクリール」の領主の元を経て、シャルル王太子と出会った「シノン」に趣き、さらにそこからオルレアン包囲戦、パテーの戦い、ランスでの戴冠式を経て、その後囚われの身となり、異端審問にかけられて火刑にて殺されるまでの人生を追体験していきます。その間、ジャンヌと共闘した人物や、ジャンヌが守ろうとしたシャルル7世とも面会して話を聞くことになります。

細かい歴史的な話がさり気なく組み込まれており、百年戦争を知れば知るほど、より楽しめる

世界史の教科書などでは、ジャンヌが死んだ1431年5月から、百年戦争終結の1453年までの22年間に、何があったのか、というのはあまり詳細が描かれていないため、この後何が起きたかはあまり知らない、という人も多いと思います。そもそも、英仏百年戦争自体が、どういうものであったかも、まともに説明してくれる先生ってそんなにいなかったんじゃないでしょうか。

でもこのあたりって、ちゃんと知れば、すごい面白い。歴史の中でもかなり重要な転換点(中世が終わって近代が始まるポイント)であり、そういう時代だからこそジャンヌダルクという人物がいきなり有名になるポイントがあった。

そういうジャンヌが出現することが出来た時代背景とか、それゆえにジャンヌが死んだ後どういう反応だったのか、とか。そのあたりがわかっているとより楽しめる作品だと思います。

いろいろ勉強した後でこの作品を読み返すと、細かい点まで調べて描かれているのがわかって、繰り返し読む楽しみもあります。

ジャンヌという人物は、いかに特別であったのか、がより感じ取れる構成になっている

例を出したので比較をすると「永遠のゼロ」と違い、死んだのは一兵卒ではなくフランス全体の希望であったジャンヌです。また、主人公が彼女の遍歴を追いかけようとした1440年は、戦争の記憶が風化しそうになっている時期ではなくまだ百年戦争の真っ只中であり、ジャンヌの記憶は登場人物全てに鮮明に残っています。さらに、面会する人物は、かつてジャンヌと共に、フランス王家を守るために戦っていましたが、今は二手に分かれて争っています。

主人公が、ジャンヌと同時代性を有しているというこの距離感が、永遠のゼロとは決定的に違うわけです。遠い時代の話として自分たちの時代と切り離し、個人の話として切り離すことは出来ません。主人公はジャンヌが生きたのとほぼ変わらない時代を生きている。

同時代性を有しているジャンヌと同じように女性でありながら男装をし(この当時、女性でありながら男装をするのは異端とみなされ死刑にされてもおかしくない危険な行為)、ジャンヌと同じようにシャルル7世側に立って戦い、そして、ジャンヌと同じ試練を課される。この描き方に寄って、ジャンヌという人間がいかに特異な存在であったかが伝わってきます。

私達読者も、「ジャンヌ」が主人公であれば、自分とジャンヌを切り離し、「私はむりだけれどジャンヌなら……」という形で物事を見てしまうし、その人生を知ってしまっているため、どこでどうなるかわかってしまう。しかし、ジャンヌと違って、その時代に生きた、歴史に名を残さない少女を通じて同時代を見ることにより、自分だったら同じ状況でどうしただろうか……など自分で考えさせられる仕組みになっているのが面白いです。



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どれも面白いです。