頭の上にミカンをのせる

「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

最近のこのブログのお気に入りは「アークナイツ」です
アークナイツ
kindleセールの紹介
新NISA解説ブログ
発達障害

「虚構推理」5巻 

<評価★4.5~5。強くおすすめ>

この作品読みながら、もしかしたらと思って「うみねこ 虚構推理」で検索したら、やっぱり私と同じことを考えている人が多かったですね。

この作品が、「うみねこがなく頃に」を洗練させた幻想バトルを描いている作品、という印象はある程度共通認識になっているようです。

もちろん「うみねこのなく頃に」を全く知らなくても面白いでしょうが、「うみねこ」を知っている人が読めば、その設定の組み立て方の上手さに驚くと思います。


この作品はうみねこと違って、本当に「妖怪」が存在する世界観です。

そこで「七瀬かりん」という、非業の死を遂げた実在のアイドルをベースにした「鋼人七瀬」という都市伝説が発生します。

「七瀬かりん」の真相はすぐに明らかになりますが、物語はあくまでそこから先にある。

「七瀬かりん」の物語をベースにした「鋼人七瀬」は彼女、真実とは独立して一人歩きを始めます。

そして、ついに「鋼人七瀬」は実体化し、人を殺すところまで至ってしまいます。

もはや真実は関係なく、「鋼人七瀬」のあり方を決めるのは、真相の外、つまり「六軒島の外」にいる一般人がどういう物語を選ぶかにかかってきます。

その結果によっては、人殺しの化物にも成るし、悲劇のヒロインにもなりうる。

かくして、「鋼人七瀬」をめぐる物語を幾重にも描き、真実を越えて「七瀬かりん」という存在を救済するために幻想推理バトルを繰り広げるわけです。

現実に存在する歪なブロックを組み合わせ、現実にはなかった過去をどうすれば作れるのか。
真実を求めるよりもいっそう過酷で馬鹿馬鹿しい、空虚な虚構構築作業。

最初は推理、そして物語創作、あらゆる方法を駆使して、敵の紡ぎあげた物語を削り取り、自分たちのストーリーで侵食していく。

ハウダニットに始まり、フーダニットすらも複数用意し、最終的にホワイダニットで聴衆を魅了し、嘘を真実と置き換える。

これって、「六軒島」におけるベアトリーチェの物語に良く似てますよね。



実際のバトルがどのようなものかはお話を読んで見て欲しいですが、この「幻想バトル」の舞台を組み立てるところまでの展開が非常に面白いです。

また、推理バトルって言うと地味だと思うかもしれませんが、絵的にも非常に面白いです。

虚構推理(5) (月刊少年マガジンコミックス)[Kindle版]

城平京,片瀬茶柴 講談社 2016-12-16
売り上げランキング : 4283
by ヨメレバ







ただ、本当に恐ろしいのは、現実でもこの作品と同じようなバトルが行われることが増えてきたことです。

「まともな議会や理事会なら、どちらが多数派か見えている状況で採血を逆転に持ち込むのは困難でしょう。
 議決権を持つ人達は横のつながりがあり、土壇場で逆の意見を表明するのはリスクが大きすぎます。
 だいたいの議会において、提出された議案が可決されるかどうかはほぼ前もってわかります。
 でも、この議会で議決権を持つのは、このサイトを見るものすべて。
 何万という、相互にはほとんど関係のない人たちがどう思うかが全てです。」


「無責任で自覚もない決定権者たちか。それはそれで怖いわね。」


「ええ、無責任な権利者は怖いものです。
 しかし、言い換えてみれば、この議会は無責任故に、いかなるしがらみ、法にも正義にも真実にさえも囚われません。
 たとえ結論が不正義であり嘘であっても、何万というサイト閲覧者の過半数が支持すれば勝ちです。
 もっともらしく筋が通り、そして面白い物語を提示している方を、みんなは無責任に支持し、議決するでしょう。



 ならば、この議会、何でもありです。
 本物のデータを隠してごまかし、黒を白と言いくるめ、幾つもの矛盾する答えを繰り広げ、
 それでもそこに一見の合理と十分な愉悦を通すなら虚構を真実に変えられる。
 そうしても構わない場所です。


 勝つために惜しむものは、ありません。
 全力を持って、嘘をつきましょう。」

この作品では、倫理的に問題がないように、丁寧に丁寧にこういう場を組み上げています。

ところが、現実においては、無責任であっては行けない国政の場が、ほとんどこれと同じ状態になっているように思われます。

現実が、この「虚構推理」の世界を飛び越えてしまっている。

もちろん、まだ現実では、ごまかすことはできてもそれが即真実に成るほど歪んではいませんが、いまのまま放置していたら、どうなるかわかりませんね。

ネットリテラシーガーと教科書的に語るよりも、この作品は今ネットで広げられ力を増しているフェイクニュースの世界とはこういうものなのだとビジュアルで理解するためにもおすすめです。