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小保方晴子「あの日」感想   起こした問題の大きさと作者の小人物ぶりのギャップ

正直言うとこの本の作者である小保方さんが怖くなりました。

私がこの本で期待していたのは「STAP細胞は今でもあると思っているのかどうか。有ると主張するのであれば、それはこういう根拠があるからだ」ということを説明すること。事実かどうかはともかくとして、自分視点ではこうだったという説明・主張をする内容であるなら、マスコミや理研を通じた報道で真実を言っても歪められるから、こういう形で出版するのだという言い分はわかる。

というか、本人の中ではそのつもりで書いたのかもしれない。だが結果として私はそうは読めなかった。社会に対して自分なりの説明をしようと言うような広い視野を持って書かれた本とはとても思えなかった。

須田さんという女性記者による小保方さん批判本に対抗するべく書かれた本なのではないか、と勘ぐりたくなるような内容だった。STAP細胞の問題の説明よりこの須田さんという人への恨みつらみのほうが詳しかったくらいで唖然とする。




本の中では、研究のことはぼんやりとしか語られない。ただひたすらに本人を巡る人間関係の話について語っている。

「自分は頑張りました。頑張ったらSTAP現象が確認できました。だれそれさんは親切にしてくれました。kaho(遠藤高帆)さんという人が私に酷いことをしました。マスコミのいじめがひどかったです。特に須田桃子という人は笹井教授を殺したも同然です。理研の私に対する扱いは不当です。研究ができなくなって辛いです……。」 

ずっとこんな感じ。

いやいやいや。自分のことばっかですやん。そんなことはどうでもいい……と言うと語弊がありますね。当人に取ってはもちろん深刻な問題でしょう。でも「まず他に書くべきことがあるだろう。それを書かないかぎり、他のことを言っても何も変わらないだろう」という気持ちになりました。



「まず優先して書くべきこと」というのは具体的に言うと、こういう話ですね。

(1)小保方研究室の研究費の使途
(2)調査委員会押収のノート2冊と残りのノートの公開(内容と使用済み分量とノート規格)
(3)小保方研究室に残っていたサンプルの詳細(一部追求済み)
(4)小保方の私物PCに残っている記録
(5)小保方の受入プロセスとPI採用時の審査プロセスと採用理由
(6)小保方の杜撰なデータ管理を野放しにした理研のチェック体制
(7)ポートピアホテルの宿泊費用を本当にハーバードが負担していたのか(ハーバードに要確認)
(8)ハーバード大研究員兼理研客員研究員時代、理化学研究所に来訪し実験したのは1年未満なのか(理研に要確認)
(9)特許出願に係る理研内審査の記録
(10)N論文と行使価額修正条項付新株予約権大量行使における利益相反関係の有無
(11)3月5日に理研が成功を発表したSTAP細胞の再現実験のデータと報告プロセス
(12)生データを公開しない理由
(13)顕微鏡のハードディスクに残されている画像データの詳細
(14)調査委員会が小保方に対して私物PCの提出を求めたにも関わらず小保方が断った事実
(15)J. Guo他(2005)論文不当転載部分の実験ノートの内容
(16)2014年2月20日ヒアリングの数日前に取り直したはずの画像データが2012年4月特許出願書類に掲載されている事実
(17)部外者が小保方研究室に侵入してES細胞を混入させることが可能か否か
(18)丹羽氏の確認した「STAP細胞ができていく過程」で細胞をすり替えることができる等の隙はなかったか
(19)特許明細書が小保方論文骨子のコピペである理由
(20)本当にライブセルイメージングは改ざんできないのか
(21)なぜ小保方は再現実験に成功した独立した研究者氏名を公表しないのか
(22)STAP細胞の作製を200回以上行ったにも関わらず実験ノートが4~5冊に止まる理由
(23)なぜ理研は次世代シークエンサーでサンプルを分析しないのか(あるいは既に分析したのではないか)
(24)少なくとも200回に渡って同様の実験に公金を使用し続けた合理的な理由とその正当性
(25)「夜寝る前に明日失敗したらもうこの実験を止めてやろう今日一日だけは頑張ろうと思ってる間に5年経った」のはずが200回も成功していた
(26)研究に関わったテクニカルスタッフを含む全員の氏名
(27)小保方がB6系統マウスあるいはES細胞を入手した可能性と入手経路
(28)9日に「マウス実験は若山先生と話してないので分からない」と発言したにも関わらずなぜ14日に「長期培養も保存も全て若山先生が行った」と言えたのか
(29)論文の共著者の岡野氏や大和氏が関与しているセルシードという会社の株に関連するインサイダー疑惑

http://ameblo.jp/anti-index/entry-11856214295.html

焦点を絞るのであれば
「ちゃんと実験による検証やって論文書いたのか?それとも結果は捏造か?」
「研究費の不正流用疑惑があるけれどそこのところ問題なかったの?」

という2点だけでもちゃんと説明すべきだったと思います。

これについての答えが「自分はアイデアを出しただけです。実質的な権限はなにもありませんでした」「リーダーは若山教授でした」「私は首謀者に仕立てあげられただけでむしろ被害者です」ではお話にならないと思います。


しかもこの態度を本の最初から一貫させていればまだ一定の説得力がありましたがそうなっていない。文章の中盤まではめちゃくちゃ本人乗り気だし自分の努力の結果が実った、みたいなニュアンスんんです。当時それぞれのタイミングで感情が変わることは有るでしょうが、今全体を振り返って書いてるのにこのちぐはぐな文章を書いていておかしいと思わないのだろうか。この人の頭のなかはどうなっているんだと読んでいて非常に気持ち悪くなりました。

「信頼出来ない書き手」の度合いが半端ないです。これはもうハッ○ルさん執筆のミステリー「もしドラはなぜ売れたのか」ですら勝てない気がする。
「もしイノ」を読む前に読んでおきたい「なぜもしドラは売れたのか?」 - この夜が明けるまであと百万の祈り

答えるべき点には全く答えようとせず、書いている内容も信頼性が持てない。ただひたすら自分が辛い辛いと言ってるだけの本をドン!と売りだしてくる。小保方さんも怖いし、この本を出した出版社も怖いです。少年Aの手記を出した出版社と同じかと思いきや天下の講談社様……。 これはひどい







読んでよかったと思ったところは2点

1つは亡くなられた笹井教授の言葉。 p135です。

「女神様は、めったに見せてくれないんだ。」

「僕はね、科学者は神の使徒だと思ってるんだ。科学の神様はね、ときどきしか見せてくれないんだけど、ちらっと扉の向こうを見せてくれる瞬間があってね、そこを捉えられる人間は神様に選ばれているんだよ。だから真の科学者は神の使徒なんだ。その美しい髪の世界を人間に分かる言葉に翻訳するのが科学者の仕事なんだよ。神に使える身として日々を過ごすんだよ。人間の考えつく範囲での発明は限界があってね。しょせんは人間の思いつくレベルでの議論になってしまうでしょ。だから僕は神の作った生命と向き合う発生学が好きなんだ。」


「人類の歴史に積み重ねていくんだよ。積み重ねるものは泥ではダメなんだ。荒削りでもしっかり固い石を積み重ねていくんだ。それが人類の科学の世界なんだよ。」


「小さな石をちょんとのせるような仕事も、その小さな意思は固くないといけないよ。上から新たな石が載った時に潰れるような石であってはいけないよ。」

いい言葉やと思います。これだけは残しておきたい。……しかしこの言葉ですら本当に笹井教授が言ったのかどうか、それともこれも小保方さんの捏造なのか、そこから疑わなければいけないのが辛い。


実際に、笹井教授はそれまでの実績を考えると明らかに今回の行為は変に感じるんですよね。

笹井氏は小保方の残した生データや実験ノートを見ていないという点です。これはまぁいいでしょう。大学の研究室でも忙しい教授だと、基本的な生データの確認は助手や助教授に任せている事が多々あります。しかし、生データや実験ノートを見ていないにも関わらず笹井氏は「STAP仮説は合理的で、STAP仮説を否定する有力な反証は無い」と言い切っています。そもそも小保方の行った実験の過程や結果に疑惑が生じているのです。それなのに、生データを見ずになぜ「STAP仮説は合理的で反証も無い」と言い切れるのでしょうか?

http://ameblo.jp/anti-index/entry-11824774575.html

この点については「あの日」を読んでいても全く疑問が解消されることはありませんでした。上で言ってることとやってることが違いすぎるんですね。なぜこんなことになってしまったのか。




もう一つが「理研の内部の人間関係ドロドロしすぎぃ!」「研究ってこんなに適当にやってんのか?」という内情的なものを少し伺い知れたことです。知ってどうするというのはありますが。

以下はAmazonのトップレビューですが

小保方氏はスフェアという細胞変化のアイデアを出しただけで、STAP幹細胞については、すべて山梨大若山教授が主導していたものである。実験過程は、若山教授にしかなせないものである。にもかかわらず、なぜかいきなり若山氏に裏切られ、はしごを外され、捏造の張本人に仕向けられてしまった、と。
すなわち、もしSTAP細胞が捏造であるならば、それは彼がやったとしか考えられないものであると。
若山研における恣意的なデータ取得方法についても暴露しています。これは一見アレですが、バイオ研究ではよくやる手口です。最終的に齟齬が見つからなければ良いというやり方です。これらの反論は、一見なるほどと思うことかもしれません。

しかしながら、彼女は捏造発覚のきっかけになった画像の入れ替え、あるいはテラトーマでTCR再構成が見られず、のちに実験プロトコルで慌てて付け加えたこと、さらに電気泳動の写真をまさに改ざんしたこと、など今回の事件につて重要な、自己に不利になる部分は完全に濁しています。また彼女自身の経歴が、とくに博士論文における同様の手技が、不信感をあおる原因になっていることについては全く答えていません。

ほんまこれ。 話を読む限り確かに小保方さんが騙されたとか、自分の意思でやったことではない、という部分も少なからずあったのかもしれません。でも、自分は何も悪いことしてない、という態度はさすがにありえないでしょう。




とにかく、STAP細胞自体は大きな問題でした。マスコミがおもしろおかしく騒いでたという問題だけでなく、実際にその検証に1億を余裕で越える金が投入された。

STAP細胞、不正調査費に9千万円 研究費は5千万円:朝日新聞デジタル

それに対して、本を読む限りでは本人のあまりの小人物ぶりが際立つ。このギャップが空恐ろしいです。理研という閉鎖空間だからこそ起きたことなんでしょうか。読後感はひたすらに「どうしてこうなった」まみれでした。