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「マネー・ショート」を見る前に知っておくとよい知識

金融革新はリスクの分散と削減を意図していたが、実際には主に視界から隠しただけだった。 (ノーベル経済学者 マイケル・スペンス)

「マネーショート」見ました。原作は既読ですが内容を忘れかけていたのでとても楽しめました。

まだ見てない人多いだろうからネタバレは避けますが「世紀の大勝利のカタルシス」とともに狂った証券業界の中でまともであろうとした人間たちの苦しみや悲しみも描かれています。

で、「マネーショート」すごく面白いのですが、リーマン・ショックに関する基礎的な知識は有ることが前提になっています。「MBS」と「CDO」の説明だけはしてくれますが多分抽象的にしか理解できないでしょう。

「サブプライムローン」とは何か、なぜここまで広がったのか「CDS」とは何か、あたりは事前に知っておいたほうがより作品中での緊迫感を感じられると思います。

幸いにして、リーマンショック(英語ではSubprime mortgage crisis)はWikipediaが詳細にまとめてくれてます。 すごい充実度です。

サブプライム住宅ローン危機 - Wikipedia

見出しにつけた質問について、自分なりにイメージを持って映画を見るとより楽しめると思います。一応自分用に説明は書いておきますが、こちらはわかりにくいと思うので読まなくていいです。



1 サブプライムローンは何がまずかったのか?

①本来家を買えない低賃金層向けに抵当権を設定した住宅ローン

米国のサブプライム層を対象として、彼らの住宅購入用途向けに、ローンへの返済が滞った場合への担保として購入する住宅に抵当権を設定し、抵当貸付(詳細は譲渡抵当を参照)とした住宅ローン、即ちモーゲージ・ローン(mortgage loan)


②さらにMBS(ABSの一種)として証券化されたものが市場に出回った

サブプライム・ローンの債権をまとめて購入して証券化し、MBS(Mortgage Backed Securities)という担保証券の中で比較的リスクの高いサブプライム・モーゲージとして市場に供給した。こうした制度によって発行されたサブプライム・モーゲージのうち、およそ80%が変動金利型のアジャスタブル・レート・モーゲージ。「住宅の値段が上昇し続ける」という考えのもと、サブプライム・ローンは過剰に供給されていた。

③住宅価格の値上がりが止まった瞬間破綻することが約束された詐欺的商品

サブプライムローンの大半が変動金利で組まれていたものの、2年間の“釣り金利”付でした。最初の2年間は低めの固定金利が適用されるものの、2年経つと金利が一気に跳ね上がることになるので、債務不履行が多発することが想定される

つまり住宅価格が上がることを前提に貧乏人でも一戸建ての家が買えるローンを組み、このローンを維持するために住宅価格を上げ続けなければいけない、という「買い手」と「売り手」が共謀してインチキをやっていて、そのインチキがついに限界を迎えて破綻した、ということです。

インチキという言い方が悪ければ、バブルですね。バブルは弾けるものです。

コレ自体は非常にわかりやすい。



2 住宅価格のピークは?

米国内での住宅価格が2006年中盤にピークを迎えた後に下落した為、サブプライム・ローンの多くが、購入した住宅の譲渡を持ってしてもローンの全額を返済し切れない不良債権となった。こうした事情を含む諸処の理由でリスクが増加すると、サブプライム・モーゲージの利回りは切り上げられた。更に住宅ローンの返済の滞納が増加したため、市場でのサブプライム・モーゲージの購入者は減り、サブプライム・モーゲージの価格は下落した。

2008年9月現在、米国の平均的な住宅価格は 2006年半ばのピークから 20% 超下落していた

2007年の第 3 四半期では、サブプライム層向け変動金利型住宅ローンは米国の住宅ローン中で 6.8%を占めるに過ぎなかったが、この四半期中に生じた差し押さえ件数では 43%を占めた。
2007年10月において、サブプライム層向け変動金利型住宅ローンのおおよそ 16%は弁済が 90日以上滞納されているかまたは差し押さえ手続きが始まっており、これは 2005年における同比率の概ね 3倍に相当した。2008年1月には、この滞納比率は 21%に上昇しており、2008年5月には 25%だった

変動金利が5%を越えると危機的状況、8%を越えるとサブプライム市場そのものが崩壊すると言われていました。

マネーショートにおいて「マイケル・バーリ」がMBS市場の危険性に気づいたのはなんと2003年で、CDSを購入し始めたのは2005年後半です。

また、バーリは思いついた瞬間アホみたいに売りに行ったわけじゃなく、ちゃんと2年間待ってサブプライムローンの焦げ付きが上昇してきたのを確認してからCDSを買い集めにいってます。だからこそ、サブプライムローンがやばくなってきているのにMBS市場が全く崩れないことに猛烈な苛立ちを感じているわけです。

これがわからないと、バーリが焦りすぎたように見えるひとがいるかもしれません。実際は市場が全く気づかなかった、鈍かったわけです。

映画だけ見てるとわかりにくいですが「マイケル・バーリ」の先見性は他の3者より圧倒的に抜きん出ています。CDSを他の人間に売りさばいて回ったジャレドや、さらにそこから商品を買った人たちはバーリより2年以上遅れているわけです。バーリの凄さがよくわかりますよね

バーリー氏は2003年に住宅価格が過大評価されていることに気付く。徹底した調査を経て、サブプライム証券は当初の低金利期間が終わる2年後には暴落し始めると予想した。05年6月までにはバーリー氏は、1億ドル規模でそのようなCDSを購入していた。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-KZBIMH07SXKY01.html

ですが、実際にはサブプライムを証券化したMBSが崩壊し始めたのは2007年1月からです。そして、リーマンショックが発生したのはさらにその1年後。恐ろしく時間がかかっています。

それだけアメリカ全体が楽観的なムードに支配されていたのです。その結果2005年後半はおろか2006年末になってサブプライムローンはとっくに崩壊しつつあったにもかかわらず、その後もMBSは買い手がたくさんつき価格は上がってしまっている。せめて2006年後半時点で手仕舞いしていればショックはここまで大きくならなかったのに、その後もどんどん被害を拡大してしまった結果、2008年の大災害につながっています。


3 パンク直前のアメリカの実体経済について

家計の負債は 1974年末の 7,050億ドル、可処分所得の 60% から、2000年末には 7兆4千億ドルに増大し、遂には 2008年半ばの 14兆5千億ドル、可処分所得の 134% に達した

アメリカ全体が債務超過状態・・・。



4 サブプライムは早い段階で崩壊しつつあったのになぜMBS(サブプライムローンを証券化したもの)は1年以上ずっと価格を維持していたのか

今となっては結構いろんなところで説明されていますが当時は私も誤解していました。

なぜここまでのカタストロフを避けられなかったかという点について、「サブプライムローン」が崩壊することに直前まで気づかなかったから、という意見がありますが、そんなはずはない。 証券会社の人はエリート揃いです。バカじゃないので「サブプライムローン」自体がヤバイのは早い段階で気づいていた。

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2007pdf/20070910030.pdf

この通り2006年末の時点からすでに政府も金融業界もみんな認識していた。

しかしむしろ認識していたから、その「サブプライムローン」の破綻にばかり気を取られていた。あるいは「サブプライムローン」焦げ付きに対する自体の備えは、様々な証券化の手段を通じてできていると思っていた。「サブプライムローン」がたとえ崩壊したとしても、その被害は大したことないか、十分カバーできる、むしろそれを利用してさらに儲けようとすらしていた。少なくともそれで金融業界自体が揺らぐとは考えなかった。

2007年7月19日 バーナンキFRB議長が、サブプライムローン問題による損失は最大1,000億ドルに達する可能性が あると発言

サブプライムローンで発生する損失は1000億ドルくらいと見込まれていたし、それ自体はそこまで間違ってなかった。恐ろしくでかい金額と思うかもしれませんが、金融市場においてはこれだけで市場が傾くほどの金額ではない。本当に問題なのがこれだけなら、市場はコントロールできた。

考えてみてください。破綻したリーマン・ブラザーズの負債総額は6,130億ドルです(ちなみにリーマン・ブラザーズの売上は600億ドルくらいでした)。1社の負債だけでサブプライムローン全体で発生した損失総額よりはるかに大きい。たとえサブプライムローンが全部0になって、それを全部リーマンが被ったとしても残り5130億ドルはどこから来たんだ、となりますよね?

だから真のリスク(ブラック・スワン)についてみんななかなか気づかなかったんです。

5 サブプライムローン発の損失が15倍以上に膨れ上がった3層構造について

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サブプライムローンから直接発生した損失は1000億ドル程度でした。しかし、実際にリーマン・ショックで発生した損失はその100倍近い。つまり10兆ドルに近いレベルと言われています。

世界の金融機関が蒙る所有サブプライム不動産担保証券の評価損は最終的に 1兆5千億ドル

2007年6月~2008年11月の間に、アメリカ人は純資産の 1/4 超を失った。

S&P 500 は 2007年の最高値から 45% 下落。
住宅価格は 2006年のピークから 20% 下落。
退職金基金は10兆3千億ドルから8兆ドルに
貯蓄と投資資産は1.2兆ドルを失い
年金基金は 1.3兆ドルを失った。
損失合計は 8兆3千億ドルという唖然とすべき額となる

これについては映画上でも説明されていますが、要するに

「サブプライムローン」

「サブプライムローンを証券化したMBS」

「MBSだけだとリスクあるから債務担保証券としてCDOを組成」

「販売したCDOを販売するローンをさらに証券化した合成CDOを組成」

とどんどん証券化していきます。

証券が売れたらお金が入ってくるからその金を貸し付けてまたローンを作って証券にして売って、のサイクル。うへーもしかしてこれすごい商売なんじゃないですか?

こうやって証券を何層にも積み重ねた結果、証券化する前の元々のサブプライムの100倍に相当する金額の証券が売りに出されました。 誰もそのリスクを考慮しない状態でどんどんどんどん複雑化して、もはや売った側もそのリスクを認識できない状態まで積み重ねてしまった。



6 格付け会社がMBSにAAAの格付けを付けてしまったことの問題点は?

問題大有りです。
作品中でスタンダード&プアーズがCDOにAAAをつけているシーンがありますがこれは被害を大きくした原因の一つです。

トリプルAAAクラスの格付けが貰えれば、あまりリスクを取れない年金基金や財団ですら買えるように成る。

これによって年金基金や退職金基金も投資を行いまくったんで悲惨なことになったのは上で書いたとおり。



7 CDO(債務担保証券)が爆発的に売れた理由は?及び皆がMBSとCDOのリスクに気づかなかった理由は?

プロテクションだよ……。

メザニン債1000万の利回りが5%、つまり毎年50万受け取れる一方で、その証券がデフォルトした時に損失を補填する保険の費用が3%の30万ムールだとしよう。すると理論上この債権1000万からは20万が無リスクで手に入る。無リスクでだ。これは最上級の格付けであるAAAを越える地位に有る。

債権の利率が保険金より上回っているのであればそれはもう無リスクだ。現状の会計規則はそのシステムに対応していない。だからこの保険を使えば、この債権を満期まで保有した場合の利益を一括で利益として計上することができる。

リスク債権のはずなのに買った瞬間から利益計上できるから会社の決算がたちまちプラスになる。これによって利益が上がった会社に投資する人も増える。会社の株価も上がる。だから会社は金があればあるだけいくらでも買う。

そして、MBSやCDOとプロテクションあわせて発行する会社もまた、さらに出資者を募ることが出来る。

今からするとギャグみたいな話だけれど「MBSの利率」が高いのに対して保険である「CDS」の価値があまりに低すぎた。

どうせ住宅価格があがる=保険なんて要らないと誰もが思っていたから、保険は異常に安い価格に設定されていた。この状況が長く続いたせいで「MBSと保険をセットで買っておけば、たとえサブプライムが破綻してもノーリスク」と思われていた。 

当たり前だけれど、実際にはサブプライムローンが崩壊した後はMBSは大きく値下がりし、保険は異常に値上がりし、この錬金術は一瞬で崩壊し、逆流した金の流れは膨大な損失を産みだしました。「バブルになっているときは上手くいくのが当たり前に見えること」は、意外と簡単に崩壊する。その時がバブル崩壊の瞬間です。




などなど、分かっておいたほうが圧倒的に楽しめる要素が多いです。


まぁごちゃごちゃ言わなくても、原作読めばわかるんで、もし映画みてわからなければ、Wikipedia見るよりは原作読んだほうが絶対に面白いのでおすすめです。