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「トモダチゲーム」10巻 間違った方法で多数決を使うことの恐ろしさを嫌というほど味わえる

あなたに「多数決」を使う覚悟はあるか? 経済学者・坂井豊貴の「コンドルセの多数決論」|WIRED.jp

多数決に求められる有権者の像とは次のようなものだ。ボスはおらず、空気や扇動に流されず、デマ情報に惑わされない。自律して熟慮する個人である。そこで問おう。あなたに多数決を使う覚悟はあるだろうか。覚悟はなくても使えはするし、よく使われていることは間違いない。そしてこれら3条件はなかなか満たされていない。

これ読んで、トモダチゲーム9巻~10巻の話を思い出しました。
まさに「間違った多数決の怖さ」によって、簡単に全員が疑心暗鬼に陥りチームが崩壊していく様子が楽しめる作品です。

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人狼ゲームのパロディ。人狼は一定の条件を満たすまで誰も殺せないが、条件を満たすといきなり村人全員を殺せる

9~10巻で行われたゲームは非常にシンプルです。

①12人は監獄に囚われた囚人という設定。
 懲役としてドミノを12万個立てればクリア。全員に1億円支給。
 12人全員で協力すれば誰も損せずに10日程度で終わらせることができる。

②カギを手に入れ、かつ看守がいない日の夜に脱獄が可能。
 脱獄が成功した翌日の朝の時点でゲーム終了。
 脱獄に成功した場合、その人だけ2億円を手に入れ。残りの人は4億円の罰金。
 つまり、脱獄条件を満たした人が、他のプレイヤーに対する「人狼」になる

過半数」の人間の同意があればメンバーを無条件で排除できる。排除された人間は1億円の罰金。

④暴力は一切禁止。発覚した時点で「排除」と同じ扱いになる。

普通に考えれば絶対に全員が協力して1億円を手に入れようとする。
特にメンバーを減らしても自分が手に入れられる金額は増えないので排除するメリットは特に無い。

にもかかわらずこのゲームでは③④が多発することになりました。


3つの条件を満たすと「排除」の論理が発生する

①その仕事は「誰でもできる」内容の仕事である

ドミノ立ては基本的に誰でもできる簡単な作業だ。
ただ、誰でもできる…誰にでもできそうだからこそ起きるトラブルも有る。

仕事の優劣が明確に付けられる。
まともな会社なら仕事はそうならないようになっているはずだが
「営業職」などの職種であったり、「教育業界」「外食業界」「運送業界」などでは
安易に成果主義を導入した結果、この条件を満たしてしまう危険がある。


②全員が協力する必要性が無いこと。

もともと、こちらが用意した作業は12人全員がいなくても達成できそうなものにしてある。

だから、作業をしながら、共同生活をしながら

ついつい色々と余計なことを考えてしまう。「嫌いな人間一人くらいなら追放してもいいんじゃないか?」と

「全員いてもいい」場を作るのは意外と難しい。
全員にやるべきことがある状態、その人の存在意義がある状態にしなければいけない。
「比較優位」にもとづいて、その人ならではの役割を考える必要がある。
そうしなければ「要らない人」が発生する。


そうでなくても、人は「好き嫌い」とか「気持ち悪い」ですぐに人を排除しようとします。
ネットでは、大して自分に関わりのない分野に言及するときは、簡単に気に入らないものを排除しようとしますしね。この人間の性質をちゃんと考慮しておく必要がある。



③誰かがリーダーシップを取って「組織票」を作る

このルールでは絶対に少数派になってはいけない。

ブラック企業の社長や店長が会社をコントロールするためにつかうやつね。多様な意見は認めない。これが「正しい」という方向を決めてそれに従うかどうかで人を選別するとまず間違いなくこの状態を作れる。

互助会も同じね。あれメンバー内だと「きまった挨拶」をできるやつがマジョリティになってて、批判的なことを言うと即刻排除される状態になってるから非常に気持ち悪い空間ができあがります。

安倍総理が推進してる道徳教育政策、本当に導入されたら百パーセントいじめが悪化するので絶対にやめたほうがいいと思います。

こういう状態は、とにかく上手く言ってる間はいいけど、一人でも排除したら一気に狂います。



一人でも排除するとどうなるか

①②③のすべての条件を満たし、特に「組織票が過半数を超え」た上で「一度でも排除が実行される」という状態に成るとどうなるか。


多数側が権力者になり、少数派を支配します。自然に放っておけば「いじめ」が始まりますね。


そこからは「相互監視・密告が推奨」される状態になり
少数派は多数派への忠誠心のアピールのため、より立場の弱い人間を積極的にいじめるようになります。


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トモダチゲーム 9巻)


普通にやってたらいじめや差別が発生するから、
社会ではそうならないように大体の場合ルールで人を縛っているわけですね。

じゃあ、そのルールすらなかったら……? というのを描いているのがこの9巻。



「排除のゲーム」では「キモくて金のない男」がマイノリティとして真っ先に殺される

……にも関わらず、いざ排除のゲームが起きた時に真っ先に排除されるであろうもっとも信頼性スコアが低い人間(キモくて金のない男)が、排除のゲームを推進していた人(強者男性)たちを応援し、みんなで協力して生き残ろうとする側を否定する。そして、強者男性が十分に力を得たら用済みになって捨てられる。

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この構図は本当に現実の縮図みたいで面白いなと思います。


この作品では「キモくて金のない男」枠として後田という人物が登場するのですが、この人は、とにかく自分に優しくない相手をすべて敵扱いし、自分をかばってくれる人にフラフラ付いていきます。その結果、票争いに利用されて、利用価値がなくなったらすぐに追放されます。

「ちゃんと考えろ」とか「それは間違ってる」とか「努力しろ」みたいに言う人より、「聞こえがいいこと」「自分に都合のいいことを言ってくれてる人」に飛びついちゃうんだろうね……。

そうやって自分都合で「正しいこと」を否定しておきながら、切羽詰まってから、先に否定した正論を言って、自分を守ってくれ、と言い出すわけです。

「結局お前らもあいつらと同じだ!
 いつもいつも、世の中は俺みたいに正しいことを言ってる人間を信じないで
 正しいことをいいそうなヤツを信じるんだ!」

後田くんさぁ……そんなの当たり前じゃん。
 俺はね、こんな環境にあっても、毎朝髪を整え、身なりも清潔にしてるんだよ。
 ちゃんと挨拶も欠かさないし、いつでも声をかけてもらいやすいように愛想も良くしてる。

 いざという時に自分を守ってくれるのは、正論じゃなくて普段の行いだからさ

 よくいるんだよね……君みたいに普段何の努力もしてないくせにいざという時だけ信じて欲しいって言うやつ。で、そういうやつに限って、信じてもらえなかった時、世の中を呪おうとする。

 それがどれだけ身勝手なことか、30年以上も生きてて本当に気付かなかったの?
 いや、気づいてたよね。気づいてたけどずっと目を背けてきたんだ。
 自分の頭のなかにだけ有る理不尽を、いつか誰かが正してくれると思い込んで。

 甘えんじゃねえよ。甘えん坊が可愛いのは子供のうちだけ。大人の甘えん坊は見苦しいの一言だよ。」

「そうね。大多数の人間は、話の中身なんて聞いてないのよ。
 重要なのは何を言うかじゃない、誰が言うのかってこと。
 直前までなら水谷ケイコが負けていたはず。
 だけど、好感度が高いタネダが彼女の味方をしたことで、状況は一変したのよ」

このあたりも現実で起きていることと同じで面白い。