評価★★★★★(個人的評価★★★★)
この作品は名前の通り「幽霊塔」をモチーフにした作品です。ちなみに作品名は幽「霊」塔じゃないよ。幽「麗」塔だよ。この作品の「れい」の部分には、作品内で何重にも意味が込められており、その意味が分かってくるとめちゃくちゃ楽しいです。
アメリカの女流作家、アリス・マリエル・ウィリアムソン(Mrs.Alice Muriel Williamson)(1869-1933)の小説『灰色の女』(1898年)を基にした日本の翻案小説群。
1899年『幽霊塔』 - 黒岩涙香が『幽霊塔』の題名で翻案。萬朝報に新聞小説として連載(1899年8月9日~1900年3月9日)した。
人名はほとんど日本風に変えられているが原則イギリス人として設定され、舞台もイギリスである。1937年『幽霊塔』 - 少年時代、涙香のファンであった江戸川乱歩が1937年、涙香の翻案小説を同題名のままリライト。舞台を日本にして、登場人物も日本人にしている。
1952年『幽霊の塔』 - 西條八十が黒岩涙香版から翻案した少女向けの探偵小説。
1959年『時計塔の秘密』 - 更に江戸川乱歩は、『幽霊塔』を少年向にリライト
2011年 乃木坂太郎による日本の漫画作品。
ちなみに、宮﨑駿は、「カリオストロの城」はこの作品をベースにしていると述べている上、新装刊された『幽霊塔』の挿絵や漫画、絵コンテを執筆。今年になってジブリの森美術館に、自身が設計した『幽霊塔』の展示までしているとのこと。
ジブリ美術館限定 幽霊塔へようこそ展 通俗文化の王道 | ||||
|
そんなわけで、作品のモチーフとしてそもそも非常に面白いのは間違いありません。ただ正直言って、連載のときは、作品に散りばめられているいろんな要素が自分の中でつながらず、幽霊塔探索のところくらいしか面白いと感じませんでした。
しかし、改めて通しで全9巻読んでみると、べらぼうに面白かった。
幽麗塔(7) (ビッグコミックス)[Kindle版] | ||||
|
最後の9巻の展開については「道九郎」という人間の思想を好きになれるかどうかがかなり大事で、私はぶっちゃけ好きじゃないです。終わり方もスッキリ、というわけではありません。(なので個人的評価は★1つマイナス)
ですが、もともと完全に答えが出る話ではないですし、このモヤモヤを自分で考えることも大事だと思います。とにかくいろんな要素が詰め込まれており、何回か読み直すことによって面白さが増す作品だと思うので、未読の方も、いちど連載時に読んでいたけど印象が残ってない人も是非改めて読んでみて欲しいです。というかこれよんだせいで原作も読み返したりしてえらい時間かかった。時間返せ(笑)
この作品は、ベースはミステリだけれど、「セクシャル・マイノリティ」をテーマにした話であり、SFでもある
というわけで、「幽霊塔」の現代版として考えただけでもすごく面白いのですが、この作品はさらにてんこ盛り。
2014年度第14回センス・オブ・ジェンダー賞の大賞を、圧倒的支持のもと受賞しています。
2014年度 第14回Sense of Gender賞 The 14th Sense of Gender Award in 2014|ジェンダーSF研究会
ジェンダー的な要素については、もうこちらの選評におまかせします。選評が本当に素晴らしいので、是非作品を読み終わった後に、選評も合わせて読んでみてほしいと思います。
セクシャル・マイノリティという繊細なテーマをどう表現するか、五里霧中で描いた本作でした。今回審査員の方々に評価して頂いて、このテーマについてほんの少しでも問題提起ができたのかなと胸を撫で下ろしています。本書を手にとってくれた人にとって、マイノリティについて考えるきっかけになってくれたら幸いです。
「性的マイノリティという要素は、本作においてはまるで豪華絢爛な衣装のように扱われている」と鋭い指摘がなされたとおり、少なくともテツオ/麗子に関しては、悩む姿すら視覚的な楽しみ、読者サービスのように供されている一面がある。テツオ/麗子はその美貌に加え、大胆不敵な行動力、回転が速く明晰な頭脳、優れた身体能力など、凡人とは程遠いスーパーヒーローである。性的マイノリティという要素が弱点になっておらず、彼/彼女は常にパーフェクトで、絵面的にもサービスカットの大盤振る舞いだ。
華やかなテツオの異性装のみにとどまらず、衣装という装置が極めて効果的に物語中に組み込まれている。着/脱される衣装は女装・男装の双方である。ジェンダーに対する優れたバランス感覚が描出されている。太一の女装は、テツオが女性であると太一が知るとほぼ同時に始まる。そして太一が財宝を手に入れる瞬間に脱ぎ捨てられる。漫然と与えられた衣服(男装)から、自分とは何者かを常に問うてくる異性装を経て、太一は主体性を獲得する。だが、男性性の獲得のみが賞揚され、物語の要となるわけではない。太一はその後、今度は男性装を「脱ぐ」ことで、一度失ったテツオ/麗子を取り戻す。
少年愛、自己愛性向、男性を自認する女性、不妊、そして、女装により変化する自分を感じ取る主人公……性に関するさまざまな事柄が昭和二十年代の思想の中で生きることの困難さ、逆に平成にはない猥雑さの中で、混然一体となる。性とは何か、正しさとは何か。ホラー的な題材、事件に絡め取られながら、それらが浮かび上がってくる。事件の解決ののち、ラストの主人公ふたりのキスシーンは眩しいばかりだ。「ボーイミーツガール」を超えた、変化するものたちの出会いと関係性の、新しい地平は美しかった。
ハイヒール問題や車内痴漢、高齢出産、寡婦殉死、美容整形など、ジェンダー関連の切り口が全編にわたって散りばめられた本作は、サイコサスペンス、手に汗握る冒険もの、主人公たちの成長譚としても非常に面白い。
ファンタジー要素の強いマイノリティ表象が、「マイノリティのマイノリティとしての肯定感(“変態”の肯定)」を喚起する描写として成立しており、現代のLGBT問題(例えば同性婚問題)で起こりがちな、共感性に重きを置く主張が、「マイノリティは社会に全て包摂されるべき」と取り違えられることなどへの示唆にも読めて好感が持てた。もちろん、“変態”としてのクィア性だけでなく、少年の心と女性の身体という齟齬に苦しめられる主人公のテツオがシスへテロ女性に抱く恐怖(ミソジニー?)の感情など、マイノリティゆえの恐怖や差別感情の描写も素晴らしかった。
女装した主人公が「妊娠(子供を産むこと)」についてとてもポジティヴなことを言い、それにトランスジェンダーの登場人物がビビッドに反応するところで、自分の周囲には少なからず「子供を産みたい」という幻想(妄想)的な欲求を持つ男性が存在するのでとても複雑な感慨を覚えた。性自認や性的嗜好というのは本当に繊細でほとんど複雑怪奇と言ってもよいようなものなのだとあらためて感じた。
ちなみにこの大賞に取り上げられている「となりのロボット」についても当時感想を書きましたが、やっぱりプロの人のレビューというのはすごいなぁと思ってしまいました。
ちなみに私がこの作品で一番好きなのは沙都子さんです。
この作品で唯一「普通」の人が一番好きってのは、自分がまぁつまらない人間ってことなのかもしれないorz
道九郎の気持ちに同調できる人がこの作品を一番楽しめると思うので、そういう人の感想を読んでみたいよー。
この作品で起きた事件を時系列でまとめてみます
20年以上前 丸倍道九郎が時計塔にて輪田お夏と出会う。
???年 輪田お夏は娘を出産し「???」と名付ける。
???年 輪田お夏が時計塔地下で死亡。
坂井浦子がスカラベと箱を手に入れる。
「???」は孤児院に引き取られる
???年 藤宮たつが時計塔の所有者に成る。
???年 藤宮たつが出資先の孤児院から藤宮麗子を養子にする。
???年 道九郎が坂井浦子の娘である沙都子を養子にする。
1952年 死番虫が藤宮たつを殺害。藤宮麗子が犯人として疑われるが失踪する。
死番虫はもともと殺すつもりはなくく財産を奪うだけのはずだった。
死番虫が藤宮麗子の死体を捏造する。
死番虫が本庄志郎の顔を焼く。
丸部道九郎が時計塔の所有者に成る。
1954年 死番虫が新聞記者を殺害。
死番虫が時計塔にて女性を殺害。この際警官も数名死亡
死番虫が本庄志郎を殺害。
死番虫が東京にて坂井浦子ら数名を殺害。
丸部道九郎が死番虫と疑っていた・・・に場所を教えたことが原因。
時計塔探索。数十人の囚人が死亡。