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「先生が忙しすぎる、を諦めない」 学校関係についてなにかを語るなら入門書としてこの本はとてもおすすめ!

学校教育の問題を考える上での入門書として非常におすすめです。

内容以上に、「学校教育に関するいろんな問題についての考えかた・語るときの作法」について参考になります。

その1 読みやすくするために明確にテーマを設定することはとても重要

まずこの本の良いところは、内容のコンパクトさとバランスの良さです。内容として200ページ以内に、しっかりデータによる問題提起と、解決策の提案を書いている。
ひたすら問題の指摘だけして、解決策についてはとってつけたような話や、作者の根拠のない妄想をちょこっとつけてるだけの本は山程あります。分量は多いけど、読んだところで「いろいろ問題があるのはわかった。それで?」で終わってしまう本を読むとげんなりします。*1

一方この本は、短くまとまっていますし、しかも章ごとにまとめを行い、構成としても後半にしっかり提案がされている。何故こういうことが可能かというと、学校教育全般について語るではなく、「教師の長時間労働がもたらす弊害とその解決策」という最も重要な点に絞っているからです。

その2 作者の体験主義に陥らず、データや事例に基づいて語るのは大変だけどそれをやってくれているので貴重

そして、解決策の提案についてですが、作者の独りよがりがないことがとても重要。学校教育関係の本は、問題の指摘もどうするかという提案も何かとその人の成功体験が一般化して語られがちですが、この本では問題の指摘についてもデータに基づいたことしか言いませんし、解決策もかならず実践済みの事例として紹介しています。7つの問題について複数の解決策案を提示している。
たいして興味がなく「抜本的な改革」を求めるが外部の人からしたら「物足りない」と感じるかもしれません。しかし「身近なところからの実践」をテーマとして掲げている以上、この本のスタイルは非常に正しいと思います。なんといっても、学校って何か新しいことをやろうとしても「前例」がないと動きにくいですからね。

「先生が忙しすぎる」をあきらめない―半径3mからの本気の学校改善

妹尾昌俊 教育開発研究所 2017-08-31
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その3 問題を自分ごととして認識するために越えるべき「So What?」の壁を、ちゃんと書き手側から乗り越えようとしてくれているので親切

そしてこの本がなによりも素晴らしいと思うのは、「データに基づいた問題の指摘」と「原因分析」「問題解決の提案」の間に「教師の長時間労働は何が問題なのか?」という章を挟み、ここに十分な紙面を割いているところ。

・「問題の指摘」は割と簡単に出来ます。教師の長時間労働や過重労働を知らない人は殆どいないと思います。(というか、それすら知らないならもうホント発言する資格ないから黙ってて欲しい。)今でいうと、内田良さんとかが個々の問題を継続的に発信されていますよね。

・そして「原因分析」もいろんな角度からされています。現場の先生はもちろんのこと、色んな専門家が、ちゃんとしたデータや研究を行ってマクロ的にも問題を探っています。


でも、そういうことをきちっとやっても大抵の人には響かない。なぜかというと「それの何が問題なのか?」「それが私に何の関係があるの?」(So What?)というの壁を越えられないからです。

普段はてなtwitterで教育問題について語る人は、大抵の場合「目についた問題」をそれっぽい正論で攻撃し、「なんか良さそうなこと」を深く考えずにいって満足してます。というか大半は自分語りですよね。根本的に何が問題なのかとか、その原因がなにかについて真剣に考えたりはしません。それは「他人事」だからです。その時だけはきれいごとを言いますが、基本的にはこれっぽっちも興味が無いのです。だから自分の過去の鬱憤を語るとか取ってつけたようなことしか言わない。別にこれは悪いと言ってるわけじゃなくて、大抵の人が興味が無いのは当たり前です。*2 でも、語る側は「興味が無いのが当たり前」という部分を忘れてはいけない。説明する側と話を聞く側の間に存在するその壁を乗り越えずすぐに「原因分析」を始めてしまったりすると、せっかく語っているのに、聞き手に全くそれが伝わらないことになります。*3

この本は、その点をよく認識して、ちゃんと読者の「So What?」に答えるところに分量を割いている。「そんなこと言ってもしょうがないでしょ」とか「今までだってそうだったんだからそんなに変わらないでしょ」みたいな諦めで済ませてはいけないということをちゃんと語ってくれている。読んでる人間が問題を「自分ごと」として認識するための橋渡しをしてくれている。そういうところがとても好感できます。

「自分ごと」だと人は動く

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その4 身近なところからの実践の提案とそのための「事例」や「ツール」を提示しているので具体的

本を読んで、そのときは勉強になったなと思っても特に行動が変わらずしばらくしたら内容を忘れてるというのはよくあることです。そうならないために、学校教育の現場ではいろんなツールや仕掛けが最近多く研究されています。ICTみたいな話じゃなくて、もっと手前の「ルーブリック」や「Q-U」といったアセスメントの取り組みですね。お題目や考えかたにとどまらない、実践部分を見せてくれるのはとても大事なことだと思います。

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教育現場って、外から見ると旧態依然で何も変わらないって思われてる人多いかもしれないけれど、実は最近すごい勢いで変化していて見ているだけでも面白いんですよ。 このあたり保護者の人たちがもっと興味を持ってほしいなって思う。

まとめ 「知識」だけじゃなく「考えかた」まで身につくのでとてもお得な本です。おすすめ!

こうした感じで、知識を得るだけではなく「学校教育を論じるための作法」みたいなのがしっかり詰まってコンパクトに纏まっているという意味で、この本はものすごくおすすめです。 はてなブックマークで学校に関する話にブックマークしたことがある人間は是非読んでみてもらいたいです。

専門的な話はほとんどなく、内容は入門レベルなので学校教育関係者以外の人にこそ読んでみてもらいたいです。PTA活動についてどう捉えるかについても、はてなだけ見てたらわからんような視点がちゃんと書かれてますよ。




最後に目次です。

第1章 だれが、どのくらい忙しいのか

◆日本の学校の長時間過密労働の現実
◆ブラックの内訳――先生たちは、いったい、何に忙しいのか
◆多忙感の現状――忙しすぎることに教師たちはどう感じているのか

第2章 忙しいのは、なにが問題か

長時間労働の弊害――熱心にやっているんだから、いいでは済まない
◆死と隣り合わせの職場
先生が忙しすぎる現状は、未来の損失

第3章 なぜ忙しいのか、なぜいつまでも改善しないのか

◆多忙化を加速させた直近10年あまりの変化
(1) 前からやっていることだから(伝統、前例の重み)
(2) 保護者の期待や生徒確保があるから(保護者と生徒獲得のプレッシャー)
(3) 子どもたちのためになるから(学校にあふれる善意)
(4) 教職員はみんな(長時間一生懸命)やっているから(グループシンキング、集団思考)
(5) できる人は限られるから(人材育成の負のスパイラル)
(6) 結局、わたし(個々の教職員)が頑張ればよいから(個業化を背景とする学習の狭さ)

第4章 本気の学校改善――あきらめる前にできる、半径3メートルからの実践

◆基本方針1 現実を見よ。本当にこのままでいいのかという対話を
◆基本方針2 子どものためとばかり言うな――重点課題とビジョンをもとに、仕事をやめる、減らす、統合する
◆基本方針3 教員でなくてもできることは手離れさせるとともに、チームで対応できるようにする
◆基本方針4 前例・伝統だからと思考停止せず、今日的な有効性を問い直そう
◆基本方針5 管理職はいい人というだけではダメ。キビシイことも言い、立て直す支援を
◆基本方針6 学校のサポーター・応援団を増やそう
◆基本方針7 働きやすい職場をつくり、学び続ける教職員チームになろう

*1:皆さんご存知の古市さんの本とか香山リカさんの本とかは、他の人が言ってる問題点をまとめただけの本とかが多いですね

*2:問題なのは、学校教育は一応自分の体験があるから、自分の体験をもとに語ると「自分ごと」として語っているようなフリができる、あるいは自分自身がそのように錯覚してしまうということが問題なのです。そういう自己体験を「誤った一般化」で語り、重要度とか実現可能性とか無視してみんながあれをやれこれもやれ。教師は嫌いだからちょっとでも楽をすることは許さない、みたいな感情論ばかりで議論をしたつもりになって、ろくに考えてもいないのに無責任に現場にプレッシャーを与え続ける人たちが非常に多い

*3:これはサヨクの人やフェミニストなど、社会運動を頑張ってる人が陥りがちな問題で、「聞き手の認識」に対してむとんちゃく過ぎる。自分が熱心に考えてるのはいいとして、興味がない人にどう興味を持ってもらうかという部分を真剣に考えてない。それどころか、自分の話に興味を持ったり理解しない人間を馬鹿にする人がネットではよく目出つ。そんなやつ嫌われて当然でしょ。まず自分が語りかけようとする相手に興味をもたないようなやつが社会運動をやってるってなんのギャグかと思う