何周目だろうか感はあるが、"キズナアイを取り下げろ"がそもそもほぼ完全に藁人形なんだよね。NHKに抗議しましょうと呼びかけたのは、最初の太田弁護士だけだったと思うよ。千田先生とかの主張に関しては、少しは女性キャラの利用形態のアンバランスさも気をつけてくれればいいなー程度じゃないすか。
— Masahiro Kozuka (@masa_koz) 2018年10月21日
というツイートを見かけたので実際の発言を振り返ってみます。
話がごちゃごちゃすると、絶対に藁人形論法 が出てくると思ってあらかじめまとめておいたのですが。千田先生は、<記事はともかくとして>、初期段階でのツイートではかなり穏当な発言が多いんですよね。
では、なぜ彼女はこれほど炎上してしまったのでしょうか。
(彼女が炎上していないキズナアイを炎上扱いしたのと違って、彼女はガチで炎上しましたよね)
そのあたりについても振り返ってみたいと思います。
まず「批評」の領域で議論をするのはとても良いことだと思います
私は、千田先生が初期段階でツイートで言ってることは「批評の領域に留まっているのであれば」「こういう見方もある、こういう批判的な見方もありうる、とそういう話であれば」むしろ歓迎すべき意見だとすら思っています。
①批評という分野の話であることをまず明確にした上で(現実面にいきなり直結させない)
②「社会学やフェミニズムの文脈に、むりやりキズナアイを当てはめる」のではなく
③「キズナアイを主として、それ自体をよく詳細に理解しながら、社会学やフェミニズムの考えを適用する」という方法を丁寧に行っていたならば、
それに聞く耳を持たないのは情けないという話だってあり得たでしょう。記事のほう②よりでしたが、ツイートのほうでは③側の気遣いはちゃんと感じられました。*1
そうやって、まず批評としてキチッと話をした上で、それから現実の問題として論じるというふうに段階を踏むなら、それを尊重しない人間のほうがおかしいとなったでしょう。そこまでやるなら市民的公共圏みたいな話ができたかもしれません。
でもそうはならなかった。
その1 拙速が過ぎた太田弁護士と、それを批判せずそこに乗っかろうとした千田先生という構図が問題だった
今回のキズナアイ批判は拙速かつ雑すぎました。本当にひどかった。
まとめをもう一度見てほしいんですが。言い出しっぺは太田弁護士です。太田弁護士はなんとキズナアイに出会って2ツイート目でいきなりNHKに通報を呼びかけてます。キズナアイというものへの理解なんて微塵もない。社会学やフェミニズムの基準を真面目に検討した形跡すらない。ただ表面を見ていきなりけしからんと言い出し、しかも通報しろと呼びかける。はっきりいって異常だと思います。
私はなんでもかんでもフェミニズムの言い分を「お気持ち」で無化しようとする行為は大変嫌いなのですが、とはいってもさすがにここまで雑だと「お気持ち」と揶揄されても仕方ないでしょ。。。とは思いますね。
大事なことなので二度言いますが、とにかく拙速すぎる。まずちゃんと批評のところである程度議論した上で、やはり問題があるなとなってからこれはおかしいからNHKに抗議しよう、ならまだわかりますよ。でも相手の話も聞かないでいきなり自分の主観で決め付けて、通報呼びかけって、もうガチモンスタークレーマーしぐさじゃないですか。
だめでしょそんなに焦ったら。そうやって手続き無視・反則をする人がいたら、安心して話できないじゃん?千田先生が今回の話で主張された市民的公共圏の形成のために必要な議論を真っ先にすっ飛ばしたのは太田先生ですよね?
というわけで。
まずこの、「初手で太田弁護士がルール違反をやらかして批評の部分すらすっ飛ばそうとしていきなり現実に働きかけようとした」が大問題だったわけです。この太田先生のやらかしによって、すでにステージが「批評」ではなく「現実問題への介入」に移っていた。
千田先生は太田氏と違って「批評」部分をやっているつもりだったかもしれません。しかし、それがやりたいなら、まず今回の話の言い出しっぺである太田先生をちゃんと制するか、太田先生とは別の立場として発言していると明言する必要があったわけです。
にも関わらず、千田先生は、よりによって太田先生の発言に乗っかって記事を書いてしまっている。
news.yahoo.co.jp
このサイトは、その後、違う意味でネットで話題を呼んでいる。太田啓子弁護士が、性的に強調された描写、女性の体をアイキャッチに使うことについて疑義を呈し、「NHKノーベル賞受賞サイトでこのイラストを使う感覚を疑う」とツイートしたからだ。
これに反対するひとたちは、別にキズナアイは性的じゃない、女性からも支持を得ていると反論、太田弁護士に賛同する人は「乳袋(という表現があるのを初めて知った)」やへそが出ている時点で、やはり性的ではないかと、ツイートが飛び交う事態になっている。
個人的には、やはりノーベル賞の受賞サイトでこれは適切ではないと思う。
あくまで経緯紹介であり、論点は太田弁護士とは違うのだから独立して受け止めてほしいということかもしれないが、むしろ経緯を紹介した上でそれを否定せずに自分の意見を接いでいるのだから、それはちょっと難しいかなと。
一般の人にこの判断を要求するのはすこし重たいかもしれませんが、千田先生は社会学の教授をしています。社会学者は「会話分析(エスノメソドロジーとか言うらしいけどよく知りません)」というものを駆使できて、まさにキズナアイと科学者の関係性に置いてもっとも客観的に意見をいえる立場であるという期待があります。そういう人が、自分の発言については自分の発言がどのように認識されるのかを考えていない、というのであればちょっと問題があるでしょう。というか、彼女の記事に書かれていたキズナアイの分析、相づちの数を数えてるだけとかでずさんにも程がある。絶対に「会話分析」と呼ぶに値しないよね。。。職業柄一番ちゃんとすべきところで結論ありきになっていたのはとても残念でした。
その2 自分たちの文脈を前提としながら、キズナアイの文脈への理解や敬意がまるで感じられない態度に強い反発が出た
また、太田先生の話を抜きにしても千田先生の態度はあまり歓迎できない。
千田先生の記事って、「人を怒らせる方法」の3要素をすべて満たしてるんですよね。
人を怒らせるための最も効果的な方法、それは
「その人にとって大事に思っていること」
「素人が知ったかぶりで語ること(肯定否定を問わない)」
「その際に本題と関係のない容姿の話に触れるとなお効果的」
実際の作り手に口を出すにしては、あまりにもキズナアイやVチューバーへの理解が乏しかったし、そもそも見た目以外興味がない。受け答えについてもキャラ性むしして相槌の回数を数えるだけという始末。自分もオタクだと言いながら、初音ミクのころから全くコンテンツ観が変わってない。
一昨日に、千田先生の主張自体は問題でないと言って社会学側の文脈を説明してる増田がいましたが。
https://anond.hatelabo.jp/20181020130536:emebd
千田先生は、増田みたいに丁寧に説明もせず、自分たちの文脈をさぞ当たり前のように主張されました。つまり、自分たちの文脈は説明せずとも尊重してほしいわけですよね。
それなら、批判する対象にたいしてもちゃんと敬意を示さないとダメでしょう? なんで社会学の文脈を当たり前のように持ち出しながら批判対象であるキズナアイの文脈には全く敬意を払おうとしなかったの?って話になっちゃうわけですよ。
冒頭でこのように書きましたが。
①批評という分野の話であることをまず明確にした上で(現実面にいきなり直結させない)
②「社会学やフェミニズムの文脈に、むりやりキズナアイを当てはめる」のではなく
③「キズナアイを主として、それ自体をよく詳細に理解しながら、社会学やフェミニズムの考えを適用する」という方法を丁寧に行っていたならば、
それに聞く耳を持たないのは情けないという話だってあり得た
どれも守れていない。これで耳を傾けない方を責められますか?何様だよって気持ちになります。
自分は相手に自分の文脈を理解することを強く求めるのに、自分は批判的な目で見てるくせに全然理解しようとしない。こんなクソみたいな態度が許されると思っているのかなあと。普通だったら、そんな人からは話聞きたくありませんってなりますよね。
本件について、岡田育さんはコンテンツの技術進化に合わせてオタクのジェンダー観もアップデートしていくべきだと語っていてそれはそれで一理あるんだけど。それを言うなら、批判する立場の人はオタク以上に頑張って理解しないとだめ何じゃないかなと思います。
何かを批判しようとしてるのに、批判する対象について理解もしないで、自分の過去のやり方に当てはめるだけってあなたね。それただの老害しぐさじゃあないですか。しかも素人の。どう考えてもプロの仕事じゃないよ。
古い表現ですが「象牙の塔」の中ならこういう態度でも通じるかもしれませんが、ネットで一般人相手に何かを訴えるなら、ちゃんと説明の仕方は考えてほしい。
その3 主張内容はともかく、ずさんな誘導や、妥当でない論拠など、結論ありきの文章が信頼感を失わせた
キズナアイが炎上しているといって冒頭から否定的なイメージを植え付けようと誘導したり、男女の役割分担の話をする際に内容を精査せず「あいずちの数を数える」など素人でもわかるおかしな論立てのせいが目立ちました。
その2やその3は本当にひどく、千田先生の態度のおかげで、「社会学」はともかくそもそも日本における「社会学者」というものが信頼に当たりする人たちなのか、というところまで話が進みそうになりました。
フェミニストの人たちも千田先生の意見に乗っかって「役割」論の方でせめておられましたが、それは枠組みが大きすぎて今回のキズナアイを特別に批判する理由としては説得力が弱すぎると思います。
キズナアイ批判から離れて、この機会にそれに該当するいろんな事象を発表されてはいかがかと思います。私としては、社会学者やフェミニストのみなさんがこの性的役割論が本当に問題だと感じているなら、今まで問題だと思った番組のリストがズラッと出てくると思ったんですけど、なんで未だにキズナアイ問題に固執されているのか全然理解ができません。絶対にオタクどもが反発するからムキになってるだけだよね。(しかもキズナアイを支持してるのはフェミニストが叩きたい男だけではないという)
まとめ
というわけで。今回千田先生が炎上した背景においては
・批評→現実問題と言う手続き無視への問題意識の欠如
・批判対象へのリスペクト不足における無知・無理解
・恣意的な表現や雑な論拠など、信頼性を損なう不誠実な態度
たとえ千田先生の物言いが穏当であったとしてもこのあたりは炎上する要素たっぷりだったと思います。
一度炎上してしまえば、冒頭のツイートにあるようにもう難癖付ける人も出てくるでしょうが。炎上した後にそんなことを言っても無意味です。そうなる前に、ちゃんと気をつけるべきじゃないでしょうか。
今回の問題は一言で言えば、「拙速すぎる」。これに尽きるかなと思います。
結局のところ焦って雑な問題提起をしたら、そのずさんな部分を巡って争いが生じ、2週間以上泥沼な争いをした上でなにも成果は得られないとうことになってますよね。素人はともかく、社会学の先生やら弁護士先生におかれましては、プロの矜持を持ってもうちょっと調べたり準備をしてから意見を言われたほうがよろしいのではないでしょうか。
蛇足ですが。今回は千田先生の話をしたものの、他のフェミニストだって、オタクだって、ここまでひどくはないにせよ多かれ少なかれ似たようなことをしてると思う。話し合いのためにはお互いの信頼関係が必要になるはずなのに、どちらも信頼関係を築こうとはしてないというかむしろ積極的に破壊しようとしてる。もうお前らとは話合うことはないと言いながら、お互いを攻撃する発言ばっかりしてる。 韓国みたいになりたいならいいけど私は嫌だなぁ。
追記。
私は、自分の記事を誤読・誤解する人がいたらそれは書き手の問題、と思っているので一応補足しますが。なんか記事の趣旨を読み違えている人がいるような気がします。
「千田先生は穏当に話などしていない」と感じるのはご自由にどうぞなのですが。それはこの記事の主旨じゃないですよ?わかってます?
この記事は「千田先生はそんなに過激なこと言ってねえよ。勝手にねつ造して叩くなんてお前ら最低だな」という冒頭のツイートに対して、「言い分は穏当だったかもしれませんが、そうだとしても千田先生には炎上する理由は十分にあった」「批判をするのは良いが拙速にすぎないようにしよう」ということを説明する記事、のつもりで書いています。そこちゃんと伝わってますか?
どうも私が千田先生を擁護していると思ってる人がいるみたいですが、私は「序盤の言葉は穏当だった」としか言ってませんよ。都合のいい所だけしか目に入れないよな読み方はだめですよ。
追記2
「韓国みたいになりたいならいいけど私は嫌だなぁ。」という文章にひっかかった方がおられたそうなので補足しておきますと、これは韓国全般を見下す発言であったり、政治的な話をしているのではなく、「アチョン法が施行されている韓国において、フェミニズムとミソジニーの対立が深刻になっている状況」を指したものです。
説明不足で申し訳ありませんが、私も一つの記事で全部を説明できるわけではないので、わからないことやひっかかることがあったら、いきなりケンカ腰で話しかけるのではなく、「これははどういう意図で書かれたものなのでしょうか?」と質問していただければと思います。