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「マンガで読む古典 蜻蛉日記」  天才たちの恋愛頭脳戦@平安時代

ものすごく悲しいお話なんだけれど、マンガとしてとても面白く描かれていた。羽崎やすみさんという漫画家さんすごく好きかも。


作者は藤原道綱母。中古三十六歌仙の一人に数えられ、本町三美人の一人と称されるなど、当時の女性の頂点的な存在。しかし、そんな女性でも「藤原道綱の母」としてしか記録に残っていないのがこの時代の様子をよく表している。



そしてタイトルの「蜻蛉」は、蜻蛉のように儚く頼りない妾としての結婚生活を示す言葉であり、実際に彼女の人生は、その才覚や美貌を考えるととても不遇なものではあったのだけれど、彼女はよい意味でとてもプライドが高い女性であったため、ただやられっぱなしではないところが面白い。

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美人であり教養もある女性である(という噂が立った)がゆえに、身分の高い男性から言い寄られまくる日々。

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そんな男ども相手に無双をしていた彼女だったけれど、時の人である藤原師輔(右大臣)の息子兼家から言い寄られる。
へたくそな歌、風流でない手紙などにうんざりして何度も断るが、それでも家の格が違うため何度も断ることはできず、結局結婚させられる。



それでも結婚した当初は幸せを感じていたのだが、道綱を出産してしばらくすると彼女は夫が「黙って」浮気しているのを見つける。
兼家からしたら「この当時の男性からしたらあたり前」という感覚であったし、彼女はそういう意味で妾の一人でしかない弱い立場。
当時の世間の常識からしたら「寵愛を失わないように媚びるべき」だったのかもしれない。



しかし、彼女はそれに対してちゃんと「黙って浮気してんじゃねえよ!」と歌で怒る。
ここから二人の壮絶な夫婦げんかが始まる。
(この二人のケンカは当時の貴族社会でも話題になっていたらしい)


このあたり、原作ではかなりドロドロしていて読んでてすごいしんどいのだけれど、
マンガではとてもコミカルに描かれていて最初に読むならこちらのほうがいい。



ちなみに、蜻蛉日記は藤原道綱母からの視点なので「夫が不誠実でつらい」ということばかり書かれているが
彼女は彼女で結構ひどくて、とにかくいかに夫を苦しめるかを楽しんでいるようなところもある。
(もちろん力関係が圧倒的に違うので、どれだけ頑張っても夫が涼しい顔をしているので余計に意固地になったところはあるのだろうけれど)


クライマックスは西大寺への出家未遂。
この時、夫と妻の間に挟まれて、何度も言伝で往復させられる息子道綱がものすごくかわいそう。


夫婦げんかが一着し、後半の複雑な心境を描いているところからがものすごく味わい深い

そうこうしているうちに時は経ち、夫はどんどん出世していき彼女は年をとっていて、ある時そのことに気づいてしまう。

やわらかいウチギに
紅の練絹の直衣を人重ね指貫の上に出している。
そして帯をゆるやかにしめて

そんな姿にほんの少しだけれど私も見とれてしまいました。
力も心も絶頂にある人だけが持っている美しさ。

それに比べて私ときたら、
着古しのヨレヨレの着物を、流行のものなんか一つもつけていないし。
顔にもすっかりしわができてしまった。
冬の間に庭もすっかり荒れてしまった。


……表向きはともかく、あの人は私のことを
心の底では愛しんでくれていると思ってた。
でも、今の私はただのみすぼらしい中年の女。

女は衰えていくだけなのに、中年を過ぎたあの人は、年々輝くように美しくなっていく。
どうしようもないことだけれど、悲しいことよね。

夫の不実に対して意固地になっていたところもあったけれど、
恋の駆け引きを楽しんでいるところもあったと自覚した彼女は

この後夫と喧嘩することをやめ、夫が自分のもとを訪れないことに怒るのではなく、

息子の恋愛に肩入れしたり
権宰相の孫娘(といっても兼家の子)を養女として迎え入れて
子供たちの結婚話にドッタンバッタン大騒ぎするような展開に。

最後には、本人以外にはわからない夫に対する心情をつづり、最後にこんな句で〆る。

ほととぎす 今ぞさわたる 声すなる わが告げなくに 人に聞きけむ
(ほととぎすが飛んでいくらしい声が聞こえる。 
 私は知らせてなんかやらないが、あの人は聞いただろうか?)

最後まで憎まれ口をたたきつつ、彼への思いを残すような句ですね。
もしかしたら、本当に兼家のことが好きだったのかも? それはもう想像するしかないですね。



……ということで、「エマ」とか「かぐや様は告らせたい」あたりが好きな人にはこの漫画読んでみてほしいです。



藤原兼家は、ご存知藤原道長(五男)の父

駆け足でまとめたけど、この藤原兼家さん(ひいてはこの当時の男尊女卑の風潮)はマジでひどい。しかし藤原道綱母のユーモアや気の強さ、息子の活躍や娘に関する痛快な展開などによってようやく救われているところがある。そういった要素を強調して描かれているこの漫画を読めて、ちょっと蜻蛉日記の印象が変わりました。 とても面白かったです。

ja.wikipedia.org

このあたりの歴史を読むと源氏物語が嫌いになる人と、逆にもっと好きになる人がいるわけですが、あなたはどっち?(笑)



蜻蛉日記の時代(950年~990年)と比べるとちょっと時代が前になります(864年)が、
藤原家がその地位を確実なものとした「応天門の変」を描いたマンガもありますね。読んでみたい。