だいぶ話が収束して、未来への希望が示された段階ですが、まだまだ片付けるべき過去が多く残っているこの作品。
それでも、ここにきて「一番大きな過去」はようやく乗り越えられたんじゃないかと思います。
それにしても、31巻で一気に問題を解決しに行く下りは参考になるのでちょっとメモしておく。
お互いに恨みや殺意を持っている状態
①安吾→要への恨み
百舌戸要 :安吾のグループの友達を「テスト」の名のもとに大勢殺した。
安吾 :当然百舌戸要やその仲間だった大人を恨んでいる
②安吾→花への恨み
末黒野花 :自分の父親が百舌戸要の仲間だった。
安吾 :自暴自棄になっていた時に人を一人殺害するなど多くの人間を傷つける。また末黒野花を、父親の件で恨んでレ○プしようとし、さらに殺そうとする。その後は少し落ち着いているが当然前科たくさんある状態
③要→安吾への殺意
安吾 :当然百舌戸要やその仲間だった大人を恨んでいる
百舌戸要 :安吾がしでかした所業を知り、安吾を殺そうとする
④花・嵐→安吾への恨み
安吾 :落ち着いてからは高い能力を活かして周りを助け、リーダーシップを発揮。
青田嵐 :末黒野花の彼氏。彼は末黒野花の件を知らずに安吾と知り合う。安吾の能力を尊敬し、その境遇や苦悩をよく知っていたがそのあとで安吾が自分の彼女にたいしてやったことを知る。
末黒野花 :当然自分をレ○プしようとしたあげく殺そうとした安吾は許せない。
というところからスタート。
ほとんどの主要人物がお互いに恨みを持っている。しかも、全員が何らかの形で被害者でもある。正直、みんなで殺しあって全滅するしかないじゃない!という状態である。
「お前に俺のことはわからない」で話を終わらせて平気なら終わらせてもいい。でも終わらせられないなら逃げないほうがいいのかも
青田嵐は、目の前の安吾という男が、自分の彼女である末黒野花にしたことを知ってる。それでもぶちのめす前に会話をしよう、相手のことを理解しようと試みてる。正直私は絶対同じことができないと思う。青田嵐というののはかなり特殊なやつである。
「近づいてどうするんだ。今のお前じゃ冷静に話できない」
「口を出すな。お前には関係ない。(中略)
嵐、お前に何がわかるんだ!」「やめろよそれ言うの!
そりゃわからないよ。一緒に育ったわけじゃないんだから。でもそれを言ったらみんなわからないじゃないかおれのことはあんたにはわからない。わかりたくてもわからない。でもそれはあんたも同じだろ。俺の彼女がどんな思いをしたか、あんたにはわからないだろ。
だけどそれを言ったら、話はそこで終わるだろ。誰とも付き合えないじゃないか」「別に付き合わなくていい。わかってほしくもないし、だれのこともわからなくてかまわないさ」
「でも、あんたそういうやつじゃない。他人なんかどうでもいいって人間じゃないじゃん」
(花…ごめん。こんなやつぶちのめしてくれって思ってるよな。かかわるなって思ってるよな。ごめん、花。 だけど……)
このやり取りいいよね。
嵐は、一般的な道徳で「~すべき」だから言ってるわけじゃない。「お前は~だから」「あなたが~ではないから」という理由で話をする。ちゃんと相手を見て話をしてる。本当は会話ってそうあるべきなんかなと思う。
相手の詳細だとか、心の奥底なんてものはわからない。それでも、相手がどういうやつかはなんとなくイメージできる。それは本当とは違うと思うけれど、ふだんはそのイメージに向かって話をしてる。自分がもつそのイメージを伝えるってのは結構大事かもしれない。
みんなでまず「安吾」と「要」がお互いに相手を殺そうとしている関係を解決する
この後の展開ではまず「安吾」が「花」をレ○プしようとしたことはいったん横において、「安吾」と「要」の関係を先に解決しに行く。
この二人の関係に限って言うならば「安吾」が被害者であったことは明確である。「嵐」は「安吾」が「要」を殺そうとするのも止めるし、逆に、「安吾」が過去にやってきたことからもかばう。自分の彼女をレ○プしようとした相手であることを知っていてなお、彼女の目の前でかばう。
「花」は当然悲しい気持ちになってるがそれを受け入れる。いったんこらえることで、まず「安吾」が自分に対して言い訳できる問題をなくさせる。
青田嵐が一番優先するのは、彼女をこれ以上傷つけさせないこと。安吾を許すということではない。
許しは「自己正当化」ではなく「自己肯定」のために - この夜が明けるまであと百万の祈り
悪行がなされなかったかのように振る舞うことは赦しとは違う。出来事を忘れることは赦しとは違う。容認や弁護も赦しとは違う。逆に赦しとは、「そのような不当な行為は間違っていると認め、再び繰り返すべきでないとすること」である
とはいえ、周りの人間は「安吾」はたしかに気の毒であるとはいっても「花」の彼氏である「嵐」が、一時的にでも「安吾」をかばい、守ろうとすることに驚く。もちろん彼は「安吾」を許したわけじゃない。ただそれ以上に大事なことがあって、それを間違えなかっただけだ。
「嵐くん。花さんがきいているのにまともに安吾をかばうんだな。ちょっとびっくりした」
「安吾はのたうちまわるほど苦しんできた。それを知ってる。だから、百舌さんを止めたかった。これ以上安吾を傷つけてほしくなかった。
そして、安吾にも、これ以上花を傷つけてほしくない。
花。ごめんな。いつかちゃんと心から安吾に謝らせるから。花が会いたくないって言うなら、会わずにできる方法を考える。花、あいつがどれだけつらい目にあっても、その部分だけは絶対に俺は許さないから」
「嵐」の中では、上のこんがらがってるように見えることは全部別々の話で、全部独立してる。どれかの行為が「あの人もつらいことがあったから」といって相殺されるような話ではない。
「つらいこと」はつらいことでかわいそうだと受け止める。その解決のため手助けもできる。でも、それで何か悪いことをしたときにその罪が減じられるなんてことはない。悪いことをしたことをしたら、そのことは償わせなければいけない。
なにより、最も優先すべきは彼女である花の感情を守ること、というわけだ。
花から安吾への気持ち
安吾は、謝らないだろうな……
それに、たとえごめんって言われても、あの嫌悪や恐怖は消えない。
でもそれは、安吾がうちの父にされたことが、彼の中で消えないのと同じかもしれない。
もともと、許すことができる話ではない。傷は消えない。そのうえで、自分がどうしたいか、ということなんだろう。
一度「殺人」という罪を犯した人間は、この世に生きていても許されるのか
殺人でなくとも、「レ○プ」でも「虐待」でも。
それがたとえどんな事情であれ、取り返しのつかないことをやった人。
割とまかり通っちゃってるけれど、そういう人をどう扱うか。
排除してしまえるなら排除してしまいたい。そうしたほうが楽だと思うんじゃないかな。
それでもなお受け入れるとしたならば、それはどういうときで、どういう考えに基づくのか。
このテーマに関して興味ある人は「死刑囚042」とか「聖☆高校生」が超傑作なのでぜひ読んでほしいです。