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005 「ペリリュー 楽園のゲルニカ」 戦場における死というものは、実に汚らしくおぞましく無残な悪臭を放つ

DMでご紹介いただきました。DMの文面については非公開希望ということでしたので、代わりに作者インタビューの記事を紹介しておきます。

「ペリリュー -楽園のゲルニカ-」武田一義×ゆうきまさみ対談 (2/3) - コミックナタリー 特集・インタビュー

南の島の“楽園”感と戦争の悲惨さを、対比にしたかったんです。それと主人公をマンガ家志望にすると決めた時点で、なにか絵に関するものを入れたいな、と。あとは戦争の悲惨さをにじませたかったんです。そう考えたときに、ピカソの「ゲルニカ」が浮かびました。最初は「天国の島のゲルニカ」というタイトルで考えていたんですけど、それだとなんのマンガなのかわかりづらいと思いまして。

兵隊のなかにも「逃げたい」という、普通の人だったら当たり前に抱くような感情があったことは、隠さずに描こうと思いました。実際に投降できたかどうかは別として。

紹介していただいてもうしわけないのですがこの作品については、もう正直「読んでくださいお願いします」としか言いようがないですね。

漫画で描く ペリリュー島の戦い|けさのクローズアップ|NHKニュース おはよう日本

過酷な実態を描くに当たり、武田さんが意識したのは、読者が実際に戦場にいる感覚になれることでした。
気弱な主人公・田丸一等兵の目を通じて見えてくる、等身大の戦争。
“死にたくない、死にたくない、死にたくない”
自分が登場させた人物が本当にその場にいたら“どういう行動をするだろうか”“どういう判断をするだろうか”ということを、ずっと考え続ける、想像し続けるということが必要なことだと思う。


ちなみにペリリュー島の戦いは「ザ・パシフィック」(全10話)においても登場し、他の島攻略が各一話で済まされる中、このペリリュー島は数話にまたがるほど詳細に描かれています。

アメリカ兵側からの視点も合わせてみると、より日本兵の異常さが際立ってきます。
アメリカ兵からしても過酷な戦いでは有るのは同じだけれど、全然雰囲気が違います。

ペリリュー島では99%の兵士が死亡

Wikipediaの情報ですが、

・戦闘期間は2ヶ月半。(1944年9月15日 - 11月27日)
・日本軍の戦死者 10,695名。捕虜 202名。最後まで戦って生き残った者34名
アメリカ軍の戦死者 2,336名。戦傷者 8,450名。

海空で圧倒的優勢であり、莫大な量の艦砲射撃やナパーム弾を含む爆撃と4倍にもなる兵力差であったにも拘わらず、日本兵1名の戦死ごとにアメリカ兵1名の死傷と1,589発の重火器及び小火器の弾薬を要した。この戦いは数か月後には硫黄島と沖縄での、日本軍の見事に指揮された防御戦術に繋がる事となった。

ちなみに、後になって振り返ると、戦術的にはそれほど重要ではなく、
アメリカはアメリカでそこまでこの島を必死になって攻略する必要はなかったそうです。
兵力差は歴然で、2~3日で、かつ小さい被害で落せると思ったからこその進路だったんですね。
必死で守った兵士も、攻撃したアメリカ兵たちも、ともに報われないというのさらに
この戦いでの悲劇性を高めていますね。

もちろん、そんなことは一介の兵士にはわかるはずもないし
わかっていたとしても、もう途中からはどうでもよくなってしまっています。
上からは最後まで「この島を最後まで死守せよ、投降も玉砕は認めない」という司令が継続されていました。

ひどすぎる。


「死にたくない」と思えるうちはまだマシという地獄

言葉では伝わらないと思うのでとにかくマンガを読んでみてもらいたいところですが。

主人公は功績官といって、要するに記録係なのだけれど、
そういう状況をつぶさに見て、何度も何度も泣き続ける。
怒ったり反抗する気力はもうとっくになくなっているけれど、
それでも「こんなのは嫌だ」「みんなかわいそうだ」と言い続ける。

この視線の存在が唯一の救いになっている作品だと思います。

それ以外は、本当に何一つ救いがない。

お国を守るために死ぬ?
少なくとも、ここのみんなは水をのむために死んだ。
死にそうなくらいのどがかわいて、でも水がなくて。水を手に入れるために死んだ。

こんなのあんまりだ みんな、かわいそう。
みんなみんな。きっとあの時自分がこんなひどい死に方をするなんておもわなかったはず

不衛生な場所で食料もなく戦い続け、
水のために死に、
食料のために敵ではなく仲間を殺し
もはや何のために戦ってるのかなどわからず
投降どころか自死(玉砕)という最後の手段さえ許されず、
徹底的に人間としての尊厳を汚される地獄。

正視に耐えない悲惨さの連続です。
かわいいキャラと美しい背景が余計にその悲惨さを際立てる。

幼きころより、覚悟有る武人の死は、美しいものだと思っていた。
だが、今間近に来て知る。
死というものは、実に汚らしくおぞましく無残な悪臭を放つ。
ならば、言葉だけは美しく 「サクラ サクラ」

戦って死にたくないと思えるうちはまだマシで。
実際は味方すら信じられず、自分を人たらしめる一線は早々に踏み越えてしまい
どの生き方が一番ましかを選ぶことしか許されなくなっていき

餓死よりはいい、と一人は腐った米を食べ
ひとりは雑草や木の根を食べて
それぞれ下痢で脱水症状を起こして半日持たなかった。
魚を捕ると言って海に向かった二人は、米兵に見つかって帰ってこなかった。

しまいにはただ一刻も早い死を願い。
上長から死を許されたときに、何の恨み言を言うでもなく
ただ安堵の声をあげるところまで追い詰められる。


この作品は、主人公が生き残って、国に帰って世界がどれだけ変わって見えたかまで描くことになるらしい

この作品は、今の時点ではもうほんとに何もいえることがないです。ただただ見ていて悲しい、虚しい、ひどいということしかない。正直読むのつらいです。

ただ、この作品は、主人公が生き残って、国に帰って世界がどれだけ変わって見えたかまで描くことになるらしいです。

戦場を体験した人間が国に帰ってきたときに感じたことまで描いて、ようやく戦場のことを描ききったという形になる。
そこがその兵たちにどう見えるのか、どう感じるのかということを描いて、物語は終わりにしたい

この部分は是非読みたいと思います。作者様は完結までぜひ頑張ってください。

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 5 (ヤングアニマルコミックス)

武田一義,平塚柾緒(太平洋戦争研究会) 白泉社 2018-07-27
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