直接紹介されたわけじゃないけれど、シロクマさんの記事を見て、あ、これは「私見に行かんとあかんやつや」と思って見てきました。ちなみに、原作もアニメも映画を見るまでは一切触れていませんでしたが、全く問題ありません。というか、むしろTVアニメ見てない人こそ見てほしいです。
うん、これはすごい作品だと思います。見た人が「この作品が誰にも知られないのはもったいない」と騒ぐ理由もわかる。 実際、私が見に行った回は、私含めて10人くらいしか客がいませんでしたが、子供はガチ泣きしていたし、近くに座っていた女性はめっちゃ鼻すすってました。私も、元々涙もろいこともあり例のシーンではボロボロ涙出ました。
特に演出が素晴らしく、これは映画館で見ないと効果が体感できないものもいくつかあります。
なので、可能であれば映画館で見てほしいです。
ちなみに、私は家に帰ってから1話~3話を確認しました。そこまで見た範囲では、映画版は別に原作やアニメと設定が違うわけじゃありません。登場人物もエピソードも殆ど変わらないようです。 にもかかわらず、なぜ映画版だけ大きく騒ぐ人がいたのか。
それはやはり話の構成と演出が非常に丁寧で、かつ効果的だからだと思います。
この作品は、あるワンシーンのために作られているといっても過言ではない。
それは、主人公であるオッコちゃんが、ずっと胸のうちに溜め込み続けてきた感情を吐き出すシーンです。このシーンに向けて一つ一つエピソードを積み上げていって、そのシーンで今まで積み上げてきたものを一気に崩す。その落差にガツンとやられてしまう。
そのワンシーンに至るまではいくつかのエピソードが連なるわけですが、各エピソードは単体で見ればそこまで特筆すべきものではありません。「このはな奇譚」みたいな感じで、どれもいい話だけど少し退屈なくらいでした。
ただし、その端々に「おや?」と思わされるシーンがちょくちょく挟まります。オッコちゃんの「危ういところ」が描かれています。その都度見ているこちらも、ちょっとオッコちゃんが心配になっています。
さらにワンシーンの直前になると、不穏な空気が漂いだします。このままではやばいぞ、って気分になってきます。
そこまでのエピソードではオッコちゃんは本当に健気で自分の気持ちよりも他人を気遣うようなところを見せたり、それによって逆に大人の人たちから可愛がられたりして、いろんな状況を乗り越えてきています。そこまで積み重ねられた心温まるエピソードのおかげで「見ないフリ」「気づかないフリ」をさせられてしまうんですね。なんとなく「オッコちゃんなら大丈夫だろう」って油断させられてしまう。
本当に、決定的なシーンの、本当に直前の直前まで、主人公のオッコちゃんはお客さん思いで、仕事にも全力で取り組んでいて、心からの笑顔なんですよね。オッコちゃんが自分を騙してきたように、視聴者である私もまた、オッコちゃんに騙されて、さらに自分で自分をごまかしそうになっていました。
次の瞬間に、いきなり決定的なシーンがやってきます。「オッコちゃん、実は全然大丈夫じゃなかった」ことが突きつけられるわけです。
事故のときから止めていた感情が一気にオッコちゃんを襲う演出がえげつなく、そして素晴らしい
オッコちゃんは、両親の死に対する喪失感と向き合いきれていないだけだった。むしろ、だからこそいままで一心不乱に自分の気持ちを置いて、他人を助けることに夢中になってきた。*1。しかし、いくらごまかし続けてきたとはいえ、覚悟ができていない状況で一気に喪失感が襲いかかってくる展開はエグい。
このときの演出がまた凄い。あまりに強い感情が一気におしよせてくることによって、世界は無音になり、視界も歪み、息もできなくなってしまう。 以前に一度トラウマが刺激され、そこから回復したときには、側にいた大人が暗い気持ちをかき消すような陽気なBGMが流してくれたけれど、今度は完全に無音。他に気を紛らわせてくれるものはない。そして、助けになってくれた大人も今回は側にいない。
このときのオッコちゃんの悲しみや孤独感はダイレクトにこっちにも伝わってきたし、なんとなくオッコちゃんなら大丈夫だろうと思っていたことに対して申し訳無さみたいな気持ちもあって心がグチャグチャにされます。さらに畳み掛けるかのように続く次のシーンで、オッコちゃんは初めて大声で泣き叫びながら、助けを求める。一人にしないでと泣き叫ぶ。なのに、今まで一緒だった幽霊たちは彼女たちの前に姿を表すことすらできない。何もできずに無力さを噛み締めている描写が続く。 幽霊たちは、今までオッコちゃんのそばにいて、孤独を慰めることができていたのに、一番肝心なときにオッッコちゃんの側にいてあげることができないどころか、誰よりも喪失を恐れている彼女に、さらに追い打ちの喪失感を与えてしまっている。 この「何もできないどころか、自分の存在が、大切な彼女を苦しめている」ことのつらさに涙をこらえきれなくなっている幽霊たちの描写が一番きつかった。
その後、いろいろあってオッコちゃんは立ち直ることができるのだけれど、さすがにここは見てのお楽しみということで。とにかく、この胸を抉るシーンと、それに向けての積み重ねが本当に素晴らしかった。その後、オッコちゃんは一皮むけて、「オッコちゃん」ではなくて「若おかみ」として成長していきます。
私はこういう決定的なシーンに向けて話がきれいに積み重なってる作品が本当に好きで、私はこの作品を見て「TRUE TEARS」の湯浅比呂美を思い出しました。その時の感想はこちらの本に寄稿させていただいたのでよろしければこちらもどうぞ。
アニバタ Vol.5 [特集]P.A.WORKS 2作品各論編 | ||||
|
私はこのワンシーンに心揺さぶられる体験だけでも金を払って見に行く価値十分あると思いますが、他にも鯉のぼりの描写とか、ショッピングモールでのきせかえせシーンとか、ラストシーンの美しさとか、スタッフロールでちょっと描かれてる祖母と母親の関係とかもう見どころたくさんあって本当に素晴らしかった。
ちなみに、オッコちゃんは主人公として本当に素晴らしいけれど、他のキャラもみんないい人たちばかりでほんとに好き。特に私はライバル的存在である秋野真月ちゃんがめっちゃ好きです。アニメ版が悪いわけじゃないんだけど、映画版の真月のキャラデザほんとに素晴らしいと思う。 映画版においては、その独特な演出もあって「温泉街の神様」みたいな位置づけだと思うんだけれど、多分これ原作やアニメでは、もっと人間っぽくて親しみやすいキャラなんだろうな。(映画中でも少しだけ人間アピールあるけど)
映画本当に素晴らしかったので、アニメ版の方も見てみたくなりました。
小説 若おかみは小学生! 劇場版 (講談社文庫) | ||||
|
*1:そりゃまぁ、誰もがfateのエミヤシロウみたいにぶっ壊れてたらおかしいよね