「たった一人で援軍にやってきた男は、多くの仲間を得て、万を超える敵軍を撃退した」
もうこのキャッチコピー格好良すぎるんですが。
さらにいうと、一人の女を救うため、お互いが一挺ずつもつ銃をめぐって
ドイツという日本から遠く離れた場所で殺しあうかつての友にして不俱戴天の敵という構図。
これはすごい熱い! シグルイ好きな人なら絶対すきだと思うわこれ。
また、「ドリフターズ」でも存分に描写されていますが、この当時の「100年以上常に戦争をしていた」日本人の異質ぶりはこの作品でも健在ですね。
「魂が戦いに特化している」この当時の日本人ほんとにやべえ!
尽と読むんだ。
意味は自分の心と身体を誰かのために投げ出すことだ
信と書かれています。
意味は戒めでございます。
この世に生きる上は決して心許してはならぬ、との。
つまりこの銃だけを信じよ、ほかの一切を信じるな。
というわけで、舞台設定知らなくてもめっちゃ熱い物語なのですが、
宗教的な話も出てくるので、そのあたりもあわせて楽しめば「ヴィンランド・サガ」に近いたのしさも同時に味わえる作品だと思います。
「初めて会った時、誰もが平等に生きられるところといったな。ユートピアだったか。どうしたらそんなことができるんだ。神と何か関係があるのか」
「神は無償の愛で人間を平等に創られたわ。正しくいきさえすればみんなが平等になるはず」
三十年戦争の簡単なおさらい
舞台は1620年 ドイツ南西部プファルツ選帝侯領からスタート。
主人公はオランダを経由してプファルツ選帝侯側陣営に属し、スペインと闘います。
と言われてもこれだけだとなんのこっちゃと思うかもしれないので簡単に三十年戦争序盤のおさらいをしておきましょう。
三十年戦争は前提として、宗教対立とは別に以下の4つの軸の対立があります。
①フランスとハプスブルク家(神聖ローマ帝国、ネーデルラント、スペイン)の戦い
②オランダ(ネーデルラント北部)のスペインからの独立
③スウェーデンとデンマークのバルト海の覇権争い
④ハプスブルク家と神聖ローマ帝国選帝侯を中心とする貴族の権力問題
ここに「宗教改革派と反宗教改革派の対立」が導火線となって戦争につながったという理解です。
1546年 シュマルカルデン戦争
1555年 アウクスブルク宗教平和令(カトリックとルター派は領邦ごとに宗教の自由、カルヴァン派やツヴィングリ派は×)
1570年~ カトリック派の巻き返しで反宗教改革が行われる
1572年 サンバルテルミの虐殺(フランスでカルヴァン派が虐殺)
1598年 ナントの王令(ユグノーからカトリックに改宗して即位したアンリ4世が、フランスで条件付き信仰の自由を認める。ユグノー戦争終了。)
17世紀初めのドイツの勢力図
・カトリック :ラインラントとドナウ川南方(オーストリアとバイエルンが中心)→1609年 カトリック連盟(リーガ)。スペインが支持。
・ルター派 :北部 →1608年 プファルツ選帝侯フリードリヒ4世を中心に新教同盟(ユニオン)。オランダも協力。
・カルヴァン派:中西部、スイス、ネーデルラントなど
というわけで、ドイツ国内でこの「カトリック連盟」と、「新教同盟」に分かれ、
この対立に、世俗の権力が自分の立場に都合がよいように参入してくる形になりました。
なんせ、フランスはカトリック優位のはずなのに、ハプスブルク家への対抗からこの戦争では新教側で参戦したりしてます。
三十年戦争第一波 ボヘミア・プファルツ戦争はドイツ国内における「カトリック&スペイン」VS「新教&オランダ」
んで、イサックの物語で語られるのは三十年戦争の第一シーズンである「ボヘミア・プファルツ戦争」ですね。
ボヘミアはフス戦争が起きたことでも知られる通り新教勢力が非常に強いところです。
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にも拘わらず、熱心なカトリックであるフェルディナント2世が新教を弾圧しようとしたためフス戦争の時と同じように「プラハ窓外投擲事件」が起き、フェルディナント2世に対抗する形で、プファルツ選帝侯フリードリヒ5世が即位して戦争の開始になったというところも共通です。
フェルディナント2世側:カトリック。リーガ側。スペイン。ほかに国内ではバイエルンとザクセン。
フリードリヒ5世側 :プロテスタント。ユニオン側。オランダやイングランド、フランス。
はじまりがフス戦争と同じ構図であることを理解しておけば結末も同じです。カトリック側が勝利して新教側が辛酸を舐めることになります。ボヘミアはこの後ハプスブルク家により支配され、強制的なカトリック化が行われる悲劇が起きます。ボヘミアは二度蹂躙されることになるわけですね。
その代わり、フス戦争の時と違って、この戦争ではそのあとに諸国が介入して血みどろの争いとなり、人口の3分の1が減少するまで殺しあうことになるのです。
たぶんこの作品を楽しむための知識はこれ以上はいらないと思います。