「オタク」というテーマにおける歴史書。めちゃくちゃ面白かった。
「銃・病原菌・鉄」のような読みごたえがある傑作だと思う。
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
- 作者:ジャレド・ダイアモンド
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2012/02/02
- メディア: 文庫
ネタの取れ高が多すぎて何を紹介していいのか悩むレベル。
オタクにとっては「我々がどこからきてどこへ行くのか」を考える際にとても重要になる作品
買ったのは大分前なのだけれど、
その時は「自分が求めてる内容とちょっと違う……」と思って自分が知ってる範囲のところだけ読んで満足してた。
なんせこの本、私が知ってるエロゲが出てくるのはようやく半分を超えたあたりからなのである。
それまでは1980年代のPC(当時はマイコンと呼ばれていた)黎明期、
いやその前からずっとさかのぼって「オタク」誕生からの歴史を語っているのだ。
当時の私はそのあたりに全く興味がなかった。
いやいやいや。この部分こそが面白いんじゃないかと今なら言える。
コンシューマ向けゲームハード戦争の裏側に、もう一つの戦争があった
Youtubeで「ゲームのハードウェア戦争の歴史」みたいな動画はよく人気になると思う。
次々と生み出される新しいハード。優位に立ったものが圧倒言う間に転落し逆に辛酸をなめてきたものが一発逆転する展開。そしてついに自分たちが知っているものが登場して活躍するわくわくできる瞬間。物語として面白いから人気になるのはものすごくわかる。
その裏側で、エロの世界でも同じような戦いが繰り広げられていた。
特にファミコンが発売開始し、1985年にマリオブラザーズが登場してから後PCゲームと家庭用ゲームは明確に分かれていき、独自の道を進んだのだが、それからいろんなものが生まれては消えていった。
みなさんも断片的には知ってることが多いと思う。
①あのDQシリーズの生みの親である堀井雄二がエロゲスレスレの作品を作ってたみたいな話は有名だが他にもハドソン、KOEIなど名だたるゲームメーカーが初期エロゲの黎明期に活躍していたりしたこと。
②「ロリコン」というのは当初は全然意味が違っていたこと。吾妻ひでおが有名だが、それ以外にも当時の「ロリコン向け雑誌」で見いだされた作者としては岡崎京子から藤原カムイまできらぼしのような才能がひしめき合っていたこと。
③VHSとβの争いのように「実写」と「二次絵」の覇権争いが長い間続いていたことや、コンシューマーゲームと違って作りても客もおおらかな時代に、個人製作で様々なジャンルのゲームが多くいろんな実験作が生まれていったが最終的にADVが他を淘汰していくようになっていったこと。
④当時少女の裸に性を感じる存在というのはほとんど認知されておらず、幼児のヌード写真集などがむしろ規制なしで流通していたこと。それが一転してあることをきっかけに「ロリコン」は世間からの強烈なバッシングの対象となり規制の対象となり消滅していったこと。
などなど。
この本は、そういう断片的な知識を、きちんともれなく縦の糸に通してくれている。
歴史って縦の糸と横の糸が合わさってできてるということがはっきりわかんだね
それだけならwikipediaみたいな形式でまとめることも可能だと思うが
この作品は歴史の経糸ではなくさらに歴史の横糸もきちんと通してくれている。
「エロゲ」と「家庭用ゲーム」の関係を並列に並べてみている。
そのおかげで時々両者の間で起きた越境の事例もすんなり理解できる。
両者は完全に分かれたものではなく、地続きではないものの行き来できるものなのだ。
それから「当時の経済状況」や「オタクというものの扱われ方」も意識して話を進めてくれている。
この部分が面白くて、エロゲというのはアングラ的な存在ではあったけれど同時に周辺のオタク分野にもいろんな影響を受けているしその逆に外側から多くの要素を取り入れてきている。そのことをきちんと語ってくれている。本当に素晴らしいと思う。
この本に書かれている内容への理解なくして「オタク」の来し方を語るのは難しい、まであるかもしれない
ちょっと大げさかもしれないけれど、「オタク」というものの理解がより深まるのは事実である。「オタク蔑視やオタク弾圧」というのはいつから始まり、いつピークを迎え、いつごろからオタクが逆襲と言わんばかりに世にでてくるようになったかとかね。
さすがにこの本読んだ上で「オタク差別はなかった」といえる人はいないと思うが、逆に「オタクくんさぁ……」と感じる時もあって、物事はそんなに単純じゃねえなと思う。歴史はよくらせん構造に例えられることがあるけれど、エロゲ業界を通してみる「オタク」たちにもそういう歴史が感じられる。
その場その場ですぐ良しあしを論じるんじゃなくて、物事を「歴史」という大きな流れでとらえる視座を得られる優れものだと思う。
それはそのまま「この後オタクたちはどこへ行くのか」を考えるきっかけにもなると思う。
まじめに論じてる人には申し訳ないが……というか私自身がどっぷり沼に足を突っ込んでいたのが、この本読んでたら今のネットのあーだこーだーが急に色あせててつまんねーって思えるくらいにはこの本は面白かった。
未読の人はぜひ手にとって読んでもらいたい。んで感想共有しようぜー。
- 作者:宮本直毅
- 出版社/メーカー: 総合科学出版
- 発売日: 2017/04/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
せっかくだから他にネタがない時はこの本からちょくちょく面白かったエピソードを紹介していくつもり。
でも、さっきも言った通り断片で理解するんじゃなくて絶対に本で通しで読んだ方が面白いと思うよ。