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「奥田民生になりたいボーイ/出会う男すべて狂わせるガール」 バビロンの曲世愛みたいな破壊の権化に人は勝てないのかな?

昨日読んだ「ボサノヴァ」と同じ渋谷直角さんの作品。正直よくわかんなかったんですがせっかく読んだのでメモ。

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版

  • 作者:渋谷 直角
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

奥田民生に憧れるボーイというタイトルとキャラデザの幼さから若者の話かなと思ってたら主人公は35歳だった

主人公の名前はコーロキ・ユウジくん。35歳。15の時から奥田民生にあこがれを持ち続け、「民生のような編集者」になりたいと思ってきた。

そんな彼は、直前まで家電雑誌の編集者として勤めていたが、急に音楽雑誌「マレ」の編集部に移籍になり、その最初の歓迎会で、あまりの「オシャレ」さにカルチャーショックを受ける。

周りの人間は自分が知らない、若い歌手やオシャレな洋楽、ほかにも写真家や映画などの話をしているのをみて「おれだけ奥田民生とか言ってるの…スゲーダサい感じ…恥ずかしい~っ!!!」と一瞬だけ感じさせられてしまうが、それでもやはり奥田民生を目指すというところだけはブレさせないと違うコーロキだった。


ちなみに、彼があこがれる奥田民生のイメージは以下の通りらしい。

ダラっとしつつ、決めるべきところは決める

「出会う男すべて狂わせるガール」はこの漫画にでてくる女と一緒です。

togetter.com

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)

凪のお暇 1 (A.L.C. DX)




夢を持っていた男が、一人の若い女との出会いから彼の人生は地獄に叩き落される

コーロキは慣れない職場での仕事に悩みつつも、頼りになる編集部の先輩たちに助けられやりがいを感じるようになる。その過程で、「編集長」らに対する信頼も強まっていく。


そんなある日、コーロキはとある雑誌の写真撮影時に出会ったプレスのモデル「天海あかり」に心奪われてしまい
ここからすこしずつ状況がおかしくなっていく……。


最初は普通に接していたのだが、ある日、あかりがDVを受けていることを聞かされたコーロキは、正義感とその場の雰囲気に流されて「僕に貴女を守らせてほしい」と彼女に交際を申し込む。

すると、意外なことにあかりはすんなりと受け入れ、二人は交際することになる。ありえないような幸運に、完全に浮かれてしまうコーロキだった。

完全にあかりの一つ一つのしぐさに振り回され続け、自分の小ささを思い知るコーロキ

あかりに受け入れられたことで調子に乗ったコーロキは社内の人間にそれを自慢する。すると、先輩のヨシミズがあかりの彼氏であったことがわかって社内関係は気まずくなってしまう。

さらに、コーロキ自身最初は高揚感が支配していたが、少し落ち着いてくると彼女と自分が釣り合わないという自覚があったから自信がなくて不安でいっぱいになる。

これは考えちゃいけないけど。
すげーゲスい考えだけど。
オレたちの始まりが、あまりに…上手くいきすぎて…
誰かと同じことをしてる(させられてる)んじゃないかって不安……

一日中彼女のありとあらゆるSNSを監視し続け、心が休まらない時を過ごして消耗し、そして不安からあかりに怒りをぶつけてきつく当たってしまう。彼女が不機嫌になって電話を切るとパニックになり、仕事中も彼女のこと以外考えられなくなり、なんとか都合をつけて彼女に会おうとしてストーカーまがいのこともしてしまう。

こんな美人でも…民生だったら余裕なのかな。
デーンと構えてさ。
なんか…オレ…自分の器の小ささばかり気になってイヤになるわ…

ところで、彼女と会った時、彼女のカバンの中を見ると「ケニー・ランキンのCD」があった。「あかり、こんなのを聞くのか?」と疑問に思うがその時はあかりとあえた喜びであまり気にしなかった。

こだわることの不自由さ

すっかりあかりに主導権を握られてしまったコーロキ。
あかりに合わせるために常にご機嫌を取るようになってしまう。

2004年のアルバム発売に合わせた民生のインタビュー記事を読んだのが印象に残っている。
「自信の音楽を(もっとできたかもしれないが)これはこれでいいと思うようになった」。
さらに「めしも別にまずくても良い」「いいか、まずい店でもと思っている」などという。
当時のコーロキにはよくわからなかった。
「こだわることの不自由さ」を民生は知っていたのだ!だが、コーロキはまだ……

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コーロキは今までも雑誌編集の仕事をしていたが、きちっと〆切りを守って仕事をすることが当たり前の世界に生きてきた。「きちんとしていること」にとてもこだわっていた。しかし、「マレ」という雑誌ではそれよりも大事なことがあるという。それがなかなかつかめず自信を失っていた。

また、あかりとの関係では「彼女に嫌われたくない」という意識が前に出すぎてしまい、彼女がちょっと拗ねたような態度をとるとすぐにへつらってしまう。その態度が彼女を呆れさせてしまうことになり、から回ってしまう。

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仕事でも恋愛でも迷うばかりで何一つ自信を持てず、そんな自分を情けないと卑下しつつ「どんな場所でもいつも通り歌って弾ければそれでいい」という境地に至っていた奥田民生のことを思うのだった。

なんとか自信を得ようとして、まずは仕事を頑張るとなんだかちょっと自信がでてあかりとの関係もうまくいき出す……と思いきや

https://www.youtube.com/watch?v=Qy2c0POujeY

しかし、仕事もうまくいって、あかりとの関係もうまくいくなんてそんな美味しい話はない。

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仕事を全力で頑張った結果、仕事の方はうまく行ったが、あかりからは別れを告げられてしまう。

仕事中は…平気だ。楽しいしやりがいもある。一瞬だけあかりのことを考えてしまうけれど、でも35だしそこはコントロールできる。だが、仕事が終わると……すさまじい孤独感と虚無感が襲う…!つらい…!家に帰るとますます鬱々とするから今日もどこかへ飲みに行く。


奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版

奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール 完全版

  • 作者:渋谷 直角
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
ここまでの展開はとっても好きです。


ここから先の展開は正直あんまり楽しめなかった……というか白けた

ここから先は、なんか今までの積み重ねを全部投げ捨てるような展開になる。

あかりに懸想している男は3人いて、3人ともそれぞれ自分だけはあかりのことを理解できていると思っていたが、まったくの見当違い。あかりを一番近いところまで理解していたのは、「こいつはやべー」と言って近寄らないことを選んだカメラマンであり、彼女と付き合っていた3人は全員論外だった。

あかりはあかりで、何かそれっぽいことをいうが、この言葉すら虚構。嘘。深く考えて、今までの人生につじつまが合うように発されたものではない。真に受けても無駄。

私は、理解なんて要らない。理解してほしいとも思っていない。そもそも、他人が他人を理解できるなんて思えない。みんな納得したいだけ。理解なんてしてない。納得できないからって怒ったり責めたりする。
なんでみんなそんなに他人に干渉しようとするの?私は理解より妥協が欲しい。妥協するだけで、人間関係なんて大したことじゃなくなるのに。わかんないでしょ?嫌でしょ?でも、私はそうやって生きてきたの。それは変えられない!

あかりのこうした言い分や態度は、実際はただ面倒くさいところから逃げて、その場をしのぐための駆け引きに過ぎない。

実際は被害者ムーブをとることで相手をコントロールしてきただけ。あかりが最初に男を受け入れて深入りさせたあとでそういう態度をとるから、ひっかかった男がコントロールされてきただけ。
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とか。彼女は彼女なりにもがいていたけれど、それを見せないように、自分にすら「妥協だ」と言い聞かせようとしてたのだ。彼女もまた「奥田民生」のように生きようとしていた人間なのかもしれない、とか。 適当に感想を書くことはできるかもしれないけれど。


ここの部分は正直読んでてうんざりするだけだった。今まで丁寧に描いてたものをすごい雑に積み木崩しされたみたいで、いち読者としてはため息しか出なかった。

一応、エピローグで、このコーロキは前作の「口の上手い売れっ子ライター/編集者に仕事も女もぜんぶ持っていかれる漫画(MASH UP)」の「口の上手い売れっ子ライター」と同一人物だったということになっている

自分にうそをつくわけじゃない。わかってもらおうと思わずにこういえば相手はこう感じるだろうという意識で話しているだけだ。自分を無理して変える必要はない。相手のウケる印象を変えればいい。その方が人生は楽だ。

それなりにいろいろと言及したいような終わり方をしてくれて入るのだけれど、エピローグ前のエピソードが好きじゃないし、正直この設定要る?としか思わなかった。そういえば前作のキャラいろいろ出してましたね、、、ふーんって感じ。

https://www.youtube.com/watch?v=O4WTn-fURGk


最後で急に白けた気分になってるけれど、逆に言えば、私10話まではすごく楽しみながら読んでたんだなーって思った。奥田民生の人となりも曲も全然知らないけれど、なんか奥田民生は格好いいなと思ったし、奥田民生の曲は聞きたくなった。




人が丁寧に積み重ねてきた日常の重みが一人の女に敗北する話という理不尽さを楽しめばよかったのかな?

ストーリーとしては、結局恋愛要素が大事なところを持って言っちゃったけど本当は人生の一コマ一コマに奥田民生がある人生とか、おしゃれがテーマの雑誌を作ることに関する作者の語りの部分が面白い作品だと思う。

元々コーロキはおしゃれなものに無縁な生活を送っていた。だから本人もどちらかというとオシャレについて否定的な人間だった。しかしマレというライフスタイル誌に移ってからは考え方が変わってくる。その過程で「文明否定論者」や「オシャレ不要論者」の声がなげかけられ、グルグル考えながらすこしずつ前に進んでいく。

新しい靴を履いて外出るとき気分いいじゃん?
ほしかった家具が届いたらテンション上がるじゃん?
そーゆう日常の喜びとか幸せはスタイル関係ないと思うんだよなー。
リアルだとか本質だとかいうけどさ、幸せな気持ちにさせることだって十分リアルで本質だと思うよ。

まあ問題は、そんな心意気語ったところで、ああいう人は雑誌買っちゃくれないってことだな。
やっぱり編集長の言うように、丁寧に作っていくしかないんだよな~。

こうやって丁寧に積み重ねていくことの大切さを知っている人たちを「天海あかり」というモンスターがすべて破壊していくカタルシスがこの作品の持ち味なんだろうなと思う。この作品だと、コーロキが見てよいと感じていたものは、すべて虚構だったという扱いにされてしまう。そういう意味でいうとこの作品って「バビロン」っぽいよね。「天海あかり」という神のような立ち位置からの視点でこの作品を読むと、男たちはなんて愚かで小さな矮小な生き物なんだろうって感じになりそう(笑)

www.tyoshiki.com

そのあたりが楽しい人はこの作品はいい作品なのかもしれない。


でも、私は「なんじゃそりゃ……」って思ってしまった。


別にひっくり返す物語が悪いっていうわけじゃない。でも、そのひっくり返す力に全然説得力がない。そっちの展開より今までの展開をそのまま続けてくれた方がよほど面白かったなと感じた。……あれだ、もしドラの終盤で感じた白々しさに似た感触を覚えた



私は10話あたりまでの丁寧な話が好きだったから、最後の投げやりにしか思えない展開は正直全然好きじゃないです。




追記 読むなら完全版を読みましょう!!完全版の方を読めばかなり納得できる作品のような気がします

上の感想は途中からの内容について否定的ですがこれは2015年に出たオリジナル版の感想です。2017年にかなりの分量で加筆がされた完全版が出ているようです。これを読むと少し印象が変わりますね。 

以下の部分はかなりの分量ですが、完全版にしかない内容となっています。

奥田民生の裏切りと死

コーロキは真実を尊重する人間です。同時に、自分の真実の姿をウソ偽りなく伝えることが、人として大事である、とも思っています。なぜなら、コーロキの人生の師である奥田民生は、天才ミュージシャンでありながら、プライベートを隠しつつきらびやかに格好をつけたスターではなく、常に気取らない自然体をファンの前にさらしているからです。


①いろいろあって、コーロキがあかりと最後に触れ合った時に、コーロキはせめて真実の姿を教えてくれと懇願するのですが、あかりは真実の姿などない、と突き放します。コーロキが真実のあかりだと思い込んでいたものは、コーロキが自分で作り上げたイメージでしかなかったのでした。あかりは巧妙に男心をくすぐる言動によって、コーロキをはじめその他の男たちそれぞれに、自分が理想の女性だというイメージを、故意に植え付けていたのです。「あなたの思うわたしが本当のわたし」と宣言するあかりは、「あなたが偽物のわたしを真実と思い込んでいるのは、そうなるようにウソをついていたから」と告白しているのです。他人に対して自分をいつわることは、「真実を伝えることこそ人として重要」と考えるコーロキにとっては、裏切りに他なりません。しかし、自分の真実を他人に伝える必要を感じていないあかりには、日常生活上のちょっとした手間に過ぎないのです。


②その時はただ呆然とするコーロキでしたが、編集長との面会の際に転機が訪れます。コーロキはその時初めて「人間には他者の真実を知ることはできない。つまるところ真実など存在せず、受け手のイメージだけがすべてだ」という、かつての自分なら想像もしなかった考えを、静かに受け入れたように思います。


マレ編集部に異動になってから起こったツイッターでの炎上や、旧友とのいさかい、愛読者以外からの冷めた目線、いずれもコーロキの真実が他者に理解されなかった故の出来事です。しかし、あかりの例を挙げるまでもなく、他者の真実を理解できていなかったのはコーロキも同じです。


③あかりだけでなく、奥田民生すらその例外ではありません。数々のインタビュー記事では、自分のパブリックイメージを操作するために自分をいつわっていたことを奥田民生自身が暴露しています。コーロキが奥田民生にあらかじめ裏切られていたことに気付いたとき、人生の師であった奥田民生は死んだのでしょう。剽窃すらものともしない功利的な売れっ子編集者へと変貌したコーロキは、ある時、かつてのパッとしない自分の姿を幻視します。その顔を苦悶にゆがませるのは、かつて愛した二人の人物を共に失った悲嘆ではないでしょうか。

③についてはオリジナル版のp196~p197にもありますね。ただ、①と②がないのでエンディングはかなり突飛な印象を受けるし、そもそもあかりという肝心かなめのキャラクターがやたらとしょぼく見えてしまいました。

完全版の方を読めば、それなりに納得できる作品になっているような気がします。私はこれを読んで不満点がかなり解消されました。