今DMM電子書籍で京極夏彦の百鬼夜行シリーズ(京極堂が出てくる作品)のコミカライズ版が30%還元セールをやっているのでさっそく購入して読みました。
シリーズとしては「姑獲鳥の夏」→「魍魎の匣」→「狂骨の夢」→「絡新婦の理」→「鉄鼠の檻」となっていますが
個人的にはこの「狂骨の夢」が一番よくわからん作品であり、正直原作の中盤を全然覚えてなかったので、漫画で読み返せるのはとてもありがたいですね。
忘れても思い返せるように整理してまとめておきたいと思います。
「狂骨の夢」作中で起きる事件
この作品で起きている殺人事件は主に4つです。
宇田川崇殺人事件 | 犯人は宇田川朱美? |
二子山集団自決事件 | 11名全員が鴨田酒造の関係者? |
金色髑髏事件 | 謎の狂信集団が犯人か? |
逗子湾生首殺人事件 | 牧師の白丘亮一が容疑者? |
このすべての事件に「髑髏」が絡んでおり、これらは独立しているように見えて、関係者がすべて繋がっています。
この事件は、金色髑髏事件も、逗子湾生首事件も、八年前の兵役忌避者殺人事件も朱美さんの家族が焼死した事件も、各地を練り歩く謎の神主も、全部つながっているんだ。
「魍魎の匣」の方が、同じ事件と思いきや4つの事件すべてがバラバラだったのと対照的に、「狂骨の夢」の事件はすべてがつながっているんですね。
全部つながっているからこそ、逆に切り分けることができず理解が難しい。
百鬼夜行シリーズはどの作品も情報量が多いのですが、特に本作品がわかりにくいと感じるのは、すべてがつながりすぎているからです。
5~7くらいまでなら関連づいている方が覚えやすいこともあるのですが、この作品のように関連項目が多すぎると頭の中に入りづらいんですね……。
私は普段であればマンガ1冊読むのにだいたい10分くらいで済みますがこの作品の5巻は1時間以上かかりました
この作品で把握しておくべき問題点はざっと挙げただけでこれだけあります。
降籏が29年前に見はじめた髑髏の夢とは何だったのか? | 法界髏の儀式を実際に見た |
白丘が子供の頃見た汚れた神人たちの正体は? | 武御名方の復活を目指す人たち |
椿金丈の「脳髄屋敷」のカラクリは? | 隣の家に誰が住んでいるのかわからない |
宇田川家一家が焼き討ちにあったのはなぜ?犯人は? | 髑髏のことがばれたから。犯人は鴨田周三と鷺宮邦貴 |
鴨田周三の正体は? | 後醍醐天皇の直系(と信じてる人)。汚れた神主とは別 |
宇田川朱美の夫とともに失踪した宗像民江は? | 本来鷺宮邦貴のパートナーになるはずだった生贄 |
佐田申義はなぜ民江に接近した? | 鴨田酒造の人間ならだれでもよかった。父親のために髑髏が欲しかった |
佐田申義はなぜ逃亡した? | 髑髏から薬の材料を手に入れる前に徴兵されたから。民江とともに髑髏を盗んで逃亡 |
逃亡した後の申義はどうなった?① | 逃亡後2日後に髑髏を盗んだままにしようとしたせいで民江に殺された |
逃亡した後の申義はどうなった?② | 通りがかった「神主」に首を切られ、偽の髑髏として鴨田に届けられた |
申義殺害後の民江はどうなった?① | 髑髏を運ぶ途中で朱美とのいざこざで川に落ち、宇田川崇に保護された |
申義殺害後の民江はどうなった?② | 自分を朱美だと思い込んで生きていたが時折過去の記憶に苦しめられた |
高野八重・田川鶴などはなぜ死んだ? | 鴨田一派が行った本尊作りの過酷な儀式の中で命を落とした |
二子山集団自決事件はなぜ起きた? | 7年にも及ぶ儀式が失敗して絶望のあまり死んだ |
申義逃亡後の朱美はどうなった?① | 申義逃亡の咎で憲兵に取り調べを受け、拷問や凌辱を受けた |
申義逃亡後の朱美はどうなった?② | 鴨田家に家を追い出され、民江とのいざこざで川に落ち一柳に保護された |
宇田川が何度も引っ越す理由になった元憲兵は? | 一柳のこと。朱美の依頼で民江を気遣いに来たが怪しまれた |
白丘が拾った髑髏は誰の髑髏? | 儀式失敗後に鷺宮邦貴が投げ捨てた佐田申義の髑髏 |
このあたりの謎をすべてすんなり理解できるかというとかなり難しい。
ここまで理解できてようやく、首なし死体の殺人犯の正体とその動機が判明します。
なるほど確かに全部つながっているのは分かった。とはいえ、いくら何でもつながりすぎているんですね。
ここまでの情報を整理しても、謎が解けた後の中禅寺秋彦が指示する内容は
・復員服の男の身柄の確保
・一柳負債の保護
・宇田川家の井戸の中を確認すること
・白丘亮一にあるものを提出させること
・憑き物落としは「逗子の聖宝院」で行うこと
の5つ。初見では全く情報のつながりが見えず置いてけぼりになります。
そういう意味でも、文章で読むだけだとキツイので、読み返しやすいマンガで読めるというのはものすごくありがたいです。
昔この作品を読んだ人こそ、ぜひコミカライズ版、特に4巻と5巻はお勧めです。

- 作者:志水 アキ
- 発売日: 2013/01/30
- メディア: コミック
逆に、一番重要な宇田川朱美(=宗像民江)が犯した殺人事件については非常にわかりやすいです。
記憶の混濁、特に自分が佐田申義を殺した記憶によって苦しみ
神経衰弱状態になったところに立て続けに「申義の亡霊」が訪れたことで殺人を繰り返すことになったのです。
宗像民江は相貌失認だったため、「軍服を着ている男性」を申義と認識してしまう。
ja.wikipedia.org
だから、軍服を着ている男性が彼女に近づくと無条件で殺すんですね。
宗像民江のもとに最初に訪れたのは兄である宗像賢造でした。
二人目は鷺宮邦貴です。
二度目に邦貴が訪れた際に、民江は邦貴を殺害し、首を切って海に投げ捨てます。
三人目はフータローの矢沢駿六。
宗像賢造が金で雇って復員服を着せて民江を襲わせたところやはり殺害される。
そして最後の四人目の犠牲者が宇田川崇。
まず宗像賢造が宇田川崇を襲って気絶させ、復員服に着替えさせて家に帰らせる。
民江はやはり区別がつかずに殺してしまう。
宗像賢造は、自分が仕組んだのにそれを警察に電話した。
宗像賢造は、民江のことを朱美と勘違いし、民江の復讐と称して民江を追い込んだ
勘違いで妹に殺人を犯させるというどうしようもない人間。この人間が返ってこなければ少なくとも民江は殺人を犯さなかったのではないか?
ただ謎なのは、別に民江は朱美と似ているわけではないはずなのに、なぜ妹を朱美と間違えたのか?ってことですね。
妹は幼い頃に奉公に出たということもあるし、満州に出兵し、シベリア収容所にいたことで8年以上のブランクがあったのは仕方ないとはいえ、自分の妹を全くきづかないなんてことがあるのだろうか?気づかない程度なら妹の敵討ちなどというのはただの鬱憤ばらしの言い訳だったのだろうか?
もしかして、この兄も人の顔をあまり認識できないという状態だったのだろうか?
宇田川崇死亡後にその首を切ったのは一柳朱美の方
というわけで、私にとってはとにかく把握するのが難しいお話でした。でも同じく京極堂が好きな🐸アイコンの友人曰く、むしろこの物語が一番単純だという……。
私も民江みたいになにか人とずれてるんだろうか……といろいろ悩まされるお話でした。
本作品の憑き物落としは「狂骨」(鶴瓶落としとか皿数えの妖怪の原型)
キーワードは
・上下する妖怪
・井中の怨む妖怪
・骸骨の妖怪
の合わせ技になっている。
白丘と降籏の憑き物落とし
このあたりの武御名方とか真言立川流の話(髑髏が本尊)の話の部分が自分の頭の中でメインの殺人事件とつながらず何回読み返してもこの作品が記憶に残らない原因になっています。
僕も、信じればよかったわけか。ただそれだけでよかったんだ。
降籏さん、あんたの見た夢はユングのそれよりさらに無意味な夢だ。
見たままです。解釈する必要はない。
化物語の元ネタですね。 忍野メメは「助けないよ。人は勝手に助かるだけ」といいますが、この作品の場合、京極堂は人を助けはしないが憑き物は落としますし逆に薔薇探偵は「僕が神だ」といって助けたりします。(これは5話目の鉄鼠の檻でも同じ)