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「奈落の羊」 ジェントリフィケーションによって貧困家庭に転落する家庭の子供たち

6月17日追記 
給料の大半が家賃に消えてしまう…日本の住宅政策は大丈夫か? 藤田孝典さん持論 - 弁護士ドットコム
ブコメで「ジェントリフィケーション」についての指摘をしている人がトイアンナさんくらいしかおらず、「東京一極集中がー」というコメントしてる人がおおかったのでリンク張っておきます。




先生は馬鹿な大人だね。「立派な人だから」とか「優しい人だから」とか「子供だから」とか「先生だからとか」。「まさかそんなことをするはずがない」っていっぱい「まさか」を作って、本当は自分が知りたくないこと起きてないことにして目を、つぶりたいんだよね

作品評価★★(おすすめ度★★★★)
お話がご都合すぎてリアリティが薄く感じるしマンガとしての完成度は微妙な気もするけど、題材とかお話の構造はめちゃくちゃ面白かった。これをベースにいろんな作品生まれてほしい。なにより「ジェントリフィケーション」について触れているところが興味深かったので、今回はこれをメインにして紹介しようと思います。

ジェントリフィケーションとは

単なるYoutuberの転落物語かと思いきや、途中から「ジェントリフィケーション」の話が出てきてびっくりした。「囚人リク」という作品で初めて知った概念ですが、この作品では、ジェントリフィケーションによって起きた格差というか天国と地獄の対比がはっきりと描かれます。

都市において比較的貧困な層が多く住む中下層地域(インナーシティなど都心付近の住宅地区)に、再開発や新産業の発展などの理由で比較的豊かな人々が流入し、地域の経済・社会・住民の構成が変化する都市再編現象である。日本語では、高級化、中産階級化、階級浄化などの訳語があてられる。これにより、貧困地域の家賃・地価の相場が上がり、それまで暮らしていた人々が、立ち退きなどによって住居を失ったり、それまでの地域コミュニティが失われたりすることが問題となる

排他的立ち退きとは、家族や友達が立ち退かされてしまった時に、その地域に残った人々が社会的交流を失ったことにより感じる精神的孤立感から発生します。さらに、手の届かないような高級レストランや高級ブティックが流入してきたことによる精神的な孤立感のことでもあります。



ジェントリフィケーションによって、それまで同じ学校に通って仲良くしていたのに天国と地獄に引き裂かれた子供たち

天国側の住人は、自分たちが彼らの貧困の原因だと知らず、地獄に落ちた人たちを見下します。貧困に陥った家庭の子供たちは、何も知らずに突然地獄に叩き落され、尊厳を奪われるわけです。まぁ架空の町の話なのですが、あの「ウシジマくん」ですらような話も出てきます。しかも、学校の先生も、教師の人たちも、そもそも問題を全然認識していないから、苦しんでいる子供たちを助けるどころかむしろ問題視したり軽蔑したりするんですね。

この町は急に都市化が進んだ湾岸地帯で昔からある工場地帯に住む旧住人と、新築タワーマンションに住む住人はなんか育ちが、、、
問題起こすメンバーはいつも同じ。昔からこの地域に住んでいる家の子供達。注意したいのはこっちの子供たちだよ。
攻撃されているのは、だいたい新しく越してきたタワーマンションの子供達。問題児は親同士かばい合うし。
…… だめだめ。何を考えてるの私は。人は平等!生徒はみんな可愛い! 新しい住人と古くからいる住人で育ちのせいとかいってわけちゃうなんてそんな偏見は絶対ダメ。

自分を守ってくれるはずの家庭は崩壊し、親のDVに苦しめられたりする。助けてくれるはずの先生たちもむしろ自分を厄介者だと思って排斥する。学校の外では自分たちを搾取しているヤクザたちの言うとおりにして生きるしかないのに、そのことを知られたら世間からバッシングされるだけで誰も助けてくれない。

www.tyoshiki.com
誰からも見捨てられ排斥され嫌われる地獄側の子供たちは、子供たち同士で団結して秘密を共有しながら弱いところを狙って天国の住人をひとりずつ地獄に引きずりおろす。 そうするしか生きる道がないから。

そうやって、つい十年ほどまでは貧しくも平和だったはずの町に、ぽっかりと「奈落」ができあがる。


実際に、この「奈落」は物語が終わっても解決されることなく残り続けます。まるで「狂死郎2030」みたいですね。



そんな奈落に、二人の主人公が足を踏み入れてしまいます。

主人公1:世間知らずで向こう見ずな底辺大学生Youtuber

幸せな家庭に生きていながら閉塞感を感じ、Youtuber活動で世の中を見返そうとしていたいけ好かない性格の主人公は(「ヒカル」とか「フィッシャーズ」のイメージなのかな?)自己顕示欲から軽い気持ちで浮浪者をネタにしようとして、その地獄に触れてしまいます。意に添わずギャングの世界に取り込まれてしまう「Phantom of the Inferno」の主人公と違ってこちらは自分から首突っ込んでるんだからもう何とも言えない。
私たちが不満を感じている社会というものが、いかに自分たちを保護してくれているか。一切のセーフティーがないこの世の裏側が、いかに身近に存在するか。そういうことを見せてくれます。実際、調子に乗って実名されされたYoutuberとかはそのあと地獄を経験している人いると思う。

少しはつかめてきたか? 常識という巨大ビル群と その最悪の底なし沼との間には薄氷一枚。透けて見えるほど薄い氷があるだけだ 毎日何万人単位で足下の氷が割れて 人生がぶっ壊れる。男女年齢善人悪人関係ない 誰だって突然そこに落ちる可能性がある。地球を想像しろ それが この世界だ 今・・・ここにいて幸せか?落ちたんだよ お前の足下の氷は…砕けた

https://huyukiitoichi.hatenadiary.jp/entry/20090216/1234785295

主人公2:天国側の住人でありながら、地獄側のことを知ってしまった人気小学生Youtuber

もう一人は、同じ学校似通っていた友達の様子が変わってしまったことを察した小学生Youtuber。こちらは、主人公1より賢く、知らずに犯罪に巻き込まれるのではなく慎重に調べて問題の発生点を突き止めることに成功する。しかし小学生なのでできることに限りがある。また、小学生であるせいか、法や道徳よりも友達を優先して「警察に言わずになんとか解決できないか」と考えてしまう。

引っ越ししてきてあおいちゃんに初めて会った時「どこに引っ越してきたの?」って聞かれた私は、あの川沿いの新しくできたマンション分かるって答えたの。あおいちゃんは、ちょっと複雑そうな表情をして「知っている」とだけ答えた。「うちの親父はあそこで働いていたんだ」って。私は何も知らずに「管理人さんだったの?」と答えたわ。それが、マンションができる前の工場の話で、あおいちゃんのお父さんは失業してから荒れるようになった事なんて、その時葵ちゃんは何も言わなかった。
もちろん私のせいでそうなったわけでも、マンションのせいで工場がなくなったわけでもない。だけど絶対に助けるんだ!あおいちゃんも、先生も!

しかし、どっちのYoutuberも「奈落」をなめすぎている

どちらも、ただの世間知らずのYoutuberです。それが調子に乗って街のヤバイ部分にかかわろうとしたものだから、あっというまに引きずり込まれてしまいます。

まず主人公ではないサブキャラが犠牲になる。

「先生は青いを助けるために来てくれたんだよね。でもどういうつもり?助ける?誰から?ママを半殺しにしたクソ親父から?あいつの気分次第で殺されるかもしれない家より今の方がずっとマシだってことわかっててきたの?やらされてなんかいない私は自分で自分を助けていたんだよ。それとも綺麗な池の魚が泥の中に住んでうちらのことかわいそうだって思ったの?半端な気持ちで近寄ると泥の中に引きずり込まれて戻って来れなくなるわよ先生?」

「大丈夫……私が我慢すれば我慢すれば止められる、とこの時はまだ思っていた。穴は落下し始めたらそこに着くまで落ち続けるしかないことを知らなかったのだ」

tyoshiki.hatenadiary.com
そして、魔の手は主人公たちをも追い詰めていく。

主人公たちを救ったのは、主人公が軽い気持ちで助けた何もできないはずの「羊」だった。

ここからは、ご都合主義というかおとぎ話というか、まぁそんな話です

メイは馬鹿じゃない。いろんなことを考えてきたんだ。いつも怒りも苦痛も憎しみも表に出せないだけで。

大丈夫、ちっとも怖くありません。多分私はシュウジさんに会った時もうとっくに死んでいたからだと思います。
(中略)
すごいな、人って姿を消せるんだ。誰も私を見ない、見ても見なかったことにする。誰も私を見ないから、私も、誰も見ないふりをした。私は罪のない人間なんかじゃなくて、ゆうきさんの指示に従って小さな女の子たちを○○の現場に連れて行ったりなんかしました。嫌なことは何も見ないふりをして自分がしてることについて何も考えないようにしてたんです。「ごめんね、私も同じだから」って思いながら何もしなかったんです。

しゅうじさんと初めて出会った時、私が思ったのはただ一つです。「この人は見た!私を。誰でもない私を見た!」そして、気づいたんです。「すごい、私ちゃんと人間だった。まだ、ちゃんと」「すごいな、誰にも見えなくなっていたのに。こんなにいっぱいみんなが見てくれている」

 ごめんなさい、しゅうじさん。私は一緒にいたいと願ってしまったんです。本当は早く離れなきゃいけなかったのに。そのせいで何もかも失ってしまったあなたを見て私は自分の考えにぞっとしました。「ああ、やっとこの人は私のところまで堕ちてきてくれた」って。でも、私はもう満足したから。どんなことをしてでもしおじさんだけは元通りにしてあげようと思うんです」

メイと主人公1とのすれ違いぶりとか、そもそもなぜいいところ家庭育ちだったメイが転落したのかとかいろいろ見どころあるのでぜひ読んで確かめてみてください。

奈落の羊 : 1 (アクションコミックス)

奈落の羊 : 1 (アクションコミックス)


「現代版の電車男」として、「ネットのおれたち」の物語として読むこともできる

>しかし、俺を騙したり桃山を落とそうなんてギバの野心に火がついたのは、君らの配信に出会ってしまったからだろうな。あいつも君たちの配信に人生を狂わされた一人なのかもしれないな。
この記事では「ジェントリフィケーション」と「子供たちの貧困」について強調しましたが、もう一つの側面として「現代版の電車男・ブラック」として読むこともできそうです。背景として作品の舞台となった街に闇があったのは確かですが、それでもこの作品で起きた事件に限って言えばYoutubeがなければ起きなかった。主人公1はいけすかないダメ人間ですが、そういう人間が向こう見ずにYoutubeでの人気を狙って浮浪者になったメイを助けたことから物語は始まり、結果としてメイ「だけ」は助けることができる。


そして、その過程には「ネットのおれたち」がかかわっている。

>「モニタ越しに見ただけで全部知ったような気になったり。逆にどうせヤラセだろって思ったり。安全な場所からあーだこーだ言うのって楽しいよな?でも、俺はお前らのそういうところ嫌いじゃないよ。お前らの覗き趣味がなかったら、俺は何度も死んでただろうしさ。無関心よりずっといい。残酷で情深くてバカで賢い馴れ馴れしくてそっけなくて気まぐれで律儀で頼りになるけど使えない。なんかさ、神様みたいだ


ネット寓話としての「電車男」が好きだった人はぜひ読んでみてほしいと思います。「東のエデン」と見比べるのも面白いと思います。

ぜひシロクマ先生に読んでもらいたい作品

なお、この作品はシロクマ先生ことid:p_shirokumaが一時期熱心に取り扱っていた話題とも関連があると思う。

融解するオタク・サブカル・ヤンキー  ファスト風土適応論

融解するオタク・サブカル・ヤンキー ファスト風土適応論

私はシロクマさんにはこの本で書かれたような方向性を掘り下げていただけることを強く期待していたのだけれど、この本を上梓されたことで一通り満足されたのか、現在は少し違う道を進まれているように感じるわけですが、せっかくだから(?)、ぜひ読んでみて感想を聞かせてほしいなと思っております。