作品一覧 | マンガクロス
秋田書店系列の「マンガクロス」で連載している作品。ほかには「僕の心のヤバいやつ」「君を死なせないための物語」「クジラの子らは砂上に歌う」などがおすすめです。
種族によって前提が違うから読んでみないとわからない作品
最近やたらと自称フェミニストさんたちがこの漫画にかみついているから何かと思ったらこんなツイートがありました。
ツッコミどころを上げればキリがないこの漫画だけど、一番滑稽なのは『フェミは男根至上主義』という誤った前提でものを語るうちに『女同士で助け合え』という、フェミニストに塩どころか武器弾薬食料まとめてプレゼントするような結論に至っているところだな。 https://t.co/RQcT4d0rfS
— フィッターR (@su22m4r) 2019年5月21日
以前に読んだことがあったので、なんかこのツイートの言い分は胡散臭いなーって思いました。
www.tyoshiki.com
なぜかというと、そもそも異世界ものであり、はちゃめてトンデモ設定を楽しむお話なので、現代の文脈で評価することに慎重であるべき(というかあまり意味がない)のに全く躊躇なくそれをしてるから。
この作品は「人間の常識」以外の男女関係のありようを、「人間以外のいろんな種族」という空想上の存在を通して描いてます。逆張りというわけではなくて生殖や身体条件に関するパラメーターをいじれるため、その結果として「徹底した女尊男卑」社会や、「現代人間社会以上に男尊女卑が激しい社会」が描かれたりそのほかにも「宗教」のありようなども当然前提条件が全く違う。多様性というか「異聞帯」みたいなのを体験するお話なんですよね。
そういう作品に対して、上のツイートのように「現代人間社会のフェミニズムが正しい」という前提から、この作品が正しいか間違っているかを論じてるのはこの人勘違いしてる?って受け取ってしまいます。「モトカレマニア」の時に1ページの切り抜きだけ見て騒いでた人たちと同じ香りがする。
とはいえ、作品の性質上、私も前提条件がわからない限りどういう意図で描かれたシーンなのかがまず判断しようがありません。その点、上のキャラは私が以前3巻まで読んだときにはいなかったのでまた前提条件がわかりません。とゆーか。上の自称フェミニストの人がすげえ的外れなツッコミをしてるというのは違いないにしても、この作品の作者さん側もようわからん。現代人間社会の用語である「フェミニズム」って言葉出す必然性がある?この作品内でフェミニズムって言葉が登場する余地がある?ってところが理解不能でした。
というわけで、正直この作品は3巻まででいいかなと思っていたんですが、せっかくなので4巻も読むことにしました。
アラクネ=女尊男卑社会
身体的に男性より女性が圧倒的につよい種族。
先頭でも女性が主力であり、社会関係でも完全に女尊男卑。
女尊男卑というのは「男性は弱いものである」ということを前提に社会が組まれているということ。
「女権が強く男性が弱者とみなされているため、男性は大事にしなければいけない」ため、女性が男を粗末に扱うのは絶対に許されない。
「女が男を蹴り飛ばすとか何考えてんです……」
「まて、あいつら(ケンタウロス)はアラクネと立場が逆だから!
お前だって、女(強者)が男(弱者)に蹴っ飛ばされてもいちいち騒がないだろ?」
「それはそうですけど……」
アラクネの前で男の人を蹴っ飛ばしたり女のくせに男の人を盾にしたりするのと、「なんだこのクズ女」みたいに思われますから気を付けてくださいね?
いや、アラクネの里では男の人も大変ですよ?女の都合に振り回されっぱなしですし。
そのくせ里に女たちでも勝てない危機が迫ってきたときは戦士として殿を務めさせるし。
もうちょっと男の人にやさしい社会になってもいいと思うんですけどね……
とにかく男は弱いのだから女が守ってやる。その代わり男にはろくな権限は与えないよというのがアラクネ種族の特徴。
もちろん作中でも、たいていの種族は男女の身体能力差はそこまで違わずここまで極端な社会ではない。むしろ男女平等に近い主義を持っています。あまりの常識の違いに周りの女クリーチャーたちはドン引きしてます(笑)
ケンタウロスは極端な男尊女卑のかわりに「女同士の連帯」「女社会」が強い
ケンタウロスは男尊女卑社会でよかったわ。
強い男に家畜のようにひれ伏しながら、その分甘く優しく扱われたい
ちょっと待って。子育てがそこまで大変ということは、女社会が機能していないわ。あ、そもそも男社会って言葉があるのに女社会って概念自体が存在しないのね?
そもそも仕事で家にいない男に、家で家事や育児をさせて人手不足を解決しようという発想自体がくるってるからね?
男がいるときに全部望み通りにしてくれても、普段はいないんだから誰も幸せにならないわ。いるときに手伝ってもらうのはいいけど、どうあがいてもその程度よ。子育てに必要なのはいない男の協力じゃないの。いつでも近くにいる別の女よ。まずは2~3人の女社会でもいいからしっかり作り上げて機能させなさい。自分たちで具合のいいように。実家で大家族にするでもご近所や友達と協力し合うでも何でもいいから
マーフォークは、夫婦を中心とした核家族の上はすぐ村とか町とか国でしょ?
ケンタウロスは核家族と村の間に、親族が集まった大家族、大家族がいくつか集まった群家族ってのがあるの。
この群の女たちが、ケンタウロスの女社会の一単位で女組って呼ばれてるわ。
(中略)
大家族も女社会も慣れがいるし、でかくなると運営にコツと経験がいるからね。
最初はやっぱり二~三人家族同然で女2~3人程度から始めた方がいいよ。
とても面白い。 ただケンタウロスの理論は
①「性役割の分業」がめちゃくちゃ明確であり(男が仕事に行ってて女が家を守ってるのが当然のようになっている)
子育て中の女性が社会において強く優遇されるから。
②ケンタウロスの女性が肉体的に男性におとらないほど強く、女性の連帯も強くて男がそれほど脅威ではないから
③
という二点が前提になっています。当たり前だけど人間社会とは全く別物です。
上の自称フェミの人、「アラクネの方は完全に別物と認識できる」のに「ケンタウロスの方は完全に別物」とは認識できないのはどうなんだ……。
作中で否定されているのは「フェミ」だけじゃなく「人間社会の常識全般」ですからね
なんか上のツイートだと、作者がフェミニズムだけを目の敵にしてるみたいな解釈になっているけれど実際は現代人間社会の常識そのものが否定されていますね。「人間病」ってことばまで使って人間の常識は全部否定してかかれっていう表現が出てくる。そのくらいケンタウロスは人間の文化に否定的なわけで、否定してるのはフェミニズムだけじゃない。
そもそもの話をすると、異世界に飛ばされた二人の主人公も、かたや人間社会ではただの頭のおかしなやつ扱いされてた存在であり、もう片方も人間社会になじめなかったやつです。作品全体に「現代人間社会の常識とかどうでもいいぜヒャッハー。それより異種族の独特な社会おもしれ―」って雰囲気がただようお話です。
そのあたりも上のツイートした人はちゃんと読めてないっぽいので、フェミニズム以前の問題として上のツイートの人はまず読解力とかリテラシーを先に何とかしたほうがいいと思います。
アンチフェミだから、ではなく「さすおに」な描写は「いやーきついっす」「きんもーっ★」って気持ちになる
一方で、作者側にも大いに問題はあって。やっぱりこの作品世界内でわざわざしかも前置きなく「フェミ」という用語が当たり前のように出てくるのはかなり唐突な印象があったしむしろかなり不自然だという印象のままですね。まぁその前の2巻でも説明なしに人権主義とか出てきててなんじゃこれってなったけど。
人間からみていいとおもっていることでも、価値観が種族からしたら間違ってるというか合理的でない、みたいに見えるのは当たり前で、そういうのを語るのは全然いいんですけども。
「プリティ・ベル」の時もそうだったけど、論破してる対象が都合のいい藁人形すぎるし、物語中のキャラの冗長な語りに作者の顔が見えすぎるし、その作者の主張に作中の登場人物がこれはすごい!みたいな反応してるのを見るとすごい萎えるので、そのあたりはしっかりしてほしいなぁ・・・・・・。*1
元祖さすおにこと魔法科高校の劣等生のキモさは、物語がつまらないところでやはり跳ね上がる傾向にあり、KAKERUさんの作品もそういう状態にならないようにしてほしいなーと。
dic.nicovideo.jp
と、まぁ細かい点ではいろいろ言いたいことはあるんですが以前に紹介した時同様、発想はめちゃくちゃ面白くて、総合的には漫画として面白く読めたので、みなさんもよかったら読んでみてください。
科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌 4 (チャンピオンREDコミックス)[本/雑誌] (コミックス) / KAKERU/著
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*1:ブコメで指摘あった通り「スルメロック」氏っぽいというのはわかる。けど、そこまでレベルは低くないし強い敵との駆け引きも出てきてそのあたりはすごく面白いのでスルメロック氏と比べるのはさすがに失礼かなと私は思ってます