なんとなく00年頃のエロゲと書いてしまいがちであるが,ここで示したような特徴はけっこう普遍的に後代まで刷新されつつ続くし,実際のところ一番近いと思ったエロゲが2011年発売の『穢翼のユースティア』
懐かしい! いわれてみるまで思い出しもしなかった。
「天気の子」絡みで「穢翼のユースティア」紹介してくるとは。懐かしすぎるでしょ……https://t.co/FV4khTcAhxhttps://t.co/qSktUG6wUY
— あさひんご@hulu民 (@asahineru) July 28, 2019
実はAndroidでもプレイできるようになっています。
この作品は須賀さん的な要素が強い人間が主人公な「天気の子」である
いろんなしがらみに縛られて、世界の不条理を理解しつつも「仕方ない」「選択の余地なんてない」「俺にはどうしようもできない」って言ってる男と、世界を救うために生贄になることを定められた少女の話。(なお実際には彼女が生贄になっても世界は救われるわけではないが、生贄にならないと社会が崩壊する。その意味で天気の子よりずっと残酷な設定になっている)
私は当然ながらこの作品がとても好きだ。結末云々ではなく、この部分をはっきりと描いているからだ。
①正論は正論であるがゆえに強いが,強いがゆえに自らに返ってくることに覚悟がないものには扱いきれない代物だ。現実の世界においても,そうして足をすくわれる政治家は多い。カイムは選択肢の余地のない人生を送ってきた。だから選択肢の余地が生まれたとき,軸足が存在しなかった。
②カイムが生活の不条理を乗り越えた先にあったのは,選択の不条理であった
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/51976486.html
この作品は、ストーリーというより、カイムとティアの禅問答みたいなやり取りがめちゃくちゃ面白い作品で、これはぜひ一度体験してほしい。
「信仰は、私が生きている意味そのものなのです。決して捨てるわけには参りません」
「あんたが言ってることは確かに格好がいい。だが、生きる意味なんてのは贅沢品だ。友人を犠牲にする程のものじゃない。はっきり言わせてもらえば、くだらない。生きる意味や信仰じゃ、腹は膨れないし寒さもしのげない。牢獄でそんなものにこだわっていたら、すぐ死体になるだろうよ。」キレイ事など聞きたくない。そんなもの、牢獄では何の役にも立たなかった。だから、俺は否定した。生きるために否定せざるを得なかった。心の奥底でそれを悔やんだとしても、仕方のなかったことだ。
「おっしゃることはわかります。ですが、ここは牢獄ではありませんし、私は聖女です。」
「身分が違うとでも言いたいのか?そりゃ、あんたには牢獄の実情などわからんだろうよ」ヘドが出る。
「ふふふ……カイムさんは、本当に牢獄がお好きですね」聖女が口元に手を当てて笑う
「生きる場所を選ぶ権利などなかった。好きであんなところに落ちる奴がいると思うか?」
「以前も申し上げましたが…お好きでないのであれば、お出になればよいでしょう?今のあなたであれば簡単なことでしょうに、なぜそうなさらないのですか……?」
なぜ俺が牢獄から出ようと思わなかったのか。なぜ未だに牢獄にとどまり続けるのか。
「カイムさんは普段食事にはそれほど困られていないでしょう。 聖殿の料理に文句をおっしゃるくらいなのですから。服装も整えられていますし、それなりの暮らしをなさっているのではないですか?」
「それは今の話だ。昔は、文字通り泥水をすすって生きていた」
「牢獄での生活は厳しく、信仰を持つ余裕など無いとおっしゃいました」
「そのとおりだからな」
「一般的にはそうかもしれませんが、今のカイムさんは違うでしょう?衣食は足りて、牢獄から出られるにもかかわらず出ない……。牢獄の一般論をご自身にも当てはめる……まるで、牢獄の苦しさにしがみついているようです。私の立場から言わせていただくのなら……それも信仰です カイムさんの信仰を捨てろとは申しません。私も自分の信仰は捨てられないのですから。ですが、あなたの信仰をもって、私の行為を否定なさるのは筋が違います」
「言うじゃないか…」
「私の信仰をくだらないなどというのでつい本気になってしまいました」聖女は笑っている。こいつが愚かではないのは、今のやり取りでもわかる。ならば当然、自分の主張がこのままでは誰にも受け入れられないことも知っているはずだ。知っていてもなお、もっとも愚直なやり方を選択する。それはなぜか?目的遂行の「手段」に価値を見ているからだろうか。
こんな感じの禅問答が好きな人はプレイしてみると面白いと思います。
セカイ系について 「選択の不条理」と向き合うということ
それにしても「選択の不条理」ってキーワードはわかりやすくてよい。それと直面した上で、それでもどちらかを選ばなければいけない、というのがセカイ系の醍醐味部分だと私も思う。
せっかくだから乗っかってもうちょっとエロゲ語りしようそうしよう。
セカイ系はそもそも「どちらを選んでも悲惨なことになる。しかもそれが自分の責任となるなら選びたくない。今だってつらくてしんどい状態だけれど、それでも前に進みたくない。このままでいたい」と繭にこもって拒否しようとしたシンジ君に、無理やりにでも選択させる物語だ。しかも、元祖エヴァはいろんなものに後押しされて選んだ結果やっぱり悲惨なことになるシンジ君を描いて多くの人にトラウマをもたらした。
そこに希望はない。それでも時を止められない以上、選択肢から逃げることを許さない。「仕方がなかった」では許さない。そういう圧力がゼロ年代前半はずっとプレッシャーとしてあった。もちろん美少女ゲームはずっと二択で手詰まりなセカイを描いてきたわけじゃない。作りてはあの手この手でこのセカイ系なるやっかいな問題を克服しようとしてきた。正確ではないだろうけれど自分なりに振り返ってみるとこんな感じだったと記憶している。そういうところが当時人生完全行き詰ってた私にとってもものすごく心地よかった。
①そもそも日常での癒しが重視されるようになったし、さらに選択肢は二択ではなくマルチ化していった。さらに恋愛ものに関してはトゥルーエンドとして「みんな幸せ」な未来が描かれるようになった。これはこれでハーレムものというまた別の問題を引き起こしたが。
②さらに「不条理な世界」を具体的な対処可能なものにし、攻略済みの仲間たち(トラウマ解消済み)と力を合わせることで解決してみんなハッピーになるというグランドルートなるものも開発された。CLANNADはさらに「街の力による奇跡」というものを用意して他とは格の違いを見せつけた。 この流れにおいて「Kanon問題」を鮮やかに解決してみせた京アニ版「Kanon」快挙は大きな事件だった。 これはこれでループ物や多世界解釈という、やたらに厄介な問題を生み出すのだが。これらはプレイヤーのプレイ時間や想像力に大きな負担を強いることになり、「ひぐらしのなく頃に」や「シュタインズ・ゲート」「スマガ」「Baldr Sky」によって総括されるまでかなり多くの人を苦しめた。
③「fate」のようにラノベの流れを汲んで「世界の敵」を人レベルまで具象化できた作品もわずかながらあったり、「瀬戸口廉也」のようにセカイとの戦いにおいて敗北を美しく描く作家さんもいた。
④そんな中独自路線のアリスソフトは「世界のことなど知ったことか」と好き勝手に暴れまわる主人公を描いていた。ランスシリーズは至高。
⑤さらに、セカイ系の後反動として、誰が言い出したか「決断主義」なるもので、答えを決め打ちしてほかの選択肢を切り捨て、敵を打ち倒しながらただ信念に従って生きることを推奨する流れがあった。まぁ代表作とされる「デスノート」では月くんは敗北して死ぬけど。
ただ、こうしたいろんな取り組みも、2008年か2009年のリーマンショック以降は大分苦しくなっていった印象があり、私もその頃に美少女ゲームやらなくなっちゃったのでその後のことはよくわからない。
「穢翼のユースティア」はこうしたいろんな模索のがひととおり落ち着いた数年後の2011年に発売された。「唐突」な印象を受けた。この作品が出たころにはもうこういう「セカイ系」バリバリというものはもはや主流ではなく、評価は高かったが違和感をもって受け止められていたように思う。「Air」を換骨奪胎して、主人公や中間層である社会部分を具体的に描くことでブラッシュアップしたという印象が強いゲームであり、着地地点も微妙に違う。大変興味深い作品ではある。詳しくはdg_lawさんの記事やErogamescapeを読んでもらいたいが、セカイ系について興味がある人はやる価値があると思うので私からもおススメ。
私は「穢翼のユースティア」自体の感想記事はこのブログには書いていないのだけれど、「関連作品」として以下の記事に登場させているので興味あったら読んでみてほしい。
www.tyoshiki.com
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ちなみに今ってDMMとかDLSiteではエロゲ半額セールやってるので、この機会にいろいろとチェックしてみるといいと思うの。
Dies IraeのAndoroid版、どんな感じか動作確認のために購入してみる。https://t.co/q82wLQN66R pic.twitter.com/2OxDRxtGiX
— あさひんご@hulu民 (@asahineru) July 27, 2019