「ケーキの切れない非行少年たち」感想その0 よんてんごさんが書かれた記事の感想 - 頭の上にミカンをのせるからの続きです。
最近発達障害については世間でも認知が広まるようになってきて、不十分とはいえ対策が進んできています。
発達障碍者の就労支援を行う企業が上場して売り上げ100億を越える(LITALICO,ウェルビー)程度には、発達障碍者支援については一つの産業になりつつあります。民間によるサービスの範囲もすこしずつ拡大していってます。*1
ネットにおいても「発達障害」特にASDとADHDについてはある程度理解され、配慮も少しずつ進んでいるようになってきたと思います。当事者としてはとてもありがたいことです。
発達障害への認知拡大の裏側で……
しかし一方で知的障害の子供たちについてはほとんど認知が進んでいないようです。それどころか、発達障害の認知が進んだせいで「発達障害や知能検査において引っかからないけれど知的に障害を抱えている人」に対しては「発達障害でもないのに問題を起こす人間」としてさらに迫害が進むことさえある。その結果二次障害、三次障害、四次障害とだんだん悪化していき、どんどん社会から疎外されて行ってついに犯罪を犯してしまう。
そうやって犯罪を犯した知的障害を抱える人たちが、雑に「精神疾患」側につなげられて社会から抹殺されていったり、「家」に閉じ込められてますます状態を悪化させていったり、反社会勢力にしか居場所を見出せずそこで悪行に染まったり搾取されつくして消えていくなどの流れがあるようです。*2
「ケーキを切れない非行少年たち」という本は、そうした現状を踏まえたうえで主に「知的障害」を抱える子供たちの早期発見・支援について情報提供を行うことを目的として書かれているのがこの本です。
以前よりこの問題については「累犯障がい者」などの名著がありますが、「ケーキを~」は問題の指摘だけではなく実践的なケアについて実践例をもとに踏み込んで書かれています。障がい者のケアについては全く知らなかったという人だけでなく「発達障害についてはある程度知っている」という人こそ読んでほしいと思います。
まずは身近なところから「知的障害」「学習障害」についての認知を
この本には発達障害についての記述もありますが、それについては当ブログで書いてきた内容から目新しいことはないので省略します。
この本で主に取り上げられているのは、「知的障害の基準であるIQ70以下ではないが、対人関係などに困難を抱えやすいIQ70~85ゾーンの人」や「IQは85以上あるし発達障害ではないが、遂行機能に困難を抱えている人」といったグレーゾーンの人たちです。
fujiponさんのブログにも詳しく書かれていますがIQが70~85の人口は非常に多いです。
【読書感想】ケーキの切れない非行少年たち ☆☆☆☆ - 琥珀色の戯言
「軽度知的障害者」をIQ70〜84の範囲と定義すると、人口の14%くらいを占めているそうです。ちなみに、IQ70以下は2%。
もちろんこのゾーンの人がすべて知的障害というわけではないです。しかし、このゾーンにいる少なからぬ人たちが、何らかの問題を抱えているのに「問題なし」として放置されているということになります。
IQの値だけだとイメージしにくいかもしれませんが、こういう感じの人をネットで見かけたことはあるんじゃないでしょうか。
①思考の融通が全くきかない。BOTかと思うくらい特定の案件で決まった発言しかしない
②過剰に感情的で被害妄想が強く、根拠のないレッテルを張るような言動を繰り返す。(感情的であることは誰にでもあるが限度を超えている)
③自分の言動への反省がうまくできず何度も同じ間違いを繰り返す(発達障害のように「自分の問題を認識しているが脳機能的に無理」というのではなく「そもそもそれを問題と感じていない」ところに問題がある)
④自己評価が他人からの評価と極端に乖離している。そもそも自分を省みることを極端に忌避する。
⑤仲間内に対しては過剰なまでに丁寧であいさつも仲間のコメントへのスターも欠かさないがそれ以外の人間に対しては罵詈雑言をまき散らすなど極端な二面性がある
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66631?page=5
こうした人たちに対して「発達障害じゃなくて知能障害なのでは?」という別の視点をもって対応を考えることが可能になるかもしれません。
私たちは医師ではないので診断をしてレッテルを張ることはできないしやってはいけない。そうではなくて「こういう余りにも話が全く通じない人はもしかして知的障害なのかもしれない」という可能性を考慮することでストレス軽減することが目的です。
ネットで遭遇するこの手の人たちは「普通の人」として接するとすごいストレスになります。一方で知的障害の人がどのような特徴を持っているかを知っていれば、こういう人たちは「自分が何をやってるかわかってないし認識する能力も意志もない」ので、普通の人と同じような意識でコミュニケーションをしても無駄だとわかり、少し気が楽になります。
さて問題はここからです。ネットではこういう人とはかかわらない、で済むのですがリアルではそういうわけにはいきません。こういう人たちを放置しておくといろんな問題につながってしまう。これに対してどう対処していくかを考えなければいけません。
さらに詳しく掘り下げたい部分
この本の詳細については今までに読んできた本などを踏まえてもう少し掘り下げてみたいので記事を分けて紹介していきたいと思います。今のところイメージしているのはこのあたりです。
(1)認知能力が不足していたり歪んでいる人間には認知行動療法も効きにくい。まして自分で反省したり改善していくことはほぼ不可能である
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(2)知能指数に問題はないけれど遂行機能が低い子供たちは、様々なヘルプサインを出しても「厄介者」として切り捨てられてしまう
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(3)社会でも刑務所でも助けてもらえずに四次障害までいたるケースも多い。当然受け皿は反社会勢力しかない
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(4)性加害者の95%が凄惨ないじめ経験者&知的なハンデがある
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(5)医療における支援には限界がある。どうしても教育での対応(コグトレによる認知機能自体の向上)が必要だが未だに医療と学校の連携が取れていないため適切な支援ができず投薬漬けにして無理やり押さえつけるような対応になってしまいがち。
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(6)この手の人間はほぼ確実に自尊心が低いがそれ自体は問題ない。自尊心や自己肯定感が低いというのはネットでもよく言われる話題だが、本当に問題なのは自己をただしく認識したり受容できないこと。
(7)こういった知的障害を抱える人たちに対して効果があった支援とは何か。どういう出会いや支援があれば当事者は助かるのか
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*1:※私が知る限り、現場の人は頑張ってるんですが、いろいろと課題があると感じるんですけどね。特にジュニア部門の人材不足……。
*2:これはただの憶測ですが、そういう今まで社会的に黙殺されていたはずの人が表に出てきて徐々に社会問題として認知されつつあるのが最近連続して起きている事件なのかもしれません。将来的に「クマ射殺問題」のような形でこういう人たちの扱いが問題になるかもしれません。実際京アニの件に関して「糖質は生きてても仕方ないからコ□セ」という意見が一定の支持を受けるなど殺伐とした空気になっていました。「社会的に認められてない理由で普通の人と同じができない人」への不寛容はさらに加速しているのかもしれません