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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「御手洗家、炎上する」(前半) ただの復讐譚にあらず。攻守が二転三転する展開が期待以上で面白い!

お勧め度★3(5巻以降は★4.5)

その後父が再婚したのは、母と親しかったシングルマザーだった。

私たちはこの女にたくさんのものを奪われた。だから取り返す。私が、すべて取り返す。

……キャッツアイかな?



復讐譚&貴種流離譚

この手の復讐譚&貴種流離譚として一番好きなのは「女王の花」だけれどあの作品は主人公からすべてを奪った相手側がかなりキャラが濃くて主人公の輝きに釣り合う強さを持っていたのだよね。

(現在4巻まで無料で読めるみたいです)


この作品は果たしてそのあたりをどう描いていくのだろうか。


見事なまでに幼少時代にあったものを全部奪われているが敵は凡庸

この作品、かなり徹底して主人公である杏子から大切なものを根こそぎ奪いつくしていて丁寧な作品だなと思う。


御手洗家に火をつけたのは、母と親しくしていた「渡真希子」である。


彼女は以前からこっそり母の服を盗んだりしていた。ある時、母が薬を飲んで朦朧としている状態になったのを見計らって盗んだ母の服を着て放火を行う。母はすっかり気が動転して、自分の不始末で館を全焼させてしまったと思い込んでしまい、カメラにも放火現場には母の服を着た人物が映りこんでいたため、結局そのまま母が犯人ということにされてしまう。こうして、それまで病院経営者の家族として何不自由ない生活をしていた母、杏子、妹は家を追われることになる。


それだけならまだしも、

・美人だった母はその後家族を養うために慣れない仕事をしていく中でかつてあった美しさを失い
 ついには心労で倒れ、主人公たちのことも忘れてしまった。覚えているのは夫との思い出だけ。

・自分の初恋の男(渡マキコの長男)はその面影もなくなり引きこもって二階に閉じ込められることに

・渡マキコがなぜか火事の際に焼失したはずのアクセサリや服などを着てインスタに登場して人気を獲得していた



「渡マキコ」はそうやって杏子たちから大切なものをたくさん奪っておきながら、彼女の欲望はどこまでも俗っぽい。ただ猜疑心や虚栄心が強いだけの女として描かれている。

杏子からしたら「そんなことのために」家に火をつけて私たち家族から何もかも奪ったのかといいたくなる。だが、「だからこそ」タチが悪い。自分の欲望のためなら他人のことなど顧みず、リスクも度外視して何でもやる人間というのはその欲望のターゲットにされた人間からしたら、恐ろしく厄介だ。


単に館に潜入して秘密を暴くだけだと単調だけれど、この作品は攻守が目まぐるしく逆転していくのでスリリング

先ほども述べたように、ラスボスである「渡マキコ」自身は欲望こそ強いが大したことない人間として描かれている。

杏子はその「渡マキコ」について最大限の警戒をしていた。

しかし人間は一人に対して警戒を強くしすぎるとそのほかがおろそかになる。

順調に館に潜入して、渡マキコの信頼も得て順調だと思っていたが、そのすぐそばにいた存在への警戒を怠ってしまったためにあっさり自分の正体がばれてしまう。

その人物は「無能」を装っているだけで実はとても有能な存在だった。主人公自身が、無害な家政婦を装って「渡マキコ」をだまそうとしていたのに、警戒することができなかった。

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つらい状況であっても前向きに動けるなら耐えられるが、途中で躓いてしまうと立ち上げるだけでもすごくつらい

このあたりすごく物語として上手いなと思う。

「渡マキコ」が敵としてあまり魅力的ではないため、「渡マキコ」に対する復讐譚だけだったらいずれ杏子が勝つのがわかり切っていてそれほど楽しめなかったと思う。

でもこの作品の場合は、慢心から足をすくわれてしまい、手かせ足かせをつけられた状態で復讐を達成しなければならなくなるのだ。

それまで強い意思をもってどんな困難な状況にも立ち向かってきた杏子が、雨の中でうずくまっているシーンはつらいよね。
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JKハルの8話でも同じようなシーンがあったなー。
www.tyoshiki.com

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一人で孤独に戦おうとして行き詰ったけれど、家族に助けを求めることで新しい道が開ける

それまで杏子は、母や妹を巻き込まずに一人で戦おうとしていた。
復讐を開始してからは、危ないことからは妹を遠ざけようとずっと邪険に扱っていた。
そうやって一人で戦って、いいところまでは行けたけれど、行き詰ってしまった。


もう無理だ。あきらめようと思ってうずくまっていたけれど
うずくまっている杏子のもとに、思いもがけず妹がやってくる。
妹は、うずくまっていた自分を見つけて、腕を引っ張り上げてくれた。

自分が庇護すべき対象としか思っていなかった妹は、
自分が思っているよりずっと事情をよく理解しているし、大人だった。
自分ばかりが妹を気遣っているつもりだったけれど、妹もまた自分を気遣ってくれていたのだ。

一度挫折して立ち止まったことで、とても大切なことに気づくことができた。
まるでカイジの鉄骨渡りの終盤のような展開だ。

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そうやって、元御手洗家の姉妹は、二人で協力して御手洗家と、病院の双方向を攻めていくことになる。


と、このあたりで3巻までの内容です。


前編はここまでです。

興味を持たれた方は、ここでいったん記事を読むのをやめて、続きはぜひ自分で読んでみてほしいです。5巻以降のの展開でアッと言わされる感覚を皆さんにも味わってほしい。


ストーリー展開も面白いけれど「インターネット」のサービスが適切に使われているだけで滅茶苦茶面白い

特に6巻が最高で、我々のなじみのインターネットのサービスが登場しまくっておりネットにどっぷりつかっているユーザーにはたまらないと思います。

今から思うと、インターネット言論バトルを描いた「虚構推理の鋼人七瀬編」はすごくおもしろい作品でしたが、物語で使われるネット上の言論空間が「HPの掲示板」や「2チャンネル風スレッド」だったのだけは残念でした。リアリティがあまり感じられないよね。


それに対して、この「御手洗家炎上する」は、インスタもTwitterも、そしてnoteも、きちんと状況に応じて使い分けられています。
この作品中に「note」が登場した瞬間はマジで興奮しましたね。

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ちゃんとした連載作品でnoteが漫画デビューしたのこれが初めてでは?

まじでこのあたりの描写の何とも言えない面白さを一番分かち合えるのってはてな民の皆さんだと思うので、はてなの皆さんに読んでほしい。













余談 クソオタ引きこもりニートの描写が鬼気迫ってて面白い

この作品は、杏子の初恋の相手が13年ぶりに再会した時にクソオタひきこもりニートになってしまっている。実家が太いので親が死ぬまでは余裕で生きていける上、親に逆らう勇気がなく部屋から出ない。それでいて、家政婦としてやってきた主人公には高圧的にふるまう。

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最初は杏子も彼の機嫌を取っていたのだが、ある時ブチ切れる。

もうやめません?そうやって自分で自分の悪口言って不貞腐れるの。他人に機嫌とってもらいたいみたいで見苦しいですよ。それに、〇〇さんだって言ってて苦しいでしょう?自分で自分の首を絞めるみたいで。」


「仕方ないだろ…頭に浮かんでくるんだから…… 今までずっとこの部屋で画面越しに見てきたからな、俺みたいな人間が世間でどんな風に言われるのか。別に機嫌とってもらおうなんて思ってねーよ。俺の現状は底辺だって自覚してるだけだ」


「……わたし、(屋敷炎上で御手洗家を追いだされた後の)中学の頃、クラスのグループメールで悪口書かれているのうっかり見ちゃったことがあるんです。落ちぶれ貴族だとか不幸少女だとか。
 
 ショックでしたけれど、世間的にみれば今の私はそうなんだって受け入れてました。でも、そうしたらだんだん息苦しくなってきたんですよね。他人の評価を認めるたび、自分の人生がどんどん暗くて狭いところに誘導されてるみたいで。だから気にするのはやめました。
 
 不幸だとか落ちぶれだとか、私の人生チラ見しただけのヤツの言ったことなんて気にすることないって。今私の人生を歩いているのは私で、転んだあと戻るのか進むのか決めるのも私で。私の人生を変えてあげられるのは、私だけだから。」

これが3巻での描写ですが、このあとのクソオタひきこもりニート君、作中で徐々に変化していっており、それをみるのも感慨深いです。




全体的に、関連作品として「累」を思いだしますね。合わせて読むと面白さ倍増するやつなのでこちらも未読の人はオススメです。

累(1) (イブニングコミックス)

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