ミステリ作家の小森先生が「なんでエロゲオタクは数十時間にも及ぶ代り映えのしない日常の繰り返しと膨大なテキストに耐えられるのか?」という旨のツイートをされていたが、その答えともいうべき作品がこの「グノーシア」ではないかと思う。
この作品は、小説としては1巻分に満たない設定と内容くらいしかないのだけれど
①ゲームの仕組みによって約60時間(120~130ループ)に及ぶ「繰り返し」の中で少しずつ情報を出していくことによってその繰り返しを飽きずに楽しませ、登場人物への深い理解と愛着を感じさせる
②最終局面において、小説を1巻読んだだけでは到底得られないほどのカタルシスを与える
という2点に成功していると思う。
何が言いたいかというと
めちゃくちゃ面白かった
ということです。(小並感)
「ドキドキ文芸部」と同じく、ノベル中心でありながらここまでゲームとして楽しめる作品を作ってくれたのは本当にありがとうって気持ちになりますね。
「ループにより情報を小出しにしていく」仕組みと「人狼ゲーム」は相性が良い?
去年からいろんな人が話題にしているからもう皆さんご存じだと思うのでこのゲームについての紹介は省略するけれど、簡単に言えばゲームの中心部分は「人狼ゲーム」なのだけれど「人狼ゲーム」の各キャラクター、各役職一つ一つにストーリー上の意味を持たせることで「人狼ゲーム」に「生存=勝利」以上の意味を持たせることに成功している作品である。
人狼ゲームのキャラクター・役職の設定すべてに意味を持たせることに成功した「レイジングループ」
この取り組み自体は、先に「レイジングループ」というゲームが着手・成功している。詳しくは「基本読書」さんの記事を参考にしてほしい。
とはいえ、「レイジングループ」の場合はストーリーとしての面白さを追求するあまりプレイヤー側が自分の意志で人狼ゲームを楽しむ余地はほとんどなかった。*1
ちなみに一周目については自分のプレイ状況を録画してます。だいたいこのくらいのペースで読み進めて16時間でした。
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人狼ゲームの楽しみ方を変質させた「グノーシア」
一方「グノーシア」は本当に人狼ゲームをプレイヤーが遊べる。というか遊ばないといけない。何度もループして実際に人狼ゲームをやりながらその過程で少しずつ情報を集めていく。
人狼ゲームでの登場人物の人数から役職の割り当てまで毎回ランダムに決まり、それによって得られる情報も変わってくる。この情報収集がめちゃくちゃ大変で、何度も同じゲームを繰り返しプレイすることは大変なのだが、そのころにはすっかりこの作品にハマってしまっており、この世界での謎を解き明かしたくてしょうがなくなってくる。
何度も繰り返しているうちにだんだんと「人狼ゲームをやっているのに、勝ち負けよりも情報収集のことばかり考える」状態になっていくのが面白かった。
……ってここまで書いてみて、本作品の中身を紹介しようとすることにはあまり意味がないような気がしてきた。
本作はとにかく「プレイ体験」が面白い作品なので、このゲームについては多くの人が言う通り「やってみないとわからないので興味があるならとりあえずやってみろ!」としか言えないですね。
微ネタバレ
ループがあるがゆえに、人死にが出るのはお構いなしということで
めちゃくちゃ恐ろしい展開が起きたり
不可解な行動をとるキャラクターが登場する。
認知的不協和おきまくりで、早く真実が知りたくてぐいぐい引き込まれる。
それでも最終的には1つのゴールに向かってきれいに着地できるように作られている。
終わってみればSFの王道ど真ん中といっても良いストーリーになっている。
特に「SQ/レムナン/ククルシカ」の関係については「彼方のアストラのif展開来てるじゃん!」って興奮しました。
*1:※ネタバレになるが、「レイジングループ」では主人公が有能すぎるため人狼ゲームは細かい分岐をはさみながら3ループで真相が回収され、4ループめですべての決着をつけることができてしまう。だいたい16時間くらいでクリアできる。その後で各キャラの心情駄々洩れの「暴露モード」というのが楽しめるが本筋ではないだろう