1巻で急速な進展から話題となり、2~3巻で方向が固まったと思いきやこのあたりで本作品の広告がネット上で炎上。
その影響があったのかなかったのか、4巻~6巻までのゆっくりした展開になり、7巻であっさりとした終わりを迎えた。
問題作として話題になった割に、かなり穏やかに軟着陸して終了した
「子持ちのおっさんとJKの疑似恋愛」という内容は相当センシティブであり、
最終的に二人の関係がどうなるかが確定しないと読む気すらしない人もいると思うのであえて終わり方について明確に言及する。
(ネタバレが嫌な人は)ここでそっ閉じ推奨。
本作品は破滅の物語にはならなかった。
二人はキスまではするがそれ以上のラインを超えることはなかった。
といっても、「恋は雨上がりのように」と違ってさわやかな終わり方にはならない。
なんだかんだ主人公は誘惑に負けて古都に手を出してしまっているためだ。
- 作者:眉月じゅん
- 発売日: 2015/04/03
- メディア: Kindle版
主人公であるコウスケは、「恋は雨上がりのように」誘惑に勝って彼女ときっちり線を引くこともしなかったし
「White Album2」のかずさエンドのように世間に背を向けて二人が結ばれるような勇気を出すこともなかった。
だから、破滅もしないが何かを成し遂げることもない。
いろんなものを犠牲にして、ささやかな淡く儚い光を手に入れる。ただそれだけの話になっている。
俺は隠し持つ、胸ポケットの中に、彼女との「秘密を」
派手な終わり方によるカタルシスをもとめていたひとには物足りないだろうが、
本作品は最初からこの終わり方をするつもりだったのだろうと思う。
Amazonレビューでもかなり賛否両論であり、人によっては「最低の終わり方だ」とキレていたりする
キレてる方のレビューはここでは紹介しない。Amazonの人気レビューでは高評価をつけている。
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2021/02/10
- メディア: Kindle版
副題として何度も書かれてきた L'un des grands secrets d'une femme fatale.
日本語に訳すと「ファム・ファタールの大きな1つの秘密」
その大きな1つの秘密とは何なのか?について、最終7巻ラストで遂に一応の答えが提示されます。「ファム・ファタール」は、日本語に適当な単語が存在しないのですが「運命で結ばれた女(ただし男を破滅させる)」という、フランスではわりと古くからあり幾度も文学や詩の主題になってきた定番の概念です。
男を意図して潰そうとするわけではなく本人たちは運命の相手として相思相愛なのだけど避けられぬ破滅を導いてしまう運命の女性、そんな意味合いです。晃介にとって古都は「破滅を導く運命の女」だったかどうかは、提示された物語を読んだ読者の皆さんがご自分で解釈することだと思います。
じっさいこの物語は萩原さんの描こうとした意図と読者の受け取り/盛り上がりようとに少なからぬ乖離があったらしく、萩原さんはそのズレについて戸惑いを感じたことを隠しておられません。その戸惑いも含めて面白い物語になったなと思っています。たぶん、私の受け取っているこの物語も、萩原さんの意図とは違う。
簡単に言えば「結局、何がしたかったの、この子」って話にもなるが、そもそも「私にも分からない」というお年頃なので、ある意味、現実以上にリアルな一面がある。
中途半端にリアルなので、作り話であることを忘れて怒り出す人もあるが、それと同様、人一倍翻弄されたオッサンが1人で動き回っている訳ですよ。
掴みどころのない彼女の態度に翻弄されたのは『晃介さん』を通した読者だと思えば、むしろ、成功した作品と言えよう。
作品単体としてみたらかなり繊細というかこじんまりした話であったけれどその「どこにも行きつかない感じ」が逆によかった。
エンタメとしては物足りないかもしれないが、こういうのが好きな人もいるだろうって感じ。
本作で最も大事なことは、古都の本当の望みは何だったのか、という一点に尽きる。
古都は何度もコウスケを誘惑して今の現実から逃げ出そうと持ち掛けてくるが
彼女の本当の望みは何だったのか。
それだけを考えれば本作品はきちんと完結している。
古都との関係はそれでもいいと思うけれど、娘との関係については不完全燃焼感がある
個人的には一つだけかなり不満がある。
タイトルにも描かれている「コウスケの娘」との関係の描き方だ。
何とも悲惨なものになっている。
そして、これについては何とも中途半端な終わりとなっている。
あくまで描きたかったのが古都の話だけであればそれでもいいのだろうがここはやはりもう少しきちんと描いてほしかった。
娘はとても頑張っていたのに救いはないのですか……
元々コウスケの娘は母の死でショックを受けた後で、父からはネグレクト同然の扱いを受けたことで父親不信&不登校になっていた。
ここからもう一度父を信じて立ち直ろうとしたところに父親は、自分の友達と恋愛関係になっていた。
そのショックを受けて再度ふさぎ込むものの、それでも6巻において、めちゃくちゃ頑張って古都に歩み寄ろうとしている。
父に対しても拒絶の意志を示しながらも話を聞こうとしていた。
しかし、二人はこの娘向き合うことも避けて逃げ出し勝手に二人の間で問題を解決して戻ってくる。
一応わずかばかりのフォローはあるが、これではあまりにも娘が可愛そうだ。
「二人でやっている行為によって傷つく人間がいる」という物語上の役割であることはわかるが、二人がどういう結末を選ぶにせよ、物語をきれいに終わらせたいのであればここはきちんと描いてほしかった。
「あえてカタルシスのない、静かな終わり方」というのは作者の選択だから良いとして「日常に戻ってくる」という選択をするならめちゃくちゃにした日常をちゃんと修復する作業をしてほしい。
7巻もかけたわりには、ほのめかし描写が多すぎて、どのキャラもあまり掘り下げられたような感じがしない。
物語の展開についてではなく、作者さんが作中の登場人物を愛してるのかどうかがわからない感じがしてそれが不安だった。
とにかく表紙の絵がやたらと綺麗に見える作品だった
それにしても本作品はとにかく表紙の絵がきれいな作品だった。
強い存在感があるせいか、平積みにしている書店が多かった。
本作がここまで読まれるようになった大きな原因にこの表紙の力があるのは間違いない。
並べてみたいのであえて全巻表示。
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2019/08/08
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2019/11/13
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2020/02/12
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2020/05/13
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2020/08/11
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2020/11/11
- メディア: Kindle版
- 作者:萩原あさ美
- 発売日: 2021/02/10
- メディア: Kindle版
(改めて並べてみるとやっぱい綺麗だなと思う。作品の絵はそこまで上手いと感じなかったが、それだけに表紙の絵はなんでこんなにきれいなんだろうって不思議に感じる)