の続きです。
「同人作家・ハイエロ」さんのサクセスストーリーであると同時に、「エロ同人の主力がCGからマンガへ、そしてFANZAからその外側へ変わりつつある」という話にもなっています。
エロ同人に興味がないとしても、こういう業界ネタ話に興味がある人には面白い話だと思うので、よかったら読んでみてください。
- ◆一度FANZA広告で取り上げられた人は同レベルのヒット作が出ないことが多いけれど、ハイエロさんはFANZA広告に頼らずに二作目のヒット作を出すことに挑戦する
- ◆2年間の苦闘の果てに大逆転勝利をつかむという展開が、少年漫画みたいで興奮する
- ◆もはやエロ同人マンガはFANZAやDLSiteに閉じた世界ではなくなってきており、その外側の方がパイがでかくなっている。
◆一度FANZA広告で取り上げられた人は同レベルのヒット作が出ないことが多いけれど、ハイエロさんはFANZA広告に頼らずに二作目のヒット作を出すことに挑戦する
上の記事ではFANZAの広告砲すげえ!という話だったのですが、個人的にはその後の話がより面白いと思ってます。
ハイエロさんの凄いところはFANZA広告での爆売れ後の体験をもとにして、今までにない方法で2本目のヒット作を出したことです。(最近の動画で「FANZA広告が作品がヒットして6万部売れた2016年よりも、2020年度の売上の方が多くなった」と発表されていました。)
ハイエロさんは「1作目で時流に乗ってヒットを飛ばした後、2作品めの大ヒットが出ない」現象を体験する
ハイエロさんは「つゆ籠り」が大ヒットした後で、同じ系統の作品を4作品ほど出しています。
この時期について「自分の中である程度成功の型ができた」という表現をされています。
実際に、次の作品も「つゆ籠り」ほどではないですが1万5000本以上売れています。同人作家として十分すぎる大ヒット作です。
「つゆ籠り」の大ヒットによってアシスタント業をしなくてもよくなり、
専業同人作家として作品作りに時間をかけられるようになり作品のクオリティも上がるようになりました。
なので、ハイエロさんの中で「このままのやり方でもそれなりのアベレージで売り上げは出せる」という見通しが立ちます。
しかし、ハイエロさんの中では「このやり方だとよくて頭打ち、悪くすればじり貧だ」と感じ始めます。
また、「自分がやりたいことがCG集だとやりきれない」という思いも抱き始めます。
もともとハイエロさんは商業でマンガを描かれていたので細かい表現などがしたかった人なんですね。
結局、2年後に「つゆ籠り2」を出したものの、さらに売り上げが下がったことを確認して路線の変更をすることになります。
「エロゲの置き換えとしてのCG集特需」は弱まりつつあるし、同人作品であってもオリジナルのものはヒットすればFANZAの外側にマンガ形式で配信されることに気づく
ハイエロさんがマンガにシフトしたのは他にも理由があります。
「つゆ籠り」などが「めちゃコミ」などに配信されるときは、CG集だったものをケータイでの閲覧向けにマンガ形式に再編集するといった過程があったようです。しかし、これは明らかにCG集と比べて顧客満足度が低い。結構批判的な感想も多かったようです。
ハイエロさんは「FANZA内で完結して考えるならCG集は効率が良いかもしれないが、その後のことも考えると最初からマンガ形式の方が強いかもしれない」と考えます。
結果を先に書くと、この考え方がドンピシャハマることになります
マンガに路線変更したものの、「迷走」状態に陥る……
とはいっても、ハイエロさんの路線変更はいきなり成功したわけではなく、むしろかなり苦難の道でした。
一度手に入れた成功パターンを崩して再度成功するのはとても難しいのは想像に難くありません。
実際、ハイエロさんはこの後4作品ほど出しますが、なかなかうまくいきません。
1作品ごとに戦略を立ててやっているのですが、「ストーリー重視」「ページをしっかり使ってキャラの内面を丁寧に描く」「表紙ではエロを押し出さない」「終わり方は女性の成長を感じさせるような読後感に」などなどの要素は確かに「Webコミックでは受けがよさそう」なのですが、「FANZAでヒットした後の展開」のことを考えすぎて、FANZAユーザーのニーズに合わない作品を出してしまいまう形になります。
今まで売れていたFANZAのニーズを意識した1作品を除いて軒並み数字が伸びせんでした。
特になろうブームを意識した「転生したらスライムだった件」のパロディみたいな作品は、フルカラー76pの作品を数か月かけて作ったにも関わず大爆死。つゆ籠り前ですら出たことがなかったような売り上げになってしまいます。
FANZAで「オリジナルマンガ」でヒットした時はもちろんものすごくリターンがでかいのですが、実際はとても難しいということがわかりますね……
◆2年間の苦闘の果てに大逆転勝利をつかむという展開が、少年漫画みたいで興奮する
この動画の32分くらいからで語られている内容です。
www.youtube.com
FANZA外を目指して種をまき続けていた成果が、1年たってサクラの花を咲かせ始める
表紙だけだとエロ漫画なのかどうかがわからない「春くらべ」という漫画が鍵でした。
春くらべ(6月12日までは90%オフセール中)
今までのFANZAでの傾向をあえて外して、最初からFANZAの外を意識して作ったこの作品は、初動で全く売れませんでした。
というよりもFANZA同人ではそのまま1年近く埋もれていたそうです。
しかし、この作品がケータイ向けコミックとして配信されだすと、あれよあれよと「めちゃコミ」「まんが王国」「kindle」などのアダルト部門で売り上げ首位を獲得することになります。取次の担当者からも「こんなに売れたことはないですよ」との声が上がったほどに売れた。それまで、FANZAの同人作家で「ケータイコミック」での露出の仕方を徹底的に考えて作った作家さんがいなかったので、ハイエロさんがオンリーワンのポジションを獲得する形でFANZA外で一気に人気作家の地位を手に入れたようです。
ハイエロさんは、もともと「一般向けマンガ」で売れなくてFANZA同人で再起をはかった作家さんだったのですが、今度はFANZA同人で評価されなかった作品がFANZA外で評価される、という流れになったわけです。
Webコミックで「春くらべ」の知名度が上がったことで、FANZA同人での「春くらべ」もじわじわと売れ始め、続編は初動で5000以上の売り上げを達成
それまで売上本数が1000くらいしかなかった「春くらべ」は、Webコミックで知名度が上がったことで、1年経ってから3000以上一気に売り上げが上乗せされることに。
そうやって読まれだすとレビューでも絶賛の声が上がり始め、さらに売り上げが伸びていくという形になりました。
ハイエロさんは「つゆ籠り」がヒットした時はこのままでいいんだろうか、と悩みましたが、今回は「自分はこの方向性でいける!」と確信します。
そして「春くらべ」の続編をしっかり時間をかけて作ることにします。
「春くらべ1」は1年かけて1000部も売れなかったのに比べ、「春くらべ2」は「1」を読んだ読者さんが買ってくれて初動で5000部を売り上げる大ヒットに。
さらに「1を読んでもらいさえすれば評価される」という確信の元で値引きセールを随時行い、最終的に「春くらべ」はFANZA同人でも24000本を売り上げる大ヒット作になりました。
1年で1000部程度しか売り上げなかった作品が翌年に再評価されて24000部に到達というのは本当にすごい!
しかも、上で述べているように「FANZA」の外側でもガンガン売れているため、「つゆ籠り」の時以上の収益につながっているそうです。
そして、とどめとばかりに先週、製作期間8か月をかけ、絵柄もさらにブラッシュアップさせたシリーズ完結作「春くらべ3」を販売開始。こちらも初動で5000部を達成しそうな勢いになっています。
完全に覚醒状態に入ってますね。
※ちなみに「春くらべ」の作品のコンセプトは「俺だったらスクールデイズのシナリオはこうしてた」という、「ハイエロ版スクールデイズ」なのだそうです。
「スクールデイズ」は最後の終わり方が劇的過ぎて女同士の殺し合いとか「誠氏ね」ばかりが話題になっていますが、「春くらべ3」は「二股男」をもっと丁寧にえがくとどうなるのかを突き詰めた作品になっています。他にも「ロードサイドの高校生の生活」や「貧困問題」などいろんな要素が込められており、とても読みごたえのある作品になってます。
ハイエロさんの話はさらに続きがあります
ハイエロさんは今後の同人作家さんは「プロデュース力」がこれまで以上に求められると考えており、
視聴者の中から希望者を募って「売れてない同人作家をプロデュースしてピコ手を卒業させる企画」にリアルタイムで取り組んでいます。
自身も同人誌を描かれている人には参考になる話が多いと思うので動画をご覧になってみてはいかがでしょうか。
◆もはやエロ同人マンガはFANZAやDLSiteに閉じた世界ではなくなってきており、その外側の方がパイがでかくなっている。
ハイエロさんの場合、作品の傾向の関係もあって、もはや「FANZA外」の方の割合の販売部数の方が大きくなっているそうです。
また、こちらの記事でも書いたように、「カラミざかり」は「FANZA広告でブーストをかけまくったにも関わらず」、FANZA・DLSite外で倍売れていることが分かっています。
というかですね、「カラミざかり」の作者・桂あいりさんは、もともとFANZA外ですでに人気を獲得していた作家さんでした。その作家さんがFANZAで作品を出すというのでFANZAが猛プッシュしたという流れになっています。今まではFANZA同人のなかから有望な作家をピックアップしていくという流れがあったと思われますが、今後は「すでにFANZAの外で成功している人がFANZA広告の後押しを得ながらFANZA同人のランキングを荒らしまくる」という展開が待っているのではないかと思います。
そういう意味で、FANZA同人の世界はここ数年上位勢が固定されていてちょっとつまらなく感じていたのですが、一気に勢力図が塗り替わるかもしれず、とても興味深く思いながらチェックしています。
それにしても、こういう話は結果を見れば「まぁそうかな」って納得しちゃいそうですが、
そうした変化やチャンスを認識してもそれを実際にモノにできるかどうかはまた話が別です。
ハイエロさんの場合、一度FANZAでつかんだ成功のパターンをを否定し、さらにリスクを取ってチャンスをつかみに行ったというのが本当にすごいですよね。
こういう「業界内でドラスティックに変化が起きている」という話、めっちゃ面白いと思うんだけどどうでしょうか?
ここまでの話は「電子書籍サイト」の流れをうまくつかんだ作家さんの話でした。
さらに、これはハイエロさんの話とは別で私の観測の話なのですが、
東京オリンピックとコロナの影響、そして新しいサービスがどんどん生まれてきている中で
最近は若い人を中心に「新興勢力」が台頭してきてきています。
このあたりも需要があるようであれば記事にしたいなと思っています。