評価★★★★(個人的おすすめ度★★★★★)
「goodアフタヌーン」連載作品ですが、すでにすごい大作感があります。ぜひ思ったところを最後まで描き切ってほしいので、この作品については連載が続くことを願って、新刊が出るごとに紹介を続けたいと思います。私のマンガチョイスにちょっとでも信頼置いてくれてる人なら、だまされたと思ってまず1巻読んでみてほしい。
- 作者:泉光
- 発売日: 2018/04/06
- メディア: Kindle版
本作品を知ったきっかけ
こちらの作品については須藤玲司さんという方が毎号紹介されているのを見て初めて知りました。紹介がなければ自分では手に取らなかった作品だと思うのでとてもありがたいです。
泉光『図書館の大魔術師』が超絶おもしろくてびっくり。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2018年4月12日
ものすごく緻密に描かれた、中央〜西アジア風の書痴ファンタジー。原作の存在はまったく確認できず、たぶんフェイクでしょう。
こんな完成度のオリジナル漫画がなんかいきなり出てくるとは、漫画読み冥利に尽きます。 pic.twitter.com/3z3N44rJQW
自分がこれは読まねばって思ったのはこのあたりのツイートからです。
泉光『圕の大魔術師』、今月号で本当に驚いた小さなコマ。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2018年7月10日
「友愛児=混血のこと」なんていう新概念を、しれっとぶっこんできています。
生まれ故郷の田舎で深刻な混血差別に苦しみ抜いてきた主人公が、大都会の図書館では偏見にさらされない、そんな長い物語を「友愛児」の一言に盛り込んでいます。 pic.twitter.com/hFUAuKBU8O
泉光『圕の大魔術師』今月号。
— 須藤玲司 (@LazyWorkz) 2018年10月8日
イスラム圏に似た文化で、女性は普通ヒジャブをかぶるヒューロン族出身の少年が、露出度の高い猫耳民族・クリーク族の少女と出会い戸惑う。
その後、服装文化の違う少女に「痴女」と侮辱的なあだ名をつけたヒューロン族の女性と、少女の名誉のために戦います。凄い話。 pic.twitter.com/27MieEIlQ1
やっぱり人がいいって言ってる本はエイヤ!で読んでみるべきですね。 ありがたいことにほかにも紹介していただいてる作品たくさんあって、精神の不調もあって積ん読状態にしておりましたが、これをきっかけにまた読んでいこうという気力がわいてきました。
1巻丸々使って、「ONE PIECE」の第一話を丁寧に丁寧に描写してる感じがする。ONE PIECEを読んだことがある人はぜひ意識しながら読み比べてみてほしい
実際に読んでみたら、この作品は超王道の少年漫画でもあります。
「社会的な要素」を描いてるだけではなく、
何よりも主人公の少年のビルドゥングスロマン(成長物語)になってます。
「僕は、この村(せかい)が嫌いなんです。
学校のみんなが嫌いです。助けてくれない大人たちが嫌いです!
ほかの人と違う自分の耳が嫌いです!
色の違う肌と髪が嫌いです!
お姉ちゃんに苦労をさせてる僕が嫌いです……
僕は何もできない自分自身が、大嫌いです……!
だから、僕は、<主人公>を待ってるんです……
いつか僕の前に、この世界から連れ出してくれる主人公は現れますか?」
貧民街育ちの上、なぜか長耳の少年は差別に苦しめられながらもいつか地平線の向こうにある「本の都」に旅立つことを願います。そして、そんな主人公のもとにやってきたのは海賊ではなく、世界の未知なる書をすべて一つに集めようとする図書館の司書でした。
最初主人公はこの司書が自分を今の世界から連れ出してくれることを願いますがそうではなく、自分自身が主役として世界に飛び出していくことを決意することになります。
このあたりの展開は「ONE PIECE」といささかも変わらない熱さがあります。というより、明確に「ONE PIECE」を意識していると思う。
少年よ!世界は君の想像もつかないことで溢れているんだ!!
本にはね。
あらゆる者の一生を大きく動かす力がある。
それはとてつもない力だ。
だから司書はこの力をすべての人に届ける義務があるし
すべての人はこの力を受け取る権利がある。
「本が読みたい」
その言葉がうれしくて、私の心は震えているんだ
出会うべき人に出会ったことをきっかけにして、最初己の無力さを嘆いていた少年の生活に変化が生じます。ある時人を守るために勇気を出して行動します。そういう力が自分のなかにあることを知るわけです。
勇敢は、無謀とは違う。
自分の持てる力も計れずに無茶をすることを勇気とは言わない。
それはただの無謀であり、ただ愚かなだけだ。
けれど、たとえ愚かと言われようと。
立ち向かわねばならない時が、主人公にはあるよね。
そしてさらに、この時に司書と交わした会話をもとに自分が行くべき道を選び、書をめぐる知の世界に冒険に出かけることになります。 そこで差別とかと闘いながらも仲間を見つけていくんでしょうね。
冒頭の会話はこう続いています。
「主人公は現れたりしない。誰の前にも、決して」
「……」
「なぜなら、君の眼に映る景色は君だけのものであり
ほかの誰の目を通しても見ることはできないからだ!
君が名乗らないからあえて聞かなかったけれど。
私は君の名前を知らない。
耳長なんかじゃない名乗らなければならない君だけの名前があるはずだ」
「シ…シオ…フミス!」
「(うなづきながら)これより長い長い物語が始まる!!
君がこれから紡ぐ冒険譚だ!
開かれたその見開きには何が写るだろうか!
眼をそむけたくなる箇所もあるかもしれない!
けれど!どんな時も!ページを進めるのは自分自身の手に他ならない!
シオ!主人公は君だ!己の力で物語を動かし! 世界を変えろ!!」
このあたりの描写は広々とした光景をバックに描かれ、
世界の広がりを感じさせるため、読んでいてすごくわくわくします。
そんなわけで、最初は幼い主人公の弱さとかにイライラするかもしれませんし、うんちくとか、世界観の説明がちょっと長ったらしくて苦手って思うかもしれませんが……1巻を丸々オープニングに使うくらい気合が入った少年漫画です。ここまで読めば続きがよみたくて仕方なくなると思う。 私も今1巻読み終わったところで感想書いてますが、はやく続きの2巻が読みたいです^
- 作者:泉光
- 発売日: 2018/11/07
- メディア: Kindle版
- 作者:泉光
- 発売日: 2019/08/07
- メディア: Kindle版
おまけ
「書」をテーマにした物語としてはすでに「シュトヘル」という傑作がありますが、この作品がそれを超える地平まで描いてくれるか、本当に楽しみです。ほかにも書をめぐる歴史ものがたりってなんかあったかなー。
- 作者:伊藤悠
- 発売日: 2013/03/05
- メディア: Kindle版