この件について記事で説明しようと思ってたらすでに説明されてしまった……。
ヴィクトリアズ・シークレットが多様性を受け入れたからブランドの価値が落ちたと言う趣旨のツイートが目に付いたので、下着デザイナーとして、そして元マーケティング院生として本当は何が起きたのかまとめました。
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
結果から言ってヴィクトリアズ・シークレットが今落ち目のブランドになってるのは、 pic.twitter.com/zLgiQoQiEQ
マーケットの反応に鈍感で多様化が遅かったから。
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
多様化の波に乗り遅れたVSは多様化を押す競合ブランドに先を越されて客が流れ出てしまい、 自己喪失 + 競争上の優位さも失って、慌てて多様化するも既に手遅れで特に特徴の無いブランドに成り果てたから。
【原因1: 消費者の変化】
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
初めに、VSは多様化したから人気が無くなったのではない。VSの株が落ち始めたのは2016年で、ボディーポジティビティが注目を受け始めた事と関係がある。消費者がエンジェルに憧れは持っても現実的な体型との差があってVSのブランドイメージに共感を持てなくなったのが主な原因
【原因2: 社内不祥事】
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
当時のVSの会社の取締役会構成は、ほぼ男性メンバーだけされており、次々明るみになるセクハラの告発に続いて、モデルを選ぶ基準が男目線で時代遅れなルッキズムやミソジニーな発言に、消費者である女性から沢山落胆や反発の声が出た。 pic.twitter.com/JIXvde06L7
【競合相手に市場を奪われる】
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
VSのブランドの在り方に物議を交わしてる間に、女性が女性の為に作る下着会社、多様性を重視するブランドが次々と生まれてどんどんお客さんがそっちに流れて行く。
主な例としては Savage X Fenty. pic.twitter.com/Mle3M0EyuZ
売り上げが下がる一方、VSショーも視聴率が低迷していたため 2018年のVSショーが最後となる。追い打ちを掛けるようにSavege X Fenty のショーが2018年から始まる。 pic.twitter.com/7bbIOJla5P
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
VSは会社の取締役会の入れ替えを行い、方向転換して業績回復しようにも競合ブランドに市場を奪われてしまっているので手遅れ。VSは後に株の大半をプライベート会社に売っているので、名前は同じでも中身は全く別物のブランドに変化。現在に至る。
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
私としては、消費者のニーズにもっと敏感だったら上手く舵取りして、元々のセクシー路線と多様性をすり合わせたらもっと面白いブランドに進化出来てたかもとは思う。他ブランドに揚げ足取られてるの見ると、如何に消費者のニーズに耳を傾ける事が己の性癖を優先するより大事かと言う事が分かる
— けい@ロンドンの下着職人👙 (@lilbluecamellia) 2023年1月10日
ままええわ。私より詳しい人がしゃべってもらう方がいいに決まってるので。
ただし、ヴィクトリアズシークレットは22年度はアフターコロナの中で業績が急回復しています。コロナ前後は数字の正しさが判断しにくいので問題なのは来年度ですね。現場の人の肌感覚は大事ですが、それはそれとして全体については数字で見たいところです。
www.nikkei.com
というわけで、ここから下が上のツイートを読む前に下書きにしてた部分です。*1
ミリしらから10分ググった程度でわかるヴィクトリアズシークレットの流れについて
◇まずヴィクトリアズシークレットの変遷が敷衍できる記事を読みましょう。
www.businessinsider.jp
「バストアップブラ」のアイデアで全米一の下着ブランドに。
1997年ころに「Angel」のブランドイメージができたようです。
https://t.co/6fiV3zIMFE
— Yudi 🪷 Onlyfans (@BERRIEDALIVE) 2023年1月9日
この方の動画が歴史にも触れるのですごくわかりやすくておすすめです!
◇2014年ころから大きく流れが変わりつつありましたが、2015年ころはまだ業績が好調だったので方針転換はしませんでした
2014年、アメリカン・イーグルの下着ブランドAerie(エアリー)は、広告写真に無修正の写真を使い、#AerieRealというボディ・ポジティブキャンペーンを開始した。
◇2015年をピークとして苦戦するようになる
www.fashionsnap.com
strainer.jp
①どのくらい業績が悪かったのか。そして、それはなぜかは専門家がちゃんと説明しています
digiday.jp
②ファッション雑誌でも2016年ころからの需要の変化について解説がされてますね。
www.elle.com
「大学生を始め若い世代がランジェリーにセクシーさよりも快適さや自然さを求めるようになった」と分析。ヴィクシーの「過剰にセクシーなランジェリーよりも、もっと多様な体型を受け入れるブランドを客が選ぶようになった」
その結果として2016年くらいから社長が変わったけどその社長も引退。相当苦しかったようです。
③2018年度から大きく方針転換
www.businessinsider.jp
1. 比較的ふっくらとした体型のモデルを採用
2. 初めてトランスジェンダーのモデルを採用
3. 親会社Lブランズの長年にわたるマーケティング責任者で、毎年恒例のファッションショーのクリエイティブ・ディレクターでもあった人物が辞任
4. 2019年のファッションショーの中止を発表
上の人が言われてたのはこの辺りですね。
要するにこのあたりのごちゃごちゃでLブランズ(ヴィクトリアズシークレットグループ)への興味がちょっと薄れたのだと思います。
④その方針転換がすぐに受け入れられるわけではなく「特に男性客から」不満が多かったようです。
world-fn.com
www.businessinsider.jp
女性客のブランド再生に対する反応は今のところ良いという。また、ウォーターズ氏によると、ビクトリアズ・シークレットはセクシーなイメージやランジェリーを全て捨てたわけではない。
「今でも刺激的な商品は売っています」とウォーターズ氏は言い、バレンタイン向けのコレクションは「気後れすることなくセクシー」なものだと付け加えた。
「わたしたちにとって、これはバランスの問題です」とウォーターズ氏は語った。
「ただただセクシーというより、女性の生活のあらゆる側面を支持しているのです」
⑤2022年は方針転換がある程度実を結ぶ形で業績が回復に向かっている
weekly-economist.mainichi.jp
ヴィクトリアズシークレットの問題を考える上でLブランズ総裁の「レス・ウェクスナー」は非常に重要
彼は「人種差別企業」として全米でバッシングを受けた「アバクロンビー&フィッチ」の最大の支援者でもありましたね。
この人は、エプスタインへの関与で退任していますが、このイメージの悪さもすごく重要だったと思います。
ウェクスナーは当初、エプスタインの犯罪行為について知らなかったと述べていた。しかし、その後、エプスタインが女性に言うことを聞かせるためにヴィクトリアズ・シークレットとのつながりを利用したことが明らかになっていた。
まさにαオスの中でも親玉という感じの人でした。
「ホワイト・ホット」はマシュマロで教えていただいてみた映画なのですが、すごく面白かったのでぜひ皆さんも見てほしいです。
いずれにせよ、企業の衰亡はアンチフェミの方が言ってるような一次方程式で解けるような簡単な話ではないと思います
www.tyoshiki.com
www.tyoshiki.com
企業について数字で見るの楽しいよ。みんなもやろうZE!
蛇足
←元のVictoria's Secret
— 新居和樹🖊 (@kazki_arhai) 2023年1月8日
今のVictoria's Secret→
体型に関しては言及すること自体、タブー視されつつあるので投稿しようか迷ったが、昨今の多様性推進は少し方向性が誤っていると思うのと、一晩経ってもモヤモヤが消えなかったので書かせてもらう。 pic.twitter.com/U3V5bvtybU
体型に関しては言及すること自体、タブー視されつつあるので投稿しようか迷ったが、昨今の多様性推進は少し方向性が誤っていると思うのと、一晩経ってもモヤモヤが消えなかったので書かせてもらう。細さを追求しすぎて絶食するモデルも居たし、社内でセクハラやパワハラをしていたと告発もあるので、これらの修正すべき問題が沢山あることも事実だった。ただ、本来是正すべきは社内文化であり、ブランドのコアである「スタイル抜群なエンジェル達が着るセクシーな下着」からの脱却ではなかった。
恐らく、社内の膿の浄化は、過去の成功要因も同時に否定しているように感じ、Victoria's Secretの様な企業には難しかったのだと思う。その結果、「世の中の変化」と外部環境を言い訳にできるブランドのコアの変更だった。そして出来上がったのが「多様な体型を受け入れる」なんの個性も無いブランド。一見素晴らしい理念だが、そんなブランドならファッションセンターしまむらにでも行けば良いし、Victoria's Secretの様な高級ブランドである必要など全くもってない。美しいエンジェル達に憧れ、努力した先に着れる特別なブランドだからテンションが上がったし、高い対価を払う価値があったのだ。Victoria's Secretがやるべきだったのは、エンジェル達にトレーナーを付けて健康を害さずに美しくなる手助けと、企業文化の浄化、モデルの多様性は人種や宗教、LGBTQ等の垣根を超えて、食事と筋トレをしっかりとした女性達を採用することで確保し、体型の多様性を受け入れることではなかった。
これは消費者側の問題でもあるが、「多様性の尊重」とは、Victoria's Secretの様な尖ったブランドを尊重することでもあり、万人ウケするブランド以外を拒絶することではない。本来、個性を尊重することが大切なのに、この根幹部分を忘れ、個性を無くすことが称賛される現状には違和感がある。そもそもVictoria's Secretには特定の体型だけを称賛するなと言うのに対し、ぽっちゃり体型向けのブランドに対して、細い人もいるのだからそういうラインアップを準備しろと言う人はいない。Victoria's Secretを特定の体型だけを称賛していると非難した人達がそれをしないのは、大きな矛盾ではないか?
Victoria's SecretにはVictoria's Secretの美の世界観があった。その世界観の肯定は、その他の否定を必ずしも意味しないことを我々は理解し、真の意味で多様性の尊重がなされる世の中になって欲しい。年齢・人種・宗教・性的指向等、本来の評価軸と異なる点が評価対象にならなければそれでいいのだ。
まさにこの人が言ってる方向を採用して大コケしたあと涙目で方向転換したのが「アバクロ」なんだよなあ…。
*1:当初はアンチフェミ批判も書いてましたが、ほとんどの人にとっては読んでも不快になるだけでしょうし、今年は無駄な争いは避けたいのでその部分はnoteの「王様の耳はロバの耳」コーナーでつぶやくだけにします