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RIZAPグループの2018年2Q決算資料感想(その2) RIZAP劇場を楽しむためには「負ののれん」の理解が必須

RIZAPの今回の決算は、長い映画のクライマックスを見ているような高揚感があります。

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©ショーシャンクの空に

6年間で株価100倍 → 1年間で5分の1へ

RIZAPは2013年3Qから2018年4Qまでの間に、売上を9倍、利益を20倍に拡大してきました。

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2018年はさらに売上2倍を達成する予定だった

2013年1月の時点で15円だった株価は2017年11月に1545円となり、わずか6年足らずで100バガーを達成します。

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優待目当てでRIZAPを持ち続けてた人が続々金持ちに

そしてその後1年間で株価が5分の1になりました。

このドラマチックな展開の当事者が現況を丁寧に解説している決算説明書が面白くないはずがありません。
www.rizapgroup.com

ただし、この決算をもっと楽しむためにどうしても理解しておかないといけないのが「負ののれん」の仕組みです。もとはといえば、ライザップのここ3年あまりの常軌を逸したレベルの成長は、「負ののれん」を軸としているからです。

じゃけん、負ののれんについてザックリとでいいので感じをつかんでみましょうね~。



これがRIZAPだ!=売上1360億、営業利益135億なのに営業CFが0.87億の怪

www.cpayossama.com

営業利益は135億円でていたはずですよね。なのに、営業CF(実際に事業の利益でお金が増えた分)のはその155分の1である8,700万円金額だけ。

会社の業績を見るとき、絶対に無視してはいけないのが営業CFです。「これがRIZAPだ!」というものを語れるのはあくまで本業でどれだけ稼いでるかによります。経常利益や当期利益よりも、よほど雄弁にその会社の強さを語っている場合が多いです。BSを読めないという人でも、とりあえず営業CFは単体で見れますから必ずチェックしなければいけない(ごめんなさい、やってません><)


そしたらいきなりとんでもない数字が出てきました。営業活動では1億円しかプラスになってない!

利益とキャッシュの動きが全く整合していない
・店舗型ビジネスで大規模な減損損失を計上しているような場合は儲かっていない店舗がかなり多いです。
そのような状態で、RIZAPが子会社化してから短期間で営業利益が一気に良化している
しかし金は減っている

・現状は営業CFが全然増えない分はほとんど銀行借入と増資でまかなっている
・本業以外で調達したお金で配当も行っている
・PLの数字が悪くなって銀行や株主から資金調達を行えなくなった場合は、最悪の場合、倒産といったこともありえる

PLの数字だけでなく営業CFを見ることでこれだけのことが分かるわけですねすごい。じゃあ、本業で儲けてないRIZAPは何で利益作り出してるんだ、というところの答えがこの「負ののれん」なわけです。



負ののれんとは会計制度の基準さを利用した「利益の先食い」のための会計トリックであり、その後の副作用はかなり重たい=打つとシャキっとできる「覚せい剤」みたいなものであり、常習すると……

つまり、間違っても「年間利益の半分以上が負ののれん」なんて企業はまともではない。 なぜならその見せかけの利益は翌年度以降減っていき、逆にマイナス要素(運営に関して生じる費用)が浮き上がってくるからです。


つまり、毎年巨額の負ののれんを計上している会社の場合こんなきれいにプラスが積み重なっていくはずがないってことです。積み上がってるとしたらマイナス要素の認識を延々と先送りしてるってことでありどこかでドカンと計上しないといけない羽目になります。

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あくまでIFRS制度ではマイナスの計上を先送りにしてプラス先食いして、損失の形状を数年先送りにできるだけ。タイミングのズレを利用した会計トリックです。もちろん数年以内に完全に再建できるならマイナスの認識は費用程度で済みますが、大抵の場合はどこかでそのマイナスもちゃんと表に出さなければならなくなります。

そのごまかしきれなくなる(あるいはごまかすのをやめた)タイミングが今回だった、ということです。

もし、この先送りしてきたマイナス要素の積み重ねが取り返しのつかないところまで進んでいた場合は、もはや会社ごと破裂してしまうしかないわけですが、果たして今回の膿出しはタイミングとして間に合ったのでしょうか?



そもそもこの「負ののれん」が「悪用」されやすいのはなぜなのか=PLしか見ない投資家が多いからじゃね?

まだ会計基準差を無視して投資しているの?あなたがPERで失敗する理由【のれん償却・減損損失】 | 会計ステーション

日本基準では、よっぽどのことがない限り資産が時価よりも安く買えることなんてないでしょうということで特別利益になります。
一方でIFRSやUSGAAPは、そもそも特別利益という概念がほぼないので営業利益の中に入っています。
これを巧みに利用して成長を見せたのがRIZAPでした。前期は営業利益136億のうち実に74億円が負ののれんから生まれました。

引用しませんが、上の記事で重要なのは「減損テスト」の部分です。アメリカではこの減損テストが厄介なので、たとえ負ののれんが計上できるとしても、やばい会社の買収を連発するようなことがないのかもしれません。またこのようにも書かれています。

いちいち計算するのめんどくさいわ!と思われた方は素直にEV/EBITDA倍率を使えば問題ないです。下記記事でも書きましたが、今の時代PERは基準差の影響で使いづらいんですよね。

結局、日本で負ののれんがこんなに「悪用」されてしまうのは、日本の投資家がEV/EBITDA倍率ではなくいまだにPERで企業価値を図ろうとするからだということですね。


M&A買収で成功してきた企業は、負ののれんにはこだわらない

このあたりは下手に語ると死にそうなので黙っておきます、、、


「負ののれん」狙いのM&Aが常習化すると、グッドウィルライブドアみたいになる、ってそれ一番言われてるから!

(1)とにかく会社規模を拡大し株価を釣り上げるために「企業買収それ自体が目的になってしまう」ため、バリエーションやデューデリジェンスがまともに機能しなくなり、気づいたときには手遅れになる(グッドウィルティーン)


(2)監査法人が監査しきれなくなったり、親会社の経営陣が子会社の状況を把握しきれなくなって「その気がなかったとしても」違法行為をやらかしうるガバガバガバナンスになる(ライブドアティーン)

未だにライブドア無罪論を唱える人いますが、あくまでオリンパス東芝と比べて罰が重かったというだけで、普通に違法行為は存在したところまで否定したらだめだし、また故意じゃなかったといわれても、そういう事態が容易に発生する環境を放置してた経営陣には大きな責任がありますよね。

(3)自転車操業というか「泥棒を捕まえてから縄をなう」みたいなやり方で人材確保が間に合わないとアウト

飲食業が従業員確保で苦労しているのだとすると、こちらは優秀なマネジメント人材を確保しなければいけないので、より難易度が高くなります。決算説明会において松本さんは「一人の人間がいくつもの会社の経営に関わっている状態はまずい」と指摘しておられました。つまりすでにい経営立て直しができる人材が不足した状態になっていたようです。そんな状態でさらに100億以上の負ののれんが得られるレベルでのM&Aをやろうとしてたのだから、もう完全にブレーキがぶっ壊れてますね。


この結末は、かなり多くの人からあらかじめ予言されていたが、それでもブレーキを踏めず、むしろ全力でアクセルを踏んでしまったRIZAP

この記事は2年前の記事ですが、今回起こった結末についてかなり正確に予測されています。
gendai.ismedia.jp

先ほど上で引用した記事でも、1Q時点ですでに「これ大丈夫か?」と警告を発しておられました。
プロであればあるほど、RIZAP\(^o^)/オワタ、とおっしゃっている方が多かったように思います。



ここまで正確ではなくても、RIZAPをライブドアに例える声は以前から多かったですよね。なぜかというと、このやり方はRIZAPグループが初めてではないからです。同じようなクソ会社はたくさんあった。ライブドアも、グッドウィルも、同じようにして急拡大しそこから経営が逆回転したり、違法行為を指摘されて一発退場、ということがあった。 

もちろん、RIZAPの瀬戸さん自身だってもちろん自分たちのやり方がどこにたどり着くかは百も承知だったと思います。その1で述べたようにクレイジーではあるけど、彼のクレイジーさはアカギのそれであり、生き残るためには何が必要かは良くわかっていたはずです。それでも、松本さんが来るまでは誰もブレーキを踏めなかった。というか、むしろさらにアクセルを踏み込もうとしていた。それだけ、この「負ののれん」の短期的な威力はすさまじいってことです。

RIZAPはこの先生きのこれるのか(子会社売ればなんとかなるという意見)

RIZAPが生き残れる道はまだ残っています。RIZAPは株価が高騰していた高値圏において、しっかりと公募増資を行うことができたからです。(そーせいにはできなかったやつ)。2018年6月に2027万株のPOを行い、さらにWC買収時には第三者割当も行っています。ここで市場から300億円ほどの現金を調達しています。これがなかったら死亡確定でしたが、とにもかくにも増資をやり切ったのがでかい。これは本来今期さらなる買収を行うために調達したものであることは確定的に明らかですが、松本さんがRIZAPに入ったことにより、新しい買収をストップし、これを「ダイエット(リストラ)だけでは立て直しが困難と判断される企業」の減損処理に使うことにしました(決算資料では構造改革費用としています)。

このため、グループの立て直しに使える現金が570億残っています。もちろん今までの銀行借り入れ全て短期負債と長期負債を併せた額よりは小さいため、いきなり銀行から貸しはがしを食らったら即死しますが、しかし事業の立て直しさえ可能であれば銀行も普通に返してもらった方がマシですからやらないでしょうたぶん。つまり、減損の額を抑え、かつ残った会社でしっかり営業CFが得られるようになり、過剰な借り入れや市場からの資金調達無しでも事業が回せると「銀行と投資家が納得しさえすれば」生き残ることは可能です。

ただ、今の多くの事業の利益は、市場から調達した資金による広告ガンガン打ちまくり攻撃が前提になっています。資金が苦しいからと言って広告を減らしたりやめたりしたときに、それでも営業CFをプラスで回せる事業がどれだけあるかは未知数です。とにもかくにも今までばらまいてきた広告費がちゃんと根付いていれば良し。逆に今回の件でブランドイメージ悪化や倒産懸念などがあって事業環境が悪化するといろんな意味で厳しいです。



RIZAPはこの先生き残れるのか(銀行はRIZAPを許さないかもしれないし、生き残ってもクソ株化は免れない派)

t_taniyanさんの一連のツイートを引用します。

小さな会社でも業績立て直すのに手間掛かるし、買収しすぎて立て直し対象は多いし、まだ明確な結果は現れてないし、資金は減り続けるしCM止めたら客減るし、カルビーの人は今頃頭抱えてるのでは。止まったら死ぬタイプの経営されてますしね。仕方ないですかね。

https://twitter.com/t_taniyan/status/1062594725734019072

終わりの始まりや。松本さんを手なずけられなかったRIZAPは、高給で雇った子会社の社長、システム責任者など、みんな蜘蛛の子を散らすように離脱するでしょう。求心力を失えば、そこにロイヤリティなど誰も持っていないのですから。銀行の態度も変わります。ロールオーバーに応じても条件が大幅に悪化、もしくはそこで打ち切り、回収モードに入る銀行もあるでしょう。

「俺たちには資本市場がある!株券刷ったらええんや」と言っても、時価総額は下がり、市況はすっかり冷え込み、しかもアンビシャスです。「上場子会社売りませんか?」と、証券会社は「この会社買いませんか?」と日参した今までとすっかり逆の立場で、今度は虎視眈々と売却のFAを狙って、毎日のように売り込みをかけてきます。たくさんの買収と合わせ、中途で多くの従業員を雇い、都度紹介料を払ってきたのに、今度は一転リストラです。今のうちにと、真っ先に逃げ出す人もいるでしょう。その間も個人投資家からのクレームの電話はひっきりなしに掛かってきます。一言で言って毎日が地獄です。耐えられない人もいることでしょう。今日この瞬間からのRIZAPの社内の様子が、手に取るように浮かびます。


https://twitter.com/t_taniyan/status/1062636418684530688

RIZAPは発表前からすでに切り売り始めてたらしい。決算でインサイダー解禁待って情報入ってきた。これ、騙す気満々に見えるやろ?違うねん。酔うて経営のこと考えてたら、俺にもできるんちゃうんって誇大妄想広がって、実際に資金調達できたら会計上の利益出て株価もアホみたいに上がって、止められへんようになってしまうねん。騙す気あったら、こんな面倒なことせんし、さっさと株売って利益確定するよ。

https://twitter.com/t_taniyan/status/1062828600561287168

古代から世の中のクソ株は未実現のM&Aを業績予想に織り込み、株価上昇を煽りますが、未達となり下方修正し、やがて死んでいきました。RIZAP、昔のクソ株社長がアドバイザーやコンサルで付いてへんやろな?手口が全部同じなんだけど。 私の知っているクソ株社長も、独立前は多くの小売業のコンサルで実績を上げ、着実に事業を進めるタイプに見えましたが、上場し大金を得て、株価上昇しメディアや投資家に持ち上げられ、人が変わったように、何かに取り憑かれたかのように、破滅への道を自ら進んで行きました。これ12年前の新興バブル崩壊の時にも見たやつや。引っかかる奴は時代超えて引っかかる。ついでに、RIZAP社内は電話回線パンクするぐらい個人株主からの電話殺到してるんじゃないか。

RIZAPの社内情報めちゃおもろい。風向き変わって傾いたのって社外で認識するよりもかなり前だったみたいだな。動きを見ると、1Qの時点ですでに銀行から激詰め入ってたようだ。すでにありとあらゆるものが担保に入るか、担保の候補としてリストアップされてるだろう。

RIZAPのターゲットプライスは100円かな。もちろん、乱高下はするだろうし、時間はかかるけど、半年で全然別の銘柄みたいになってると思う。RIZAPの子会社売却シミュレーションを暗算でやってるけど、売却益が出る銘柄が少ないな。再生出来ずに赤字で連結簿価が下がってる銘柄もあるだろうけど、益が出てもしれてる。RIZAPの保有簿価は購入価格+期間損益の合計な。これ、資金ショート案外早いぞ。手元現金の確保優先でうまく回さないと。具体的に言うと、現状の手元資金で短期借入返せるけど、ロールオーバーに失敗するとそこからは毎日が綱渡り、足元が赤字で先が読めないので、担保大量に突っ込んで、金利上げてようやく借りられるレベルで、見通しは結構厳しいと思う。

こういう話が面白いと思える人にはWorld End ECONOMICA超絶おすすめします!是非読んで!

RIZAP一社ですらこれだけのドラマがあります。こういうドラマが面白かったと感じた人には、さらにエンロン事件やリーマンショックを題材としたラノベがあるので是非よんでみてもらいたいです。

特にゲーム版がオススメでござる。

ゲームじゃなくて現実の方がいいという人は「世紀の空売り」とか「リーマンショック・コンフィデンシャル」をどうぞ。
tyoshiki.hatenadiary.com



えーと。長々と書いたけどこういう話って興味ある人どのくらいいるのかな。「負ののれん」の話を踏まえたうえでいよいよ実際の決算説明書をみてみよう、という「その3」には需要ってあるのかな…