読むなら最低でも3巻まで読もう!
最愛の妻を亡くし、気力を失って抜け殻のように生きてきた男とその娘の家に小学生になった妻が戻ってきたという話。
ちょっと違うけど、昔読んだ東野圭吾の「秘密」(こちらは妻が娘を上書きする形で蘇ってしまうという話)が好きだったのでこのコンセプト自体は別にいいと思うし、1巻の間はいくら妻が好きだったからと言って常識がなさすぎる夫にやきもきさせられる程度だったのだけれど……。
1話~3話くらいまでがめちゃくちゃよかっただけに4話から17話くらいまでの展開がすごいモヤモヤする。でも、逆に1話読み切りだからこそできるいいところ取りの寓話的な話だったものを、少しずつドラマ的な、現実的な話に落とし込もうと過程での試行錯誤が感じられて興味深い作品でもあるなと思います。
1巻~2巻は読んでてイライラすることが多いです
急に生まれ変わった妻の母親が毒親というとってつけたような設定が付与されて、それでいて、その設定がすぐ後ろに引っ込んでしまうなどつぎはぎ感が強くて読んでてちょっと気分が萎えてしまう。
いや、設定自体は最初から考えていたのかもしれない。「親が育児放棄しているからこそ頻繁に夫の家に行ける」という設定自体は理解できる。ただ、それまでに全くそれをにおわせる描写がなく、明らかにそこまでの話で、そのエピソードをキャラクターに持たせてなかった。
他にも「その1話」限りなのか?と疑いたくなるような設定がちらほら出てくる。「1つの作品として」みたときに2巻で急にいろいろと設定をいじったんだろうなと思われる個所が多く読んでいて非常に混乱した。私は作品のリアリティはこれっぽっちも気にしないけど、作者が自分の設定を大事にしてないのは好きじゃない。 本来キャラクターが持っているはずの設定が普段のキャラクターの所作に反映されていないのはそれまでのキャラクターが急に別人になったみたいで気持ち悪い。こういう「前世の記憶」みたいな作品だからこそ、そこは丁寧にやってほしかった。
そもそもの問題として、夫と娘が妻の現在の家庭状況を全く考慮しないというのが理解できない。嫌な設定を出しておいて、それを妻だけに背負わせて夫と娘がいい人のような感じでふるまっているその空気が受け入れがたい。
私、また当たり前に一緒にいる三人に……家族に戻りたい
うん、だからこそ、その障害となっているものをちゃんと考えようよ。夫と娘があまりに考え無しで「小学生になった妻」に何もかも依存している構図がすごく嫌だ。
まだお互いに現在の状況が奇跡だと思っているから、そういう長期的・具体的なことを考えないようにしてるんだというのならそれはそれでわかるけれどそれならそれで、「小学生になった妻」にだけ背負わせるってのはどうなのよ。
もめた後の解決策も「心がぶれなければ大丈夫」と結婚届を三人で書くという子供じみた対応になってる。
そうじゃないでしょ……夫くんさぁ…あなた40代後半なんでしょ。なんでこんなにふわふわしてるの……。これ絶対「参謀」キャラがいないと話として詰みそうなんだけど大丈夫なのか?

- 作者:村田椰融
- 発売日: 2019/04/16
- メディア: Kindle版

- 作者:村田椰融
- 発売日: 2019/06/13
- メディア: Kindle版
ベスト50位に入るレビュワーの「くまじ」さんの感想はとても興味深い
納得がいかないのは、自分の眼前に在る身体は「他所んちのガキ」以外の何者でもないのに、親父にそう言う配慮が全く感じられない。かなり困った事態に陥るはずだが、そうならないのはおそらく小学生女子が虐待されているっぽいからだろう。
ここでなんとなく萩尾望都氏の「イグアナの娘」を思い出してしまった。そちらの作品では娘の姿がイグアナに見えるのは娘と母親だけで、母親の出自を度外視すれば、作品中の荒唐無稽設定は母娘に共有された幻覚・妄想とすることができ、そのように読んで作品中の出来事や心情の辻褄があってしまう。そこを参考にすれば、本作品はそれぞれに家族関係に痛みを感じていて、それに呻吟する父娘と小学生女子が共同して作りあげた美しい幻である。吉本隆明は私的幻想と共同幻想の間に対幻想をおいて対幻想は共同幻想と逆立すると言ったが、本作品の美しい幻は3人のために世界はあるの状態で、それはそれで共同幻想とは両立しないし、他所んちのガキとかそういうことも関係なくなってしまう。筆者の述べるリアリティとは、所詮は共同幻想上の約束事に過ぎない。そう考えると本作品の今後の展開も気になってしまう
こういう解説を聞くと、田中ロミオ(山田一名義)の過去作品「家族計画」を思い出すなぁ‥‥‥私も何も考えずにエロゲ楽しんでたあの頃に戻りたいなぁ(´;ω;`)
3巻の真ん中あたりまで読むとようやくキャラクターが定まってきて面白いなと感じられるようになってきました
みたいに、かなりイライラしながら読んでいたのですが……
ただ、そういうつぎはぎのエピソードを積み重ねていくうちにちょっとずつキャラクターが固まっていくと、違和感もすこしずつ薄れていくし面白いなと思えるようになってきます。
「こいつらこの問題どうするんだよ」と不満に感じていたところも、あくまで作品内で取り扱う順序が違うだけで、作品でこの先ちゃんと扱って解決していくのだということがわかってきます。これでようやく安心感が出てきて、素直に作品を読めるようになってきました。
そうだよね、自分だって自分の生活で問題が発生した時一つ一つ丁寧に解決して次にいってるわけじゃないもんね。この作品あまりに目に見えてる地雷をそのまま放置してて「まるで問題を見ないようにしながら」幸せだー幸せだーって連呼してるような感じだったので見ててハラハラしてたけど信じて見守ってもいいのかも?

- 作者:村田椰融
- 発売日: 2019/10/16
- メディア: Kindle版

- 作者:村田椰融
- 発売日: 2020/02/14
- メディア: Kindle版
上で引用したくまじさんもそのように書いてます。
それにしてもここまで本作品に関して夫・娘が小学生女子の実生活に無頓着であることに違和感を持ったのだが、本巻ではようやくその辺に関して物語が動き始めた。その上でいろいろあって現世側の葛藤が消化されて妻・母が無事成仏というのがもっともありふれた展開だと思うのだけれど、とんでもない別ルートに行くか、王道を行きながらしっかり泣かされるのか。
というわけで、現時点ではまだ評価低めですが、取り組みとしてはとても面白いと思うのでこの先も見守っていきたいと思います。(だいたいこういう動機で読んだときは後悔することが多いです。この前も「異常者の愛」は最後がっかりだったしなぁ……)
でもゴメン、この作品は自分としては買うほどではないと思うし、結構人気があるみたいでブックオフで安定供給されてるので、今のところは立ち読みですね……皆さんにもこの本を定価で買うのはちょっとお勧めできないかな……。一応kindle unlimitedなら3巻まで無料だし、prime会員も1巻は無料で読めるので読むならそれで読んだ方がいいと思う。