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「命令されなきゃ、憎むこともできないの?」(ブルーアーカイブ#3 エデン条約編3.私たちの物語)

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「容疑者Xの献身」  この作品を好きでもし「スロウハイツの神様」をまだ読んでないなら絶対に読んでほしい……

とある方からぜひ読んでほしいって強くプッシュされたのでサクッと読んでみたのですが、いい話だった……。


お勧めしてくれたSさん本当にありがとうございます。


ここ最近つまらんネットの些事でいろいろと消耗してたのですが、そういうの全部忘れて没頭できました。



最初は「金田一少年の事件簿」の「首つり学園」編程度の話だと思っていたら、期待値をいい方向に大きく上回ってくれてとても面白かった

しきりに「P≠NP問題」の話をしていたので、石神が仕掛けたストーリーをひっくり返すだけの話だと思っていた。

私がこの概念と初めて出会ったのは「金田一少年の事件簿」の首つり学園編であり、そんな感じでストーリーが進むのかなと思っていた。
www.tyoshiki.com


でも、よくよく考えれば、作品は最初から読者に対して、犯行現場を見せてくれている。
そのうえで「P≠NP問題」という概念を紹介してくれている。

君たちがしていることは、彼の証明方法をなぞっているだけだ。
君たちがすべきことは、他に答えがないかどうかを探ることなんだ。
彼の提示した答え以外には考えられない。そこまで証明して初めて、その答えが唯一の解答だと断言できる。

ここまで書かれているのだから、読者である私たちも東野圭吾が誘導しようとしている答えの方向に警戒すべきだった。

見事にやられましたw 



容疑者である「石神」と探偵役の「湯川」の、お互いを良く知っていて全く相手を侮らない全力のぶつかり合いがものすごく好き

この作品は、石神と湯川の他の人間には想像すらできない強い結びつきがとても印象的だ。


「湯川が石神のことを好きすぎてやばい」のだ。もう「飛影はそんなこと言わない」レベルの妄執を感じる


dic.pixiv.net


石神が犯したミスはとても些細なことだったし、湯川でなければ絶対に気づかないようなことだった。

石神という人物は、容姿など絶対に気にする男ではなかった。
人間の価値はそんなものでは計れず、それを必要とするような人生など選ばない、というのが昔からの主義だった。
そんな彼が外見を気にしている。
彼は確かに髪が薄いが、そんな今更どうしようもないことを嘆いている。
それで僕は気づいたんだ。
彼は外見や容姿を気にせざるを得ない状況にいる、つまり恋をしているのだとね。

これさえなければ、湯川はそもそも彼を疑うことはなかったと思うと、湯川の石神に対する神格化に近いレベルの信頼はちょっと怖い。



ここから先も、湯川以外は彼が出した「偽の解答」を疑おうとは全くしなかった。

湯川だけが20年前に見た彼の天才ぶりをずっと信じ続けた。
20年間全く交友がなかったのに、大学の時の強烈な印象だけをもとに、石神の優秀さがいささかも衰えていないことを疑わなかった。


「石神だったらこんなずさんなことはしない。この違和感のある行為には必ず意味がある」と疑い続けた。

「あの石神がそんな初歩的なミスを犯したのか?」

「どんな天才だってミスはするさ」

「あいつはそんなことはしない。」

「考えすぎじゃないのか?あいつは数学の天才かもしれないが、殺人には素人のはずだぜ」

同じことさ。殺人の方が彼には優しいはずだ」(p243)


その果てに、普通の人間だったら想像することできない「石神」の真の狙いに気づいてしまう。
それでも、湯川は顔をゆがませながら「石神という人間は、それができるやつだ」と認めた。

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これほどまでに信頼しあえる存在はこの世に二人とはいないだろう関係が、不運な出会いによって敵対し引き裂かれるのは悲劇としか言いようがないが
一方で、こういう事件があったからこそ、二人の天才がお互い全力でぶつかり合うという話になっているのが面白い。


というか、これ「スロウハイツの神様」だ……。

死体を完璧に処分するのは困難だ。
どれだけ巧妙にやっても、身元の判明する確率をゼロにはできない。
また、仮に運よく隠せたとしても、彼女の心が安らぐことはない。
いつか見つかるのではないかとおびえながら暮らすことになる。
彼女たちにそんな苦しみを味わわせることは耐えられなかった。

彼女たちに安らぎを与えるには方法は一つしかない。

この物語の真相を知った時に思い出したのは「スロウハイツの神様」だ。


彼がやった「献身」の中身に衝撃を受けた後、なぜ石神はここまでの「献身」をしようとしたのか。その動機こそがこの作品の最大のポイントだと思う

そして、彼がやろうとした「献身」は「スロウハイツの神様」で見たものと同じだ。

あの母娘を助けるのは、石神としては当然のことだった。
彼女たちがいなければ、今の自分もないのだ。

彼女たちは身に何の覚えもないだろう。
それでいい。
人は時に、けなげに生きているだけで、誰かを救っていることがある。

この話は、決して交わらない、交わってはいけない恩返しの話。絶対に知られてはいけない「秘密」によってとても美しいものとなるはずだった。


だけれど、この作品の場合、その献身の内容が内容だけに湯川はその美しい秘密を暴き、ズタズタに破壊しなければいけない。
この時の湯川の苦悶は想像するだけで切ない。



というわけで、もうずいぶん昔の作品だけど読んでとても楽しめました。紹介してくださった方、本当にありがとうございます。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

  • 発売日: 2014/02/19
  • メディア: Prime Video


「容疑者Xの献身」が好きだという人は、絶対に「スロウハイツの神様」を読んでほしい

「容疑者Xの献身」に唯一難点があるとすれば、読者からすれば石神が献身しようとした人間にあまり魅力を感じられないしあまりにも無力だということだ。

もちろん、その方が石神の献身の価値が上がるし、一方的な自己満足に過ぎないことも描けるからだ。この作品は、あくまで石神と湯川の対決であり、献身の対象は読者にとってはそれほど重要ではないから仕方ないね……。



これは、「かぐや様は告らせたい」において、「石上」が救おうとした「大友京子」が読者から見た時に魅力的でないのと同じだ。こちらに至っては「石上」は彼女のことを好きですらないんですよね。 というか、石上くんのエピソードって絶対に容疑者Xの献身を意識してるよね。
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このあたりに不満を感じるかどうかは人次第だと思うが、もし不満を感じるのであればぜひ「スロウハイツの神様」を読んでほしい。

ネタバレになるから詳細は言えないけれど、この作品の献身の対象はめちゃくちゃ魅力的だし、全く無力ではない。

「スロウハイツの神様」はミステリ作品だがこの「容疑者X」の秘密が、作中の人物には秘められたまま知られずに終わる話だ。

きちんとその献身は「相手に知られない形で」報われる。

作中のキャラクターは厳しい世界ではあるけれどもそれぞれの道をみつけて前向きに歩んでいく終わり方になる。

とても切ないけれどもぐうの音も出ないようなハッピーエンドを迎える作品だ。 絶対に読んでほしい。


陳腐な推し方になるけれど、初めて読んだときはとあるシーンでボロ泣きした。

誰かの不幸で泣かせに来るとかじゃなくて、
作中のある人物が抱えてきた感情が湧き出てくる描写におもいっきり引っ張られて
自分の中からも強い感情が内から湧き出てきて抑えきれずに涙として出てきた。

物語でここまで感情を揺さぶられる経験ってそうそうないと思う。
私は今でもこの作品読んだときの読書体験は忘れられない。

しかも先に述べたように、この作品の終わり方はとてもハッピーエンドなんですよこれが。
創作をテーマにした話でもあるのでそういうのが好きな人にはたまらない奴だと思う。


未だと漫画版もあるので絶対読んでみてほしいです。

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

www.tyoshiki.com



「容疑者Xの献身」や「スロウハイツの神様」ほどではないけれど、類似のパターンとして「マグダラで眠れ」もすごくお勧め。

マグダラで眠れ (8) (電撃文庫)

マグダラで眠れ (8) (電撃文庫)

  • 作者:支倉凍砂
  • 発売日: 2016/02/10
  • メディア: 文庫